代償【1】
仕事休みの日、セツが閉じ込められていたという場所に連れられた。
電車に乗り、馴染みのある街並みを歩き、到着したのは俺の実家だった。
「いや、ここ俺ん家だけど」
「うん、ここが僕を閉じ込めていた場所」
門扉を抜けてズカズカと敷地内に踏み込み、玄関の鍵を開けるセツ。
いやいや、冗談が雑過ぎる。
実家にセツが閉じ込められていた?
本当だとしたら、俺何も親から聞かされてなかったんだけど。
親との連絡は父さん相手が多かった。
母さんとも連絡を取っていたが、途中で父さんからの連絡が多くなり、自然と父さんとだけ連絡を取っていた。
次第に母さんとの連絡はなくなった。
両親は一緒に住んでいるのだから、母さんに何かあれば父さんが教えてくれるだろう。
今までも、母さんとの連絡で父さんの様子も聞いていたので、同じような感じだろう。
そう思っていた。
それに父さんが元気ならば、母さんも問題ないとも思っていたから、母さんと連絡を取らなくても特に気にしていなかった。
ここ数年は実家に帰っていなかった。
帰るとしても年末年始だが、両親は、じいちゃんばあちゃんの家に帰るので、実家には誰も居なくなる。
俺も一緒に行く方法もあるが、親戚が集まるので画家を目指していた事をいじられるのが目に見えている。それはそれで気分が悪くなるからな。
だから年末年始も実家に帰らず、マンションで過ごしていた。
そういえば、最近は父さんともあまり連絡を取ってなかったな。
俺も仕事が忙しかったから、連絡が出来ていなかった。
……思い返してみれば、俺の誕生日にも連絡が来ていなかった。
家に入り室内を見回したが、親は居なかった。
どこか出掛けているようだ。
セツの話を信じるとすると、実体化してから数年、アイツは俺の実家で過ごしていた事になる。
そして雪斗も実家を出入りしていた事になる。
分からない。
この状況が全く。
家の中は大きく変わった様子はなかった。
2階にある俺の部屋も特に大きく変わっていない。
ただ気になるのは、やたら画材道具が増えている事だ。
最近買ったような新しいものもある。
「僕、アオちゃんの部屋を使ってたんだ」
「……ちょっと待て。ついて行けない。いろいろと整理させろ」
「いいけど、僕に訊かれても分からない事もあるからね。例えば、何故アオちゃんの実家に僕が閉じ込められていたのか、とか」
セツを実家に置いたのは雪斗だもんな。そこはセツでも分からないのだろう。
だったら親に聞くしかない。
その前に、俺が数年ぶりに実家に帰ってきた事で困惑させるかもしれないが。
親は何年もセツを預かっていた事に抵抗はなかったのか?
というか、雪斗とセツは見た目が同じなのに、何とも思わなかったのか?
それに、俺の部屋の画材道具が増えているのはどうしてだ?
セツが実家にいたという話は、やはり信じがたい部分がある。
でも、コイツは嘘をついているようには見えない。
とりあえず、一つずつ訊いていくか。
「俺の部屋に閉じ込められていたのか」
「いや、この家の中は自由に移動出来た。自室として与えられたのがアオちゃんの部屋」
「何で画材道具が増えてるんだ。絵を描いていたのか?」
「君の親が時々道具を買ってきていたよ。僕は絵を描いてない」
「俺の親は、お前の事を誰だと思ってた?」
「それは分からない。でもいろいろと良くしてくれたよ。ご飯作ってくれたりお風呂沸かしてくれたり」
「何て名前で呼ばれていた?」
「それは訊かないで」
急に語気強くセツは答えた。
「……え、何で?」
「答えたくないから」
「それだと、お前や雪斗の事を解決しようがないだろ」
「言いたくないっていってるでしょ。しつこい男は嫌われるよ」
「じゃあ、何のためにお前は俺をここに連れてきたんだ……」
話している途中で、玄関の鍵が開く音が聞こえた。
俺たちが家に上がってから鍵を閉めていたので、開けたとするならば親だ。
セツが答えないならば、親に訊いた方が良い。
返答を訊く前に、俺は玄関に向かった。