分離衝動【4】
この超常現象は本当に起こっている事で間違いないと俺は理解した。
俺の分離衝動や目の前の18歳の姿で存在する雪斗がその証明だ。
ロクに面識のないコイツが俺の好物を知っていた事も証明になる。
コイツを消失させないと、本体の雪斗は目を覚まさないかもしれない。
消失させられるのは、どうやら俺しかいない。
ただ、俺の未来に影響が出てくる。今過ごしている安定した日々は享受出来なくなるかもしれない。
それでも――
「別にいいよ。俺はお前を消失させる」
青りんごソーダの蓋を開け、俺はジュースを一口飲んだ。
ぬるくなっていたが、ギリギリ美味しさを感じられる。
「15年前の事を引きずっていたんだ。このまま雪斗が意識を取り戻さなかったら、また突き落としを受けるかもしれない。それならやってやるよ。今の日常が変わってでも、未来が変わってでも、俺が責任もってお前を消す」
雪斗は一瞬きょとんとしていたが、声を出して笑いだした。
「『やってやる』って。そもそも君に拒否権はないんだけどね」
「で、具体的にお前を消すには何をすればいいんだ?さっさと教えろ」
「急にせがまないでよ。こちとら高校生なんだから、はたから見れば恐喝にみえるよ」
そうだねぇ、と雪斗は少し考え、思いついたように俺に話した。
「僕が閉じ込められていた場所に行ってみる?何か手がかりが残っているかもしれないよ」
「そうだな。そしたら今度の休みに行くとするか」
今日のところは話を終わらせようとした時、ふと俺は疑問を抱いた。
「雪斗って、どこで寝泊まりしてるんだ?」
「ひとまず、今まで閉じ込められていた場所で過ごしてる」
何とかうまく生活はしているってところか。
「ねえ、アオちゃん。僕の事は雪斗って呼ばないで。外でそう呼ばれているところを聞かれたら、雪斗とは別人としてやってきた意味がなくなる」
「じゃあ、なんて呼べばいいんだ」
「僕の事はねぇ……。そうだ、セツって呼んでよ。雪斗の“雪”を違う言い方でセツちゃん」
両手の人差し指を両頬に当ててウインクしながら雪斗、いや、セツはそう言った。
「なんか、お前の芋娘コーデと合わさって余計昭和くさいな……。じゃあ、とりあえずまた今度な。あと青りんごソーダ、ありがとな」
「……その立場でジュース貰っただけでお礼言うなんて、アオちゃんって面白いね」
玄関でセツを見送った後、アイツが残していった缶ジュースを片付けようとした。
「あれ?アイツ全然飲んでないじゃん。そんなに不味いか?」
もったいないが、台所で流して捨てた。