分離衝動【1】
俺は小さいころから、絵を描くことが好きだった。
最初は落書きから始まったものだが、自分が見たものや感じた事を絵に残すのが楽しかった。
いつしか風景画を好んで描くようになり、小学校の授業で高評価を得たり、地区のコンクールでは賞を取ったりした。
両親も俺の才能をみて喜び、いろんな画筆や絵具を買ってくれていた。
幼馴染の雪斗も、俺の絵を見ては、いつも褒めてくれた。
俺の将来の夢は画家になる事だった。
しかし、それは一時のことでしかなかった。
中学校、高校と美術部に所属し様々なコンクールに参加してみたが、賞を取ることはほとんど無くなった。
コンクールの規模が大きくなるほど、センスや技術のある奴が多く参加する。
俺も腕を磨かなければ……。
そう思い、絵を描く事に時間を費やした。
努力は人を裏切らない。
確かに、俺の技術は向上した。時々コンクールで下位の賞を取る事も出来た。
それでも、世の中には天才がいるものだ。
上位になる事はなかった。
ダメだダメだ。
こんなものでは画家になれない。
高校を卒業したら美術大学に行って、より専門的な勉強をして画家を目指したいのに。
今のレベルではダメだ。
両親も俺に才能がない事を感じていた。
「画家なんて安定した職業でもないだろう」
「好きな事を仕事に出来るのは良いかもしれないけどね、ちゃんと将来を考えなさい」
昔は俺に絵具を買ってくれていたのに、今は何もしてくれない。
背中を押してくれない。応援してくれない。
俺はどうしても美術大学に行きたかったが、もちろん親は反対した。
親に認めてもらいたい。
コンクールで上位の賞を取れば、親もきっと分かってくれる。
その思いで渾身の作品を完成させ、最後と思ってコンクールに参加した。
結果、何の賞も取れなかった。
俺は提出した絵を改めて見てみた。
そこには、俺が描きたかった絵は描かれていなかった。
賞を取る事だけを意識した、いわゆる万人受けするような風景を絵画技法を駆使して描いたものだった。
こんな作品を描くなんて……。何が画家になりたいだ。
必死に入賞にすがろうとする、みっともない自分に嫌気が差す。
「アオちゃん!コンクールはどうだった?」
雪斗が駆け寄ってくる。
「ああ……ダメだった。俺みたいな奴はもう絵を描かない方がいい」
「何でそんなこと言うの?今まで努力してきたじゃない。僕はアオちゃんの描いた絵が大好きだよ」
もう、言うな。何も言わないでくれ。
「諦めないでよ。今までだって何度もコンクールに参加してきたでしょ」
俺の心の中が、ぐるぐると渦をまいている。
「僕は君をずっと応援しているんだから」
感情が、ついに氾濫した。
「放っとけよ!」
俺は闇の中に突き落とされる感覚に陥った――