15年越しの後悔【3】
「人は何か精神的に強い“突き落とし”を受けた時に、後悔や疑念といった感情をもつ衝動が生まれて、それが自身から分離する。普通は時間の経過とともに実体のない衝動は薄れていって、いつか消えてなくなる。でも君の場合、分離した衝動が15年間もずっと残っていたんだよね。君が毎日毎日、あの出来事を心のどこかで考えていたから」
女子高生はクスッと笑いながら話を続ける。
「今回、君は15年前の出来事と向き合った。分離衝動の存在を意識した事で、それが実体化してしまい、この世に存在するものとなった。つまり君のドッペルゲンガーの正体は分離衝動。そして、あの分離衝動は何をしようとしているでしょう?」
分かってるよね、と付け加えて俺の顔の覗き込む。
正直、超常現象のような事を言われて、はいそうですかと信じられる訳がない。
だが、この子が俺の過去について話している内容は事実だ。
俺は15年間、雪斗に対して言ってしまった事をずっと考えていた。
もし、分離衝動の事が本当だとしたら?
あのドッペルゲンガーは、高校時代の俺ではないのか?
結論を出す前に、俺は無意識に雪斗の自宅へと走っていた。
ドッペルゲンガーはどこかに隠れているのか、雪斗の自宅周辺からいなくなっていた。
雪斗、夜にいきなり訪ねられて迷惑するだろうな……。
ましてや、雪斗と会ったのは15年前の出来事が最後だった。
気まずい。あからさまに気まずい。しかし、ここまで来たからには……。
深呼吸して、俺は雪斗の自宅のインターホンを鳴らした。
「夜分遅くに失礼します。あの、城田蒼ですけど」
玄関を開けてくれたのは雪斗の母だった。
「え……蒼くん?急にどうして?全く連絡取ってなかったのに」
「突然で驚かせてしまい、すみません。あの、雪斗はいますか」
「……雪斗は入院しているのよ。事故に遭ってね、意識が戻らないの」
その言葉を聞いて、目の前が真っ黒になった。
突然訪問した俺の様子が普通ではないと感じた雪斗の母は「何か事情があるんでしょう」と雪斗と面会させてくれる事になった。
時間的に今からでは難しかったので、翌日病院に行く事となり今日は家に帰ることにした。
あの女子高生は、いなくなっていた。
翌日、俺は雪斗の母に同行して入院先の病院に出向いた。
雪斗は、静かに眠っていた。
食事が摂れていないから、栄養を流す管を体に入れられていた。
雪斗の母曰く、事故に遭った1か月前から意識がないそうだ。
怪我自体は重症ではなく、状態としては安定しているとの事。
目を覚まさない原因は過剰な精神への負荷。いわゆる重度のストレス。
雪斗が必ず意識を取り戻すと信じて、家族は延命治療を希望しているとの事だった。
そうか。
ずっと目を覚まさないのか。
ようやく、雪斗と会う決心が着いたのに。
「……俺は15年前にお前に酷い事を言ってしまった。八つ当たりもした。でも当時の俺は、そんな自分を認めたくなかった。『俺は悪くない。口を挟んでくるお前が悪い』って。間違っていたのは俺なんだ」
雪斗の顔を見るが、全く反応はない。
「雪斗、ごめん。俺が悪かった。お前につらい思いをさせてしまった」
雪斗の表情は動かない。
「頼むよ……。目を開けてくれ。ちゃんとお前に謝りたい」
それでも、雪斗が目を覚ます事はなかった。