15年越しの後悔【1】
『放っとけよ』
『お前と出会わなければ良かったんだ』
蹲った俺が、そう呟く。
その俺を、別の自分が後ろから見ている。
毎日のように同じ夢を見る。
いや、過去に起こった出来事を夢の中で思い出している、と言うべきか。
もはや慣れたものだ。特に気にもしていない。
社会人をしていると月日が経つのが恐ろしく早い。
仕事は特に目立った業務がある訳でもなく、デスクワークをこなす日々。
実は本日で33歳になるのだが、これといった役職もなく平社員を貫き通している。
ちなみに独身も貫き通している。
しかし、それで構わない。変化のない、安定した日常が一番幸せなのだろう。
ちなみに彼女もいない。つまり――
「誕生日おめでとう!俺!」
仕事帰りに、俺は行きつけの屋台で一人酒を楽しんでいた。
「城田くん……誕生日なのに、いつもと変わらない日を過ごすんだね」
屋台の店主、道永さんが呆れたように声をかけた。
道永さんが営む屋台“みっちゃん”に俺は毎日のように通っている。
ここの焼き鳥は格別に美味い。絶妙な甘辛のタレが最高だ。
「彼女いないのー?ウチに食べに来てくれるのはありがたいけど、今日はせめて彼女とか連れて来てよ」
「俺に彼女なんていると思う?俺の好きなタイプ覚えてる?」
「ああー……手羽先を綺麗に食べる子だっけ?マニアックで引くよね」
「食べ方が綺麗ってのは大事だよ。それと、手羽先を食べた後におしぼりでベタベタした手をしっかり拭く子が好き」
道永さんが愛想を尽かせて他の客と話し始めた事に気づかず、俺は永遠と大きな独り言を続けていた。
いつものように酔っ払った。
決して誕生日だからといって酔うほどに飲んだ訳ではない。
これが俺の“普通”なのだ。
自宅のマンションに帰る途中、いつも寄るコンビニに行って明日の朝食のパンと缶コーヒーを買う。
さっさと家に帰って寝よう。風呂は面倒くさい。明日の朝にシャワーを浴びるようにしよう。
毎日毎日、この繰り返し。
朝起きて、仕事して、酒を飲んで、家に帰って寝る。
33歳になったけど何も変わらない。
これからもずっと。
俺が望むものは、こんな日常だ。それでいいんだ。
そんなことを考えながら、買い物を済ませて店の外に出ると、一人ぽつんと女の子が立っていた。
高校生くらいの年齢で整った顔をしている。ただ、ダボダボのスウェットを着て膝より長いスカートを履いており、長い髪を指先で遊ばせながら遠くを見つめていた。
なんだろう、どことなく芋っぽい。
誰か待っているのだろうか……ってオイオイ。今何時だと思ってんだ。高校生が歩き回る時間帯じゃないだろう。
こういうヤツは関わらない方が良い。もし関わってしまったら今時の高校生は動画を撮って速攻でネットに晒すに違いない。社会的に抹殺される。
不審げに俺が女子高生を見つめていると、俺の視線を感じたのか、その女子高生は俺を見るや否や軽蔑するような目で言葉を発した。
「放っとけよ、社会のゴミが」
……え?見ず知らずの他人に辛辣過ぎない?