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エンゲージ≪呪われ男と泣き虫少女のギルド依頼譚 ≫  作者: カンパニュラ
プロローグ
2/6

1

 




「――ギルド“火竜(かりゅう)”よりお越しいただいた、イグニス殿だ。」




 木を中心にした家々が並ぶ、のどかな田舎町の入り口を背景にして仰々しい白い服の集団の前で、依頼人の男からそう紹介を受けた。

  別に面倒だとは思わない。

  依頼で席を外した相方が戻るまでの間、こちらも別の依頼をこなした方が効率がいいだけの話だ。

 ただ紹介をした男含め、目の前に並ぶ白いローブを纏った集団の前で、わざわざ紹介されるのは、恐ろしく苦手だ。

  黒い天パと寝癖が混ざったボサボサ頭を掻きながら溜め息を飲み込んで、彼は声を絞り出す。




「……銅級ギルド火竜の一人、イグニスだ。お……あ、いや……――あなた方の護衛を引き受ける。」




 …愛想のいい相方を見習って、一応名乗って軽く会釈をしてみたが、集団(と言っても数え直したら八人か)の中で会釈をし返したのは僅か一、二人という有り様だ。

 何というか、どいつもこいつも偉そうというか、どこか高飛車な空気を纏っている。「仕事さえしてくれれば紹介されてる男のことなどどうでもいい」と言わんばかりに関心がない。

 いや、彼に限らずつい先程紹介された別ギルド・鉄煌石(てっこうせき)の三人に対しても同じような態度だったが。

 その三人も、こいつら苦手と言いたげな何とも言えない表情を隠す気さえないようだった。


 彼らは学術都市“マボ”よりこの島“スヌーベウ”で新たに発見された遺跡の調査に来た所謂調査団だ。

 遺跡にて見つかる遺物や過去の技術、魔術機構から当時の生活水準までありとあらゆる情報をかき集めて研究するのがマボからやって来た彼らの役割だ。


 ローブと同じく白を基調とした都市は広くはないが貴族やエリートを中心に人が密集して暮らしている。錬金術と古い科学を組み合わせて作り上げた背も料金も高いマンションに暮らすような上級クラスの人間がこんな場所に来るのは学術都市としての意地か威信かプライドか、はたまた純粋な興味か。…いずれにしてもこののどかな田舎島の住民については、見下している者が大半だろう。


 とはいえ、マボの研究した結果は歴史的発見に繋がったこともあるし、発見した遺構で新たな魔術式のベースやマジックアイテムを生み出したこともある。ただ高飛車なだけではない。それに見合うだけの能力と知識量、知能や考察力が優れているということだ。元々の学や才能もあるだろうが、努力の末に掴み取ったものが大半だろう。

 …まぁだからと言って、好きになれるかどうかは全く別問題だが。少なくともイグニスは好ましくは思えない。


 魔物を殆ど駆逐し切った都市から、魔物やら野性動物が蔓延るスヌーベウにわざわざやって来た物好き共に、知識はあっても戦闘能力はない。

 だからこそ火竜や鉄煌石のような“傭兵ギルド”の出番なのだ。

 対象の殺しから護衛まで危険度はピンからキリまである。

 今回は少数精鋭による護衛だった。

 まぁそれについては別にどうでもいい。

 こちらも護衛対象にさして興味はない。


 ……というかこちらだって言いたいことは幾らかある。




「……なぁ、…名前…あぁ、リスキーだっけか……一応確認していいか。」


「は、何でしょうか。」



 自分を紹介した男――リスキーなどという妙に縁起でもなさそうな名前の髭男にイグニスは声をかける。



「……護衛人数は五人程度聞いていたんだが。しかもあんた以外全員ガキってどういうこった」


「あぁ、増えました。」


「いやだから……何か……全員、若くないか?」


「あぁー…メンバーが、ちょっと変わりまして…」



 あまりにもあっさりと、簡潔に答えられて堪らず頭を抱えた。

 鉄煌石のギルドマスターのカズも目を剥いた。



「……あいつら歳の頃からして学生だろ?それで怪我人増えたら対処のしようがねぇし、こっちとしても責任取れんのだが。せめて何人か置いてはいけないのか?」


「いやいや、申し訳ない。我々としても必要な人手ですので、置いていくのはちょっと…。それに魔物避けの魔術を使える者もおりますので、お邪魔にはなりますまい。」




 やはりそれがどうした、と言いたそうなリスキーにイグニスは頭を抱えた。


  魔術とはつまり、詠唱が必要ということで。

 その詠唱時間を稼ぐための前衛があまりにも少ない。

 鉄煌石は頼りになる。

 今日来たメンバーの三人は全員男で、その内一人は姿は人とさして変わりはないが、角が生えた大柄な種族、肉弾戦が得意で一人で人間十人分の働きをするとも言われる“鬼族”だ。

 先程名を上げたカズに至ってはその鬼族のメンバーさえ凌ぐような洒落にならない実力者との噂で、イグニスも正直本気でやりあいたくないような手合いだ。


 だが正直連絡ぐらいしてほしかった。

 魔術を使えると言っても、魔物と出会したこともないような上級民、しかも戦闘について完全に素人であろう彼らが、いざというときにまともに詠唱し、冷静に魔術を発動出来るだけの精神性があるとはイグニスにもカズにもとても思えなかった。

 もっと言うなら相手の数が少なければ何とかなるかもしれないが、今回調査するという遺跡は森と同化している。こちらに気付かれないよう草むらから足音を殺して群れで不意打ちしてくるような野性動物が住み着いているだろうし、そもそも魔物についても魔術を使えるような化け物もいるかもしれない。

 つまり、そうでなければ彼らの言うとおり邪魔にならないどころか戦力にはなるので万々歳なのだが、その余裕が撃ち壊された瞬間にパニックが起きる予感がするのだ。

 もしそのまま蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑ってしまえば、リスキーを入れた九人を、傭兵四人でカバーし守り切るには心許ない。




「そんな理由で俺達が納得するとでも思ってんのか?」


「火竜のあんちゃんの言う通りだぜ、いくら何でもそりゃねぇだろリスキーさんよォ?」




 上手くはない話術と、今にも噛みつきそうなカズの援護もありつつ詳しく事情を聞くと、表向きは当たり障りのない言い方をしつつも通念石――魔術に必要なものであり、精霊達が産み出すものであり、万物に宿る生命のエネルギーでもある自身のマナを消費し、対象に思考をテレパシーとして送ることが出来る魔石の一種を通して教えてくれた。


 つまりはこういうことのようだ。


 ただ少なくとも、態度があれだったリスキーにとっても今日のこれは好ましく思ってる状況ではないようだった。

 曰く、本来は正規の調査団五人で危険がないか、町から入り口周辺までどれ程時間がかかるかなど実際に歩いてみて下見する予定だったのだが、マボの貴族に割り込まれたのだという。



 “息子が遺跡調査に興味を持った”

 “金は弾むから連れていってほしい”



 あの向こうで話が長引いて、退屈そうに辺りを見回す白いローブの一人、金髪の少年がそうなのだという。


 なら何故他の全員も高校ぐらいの子供ばかりなのかというと、全員がその息子の友人や下っ端であるらしい。

 息子の希望で「知らんやつらと一緒に行くのは嫌だ」、「それなら友人を連れていきたい」、という子供のような我儘を言い出し、しかもそれを親の権力でもって押し通されてしまったらしい。


 しかも真面目で勤勉な学生であったならせめてもの救いになりそうなのだが、どうやら彼はそうではないらしい(…いや、真面目なら我儘を押し通したりなどしないか)。

 親の権力を笠に着て、好き勝手やっているという、テンプレートのような…歯に衣着せず言ってもいいなら“大人と世の中を嘗め腐ったクソガキ”と銘打ってもいいような人間性であるようだ。ここに来たのもただの暇潰し、学校よりマシな道楽の一種のようだ。

 当然反感はあったが、陰で下手に口を滑らせてしまって仕事を奪われた同僚がいたのだという。ちょっとした不平不満だったのだが、それを聞き付けた取り巻きから息子へ、息子から父へと伝わってしまったらしい。恐らく歯向かえば同じ目に遭わされるだろうし、表情に出しただけでもこの島の調査担当は外されかねない。

 あまりにも横暴だが、学術都市の学校や企業に多額の寄付や出資を行ってることもあり、誰も逆らえない。

 あの少年の家はマボではそれだけの権力を持っているというのだ。


 当然取り巻きも息子程ではないにしろ相応の上位民であり、彼らの誰に怪我をさせても少しマシ程度の似たような沙汰が下されるだろうとのこと。

 だから仕方なく、というより泣く泣く本来の調査を延期させて、学生の調査体験として入り口まで行かせて危険のない内に何とか帰らせよう――というのが今日のこと話であるらしい。



『なので皆様方には本当に申し訳ないが、その道中までの護衛だけをお願いしたく……報酬は本来の額から上乗せしてお支払いたしますから……』



 ……最初はいい印象を持てなかったが、ここまで聞くとかなりリスキーという男が不憫に思えてきた。通念石越しで脳内に聞こえる彼の声は本当に悲哀を誘うような疲れ切った謝罪と懇願の言だった。

 それでいてかなりの切れ者でもあるのか、表向きは上手いこと平常を保って、思考とはまるで違うことをペラペラと話している。…いや、そうでもしないと仕事を奪われるということなのだろうか。


 


「お互いハズレ引いちまったなァあんちゃんよ…」


「否定出来ねぇ……」




  イグニスより幾らか年上であろうカズが、こっそり年齢的に後輩の彼の肩を慰めるように軽く叩いた。

 もう既にお互いげんなりしているが、時間的に他ギルドへの救援は望めそうにない。何故ならリスキーの表向きの弁明をしている時間が長引く程に、貴族の息子のイライラした視線が突き刺さるようになってきたからだ。




「…なーおい、まだくっちゃべってんのかよ?」


「あ、」


「早くしてくれよ、俺を誰だと思ってんだ。ラウボス・ミラ・メドゼだぞ。こっちだって暇じゃねーんだよ。」




 知らねーよ、ってか最後については大嘘吐けよ。

 奇しくもイグニスと鉄煌石三人の心の声が一致した。

 ってか何だその前髪、クルンッてしやがって。指でしょっちゅうクルクル巻いて弄ってやがんのか、髪引っ張りすぎて将来禿げてしまえ、などとイグニスに至っては独断と偏見混じりで、口にしたら確実に神経を逆撫でにするであろうことまで思い始めた。


 だが依頼主の縁者であり、腹立だしいことに貴族だ。他国の人間が相手でも影響力は強い。警察組織や騎士団と比べれば影響を受けにくい、独立してる組織であるギルドとはいえ下手に刺激してこの先の依頼の来具合に影響があっても困る。

 依頼とそれに見合うだけの報酬があるなら何でもやるのがギルドだ(とはいえ仕事を選ぶ権利はあるので、流石に暗殺だとか物騒なのは選ばないし、そもそも依頼する時点で犯罪なので来ない)。

 警察や騎士団と違い、ギルドは令状やら手続きやら何やら面倒なものがなくても済むのはいいのだが、人の噂とは恐ろしいもので悪評が広がれば一気に仕事が減る。それは避けたい。

 この仕事さえ終わってしまえば縁もゆかりも切れてしまうだろうが、リスキーはそうは行かない。今を口を出したら彼に飛び火することだってあり得る。これも避けたい。


 リスキーは、これはこれはラウボス様申し訳ございません、と慌てて名乗った貴族の息子の機嫌取りに向かった。…情けないが彼に任せるしかなかった。腕っぷしに自信はあるが、こういう下手に出ると言うのはどうも苦手だった。実力主義の世界で生きてきた彼にはどうしても、階級主義の貴族の世界というものに理解は示せそうにない。



「しかし、あのリスキーのおっさん、」


「……あ?」


「事情は分かったけど、わざわざ俺達にそんなこと漏らしちまって大丈夫かねぇ?守秘義務ってもんがあんだろォ?」



 リスキーがラウボス達を落ち着かせようと宥める隙に、こっそりカズが先程の話の内容について話題を振る。




「………さーな。まぁ、その辺も分かってて喋ってんだろ。色々と腹括ってんじゃねぇの?」


「そーかなぁ。何か引っ掛かるんだよなぁ。」



 イグニスの返答にカズは頭を悩ませているようだったが、ここで鬼族のギルドメンバーから余計な茶々が入る。



「ってか大将も大概おっさんに片足突っ込んでるだろうが。何自分はまだちょっと若いみたいに言ってんだ」



 彼がからかうように笑うと、違うわボケ、そういう意味じゃねぇ!ってか俺実際まだ26だしギリ若いわ!とカズは、ベシベシと軽く大柄な部下の背中を叩く。よくあるやり取りなのか鬼族ももう一人のギルドメンバーも声量は抑え気味だがくつくつ笑っている。

 その間にイグニスは一歩離れた。




(…………ん、)




 宥めるリスキーに愚痴や文句を言いたい放題勝手を言い始めるラウボスや、それに続く取り巻き達から少し離れた端の方。

 そこにいたのはボブ程度の赤茶色の髪を持った少女だった。彼女だけはラウボス達に混ざろうとはせず、どうしたらいいのかとオロオロと手を迷わせている。そういえば紹介の時に会釈を返してくれた一人だったような――いや、もううろ覚えの域だ。確信は薄い。


 ずっと困ったような顔でオロオロしてるし、かといって発声はないし、手はさ迷ってるだけだったが一応ラウボス達を止めたいようだ、とは何となく挙動で分かった。何でやらないのか――と思いかけたが、まぁラウボスの態度を見れば明らかだろう。少なくとも彼女は少しまともな神経を持っているらしい。


 そんなことを思いつつ声をかけようと思ったのだが、先に少女の方が動いた。意を決したような顔をすると、ラウボスの取り巻きの一人である金髪の少女の服を後ろから軽く引いた。

 するとその学生は振り向いて、自分の服を引いたのかが誰なのかを理解するとすぐに少女の手を振り払った。それがどういう意味なのかを理解もさせずにその学生は何と、更に少女を力強く突き飛ばした。少女は転びそうになるが、二、三歩下がって何とか踏み留まった。




「触るんじゃないわよ、“黄札持ち”のくせに!!!」



  その言葉を合図にしたように、ラウボス達の標的が変わったようだった。今度は少女を囲んで睨み付ける。



「何やってんだよ“黄札持ち”!」


「やだもう、犯罪者菌が感染っちゃうじゃん!もうこの制服着れないじゃない!」


「おい何とか言ってみろよ、犯罪者!!!」



 “黄札持ち”――それが表す意味は、“要注意人物”。過去に軽犯罪を犯すなどした罰として呪術で“彼、もしくは彼女は要注意人物である”と魂に情報を刻まれた人間である。


 体の目立たないところに小さな呪印が刻まれるだけで外見に変化はないが、就学や就職のときに呪印によって刻まれた情報が暴かれるため“黄札持ち”はその内容からして弾かれやすい。大半のところが魂の情報を表面的にでも覗くため、呪印だけを隠したところで意味はない。

 実際に札を持っているのではなく使われる呪符が黄色い札であることからそう呼ばれる(実際に魂の情報を確認するときは、特殊な魔術を使って視覚化すると書類のようになって現れるらしいが、黄札などの札持ちはそれぞれの色に変わっているらしい)。


 彼らが呼ぶような犯罪者を指して呼ぶようなものではないが、蔑称であることには変わりない。ベタすぎる虐めの現場に立ち会ってしまった。


 騒ぎに気付いたカズの顔色が変わり、イグニスはそれより早く足を動かした。


 少女は責め立てられて既に涙目だったが、町の出口を指差した。口はパクパクと動かすばかりだったが、困ったような顔で必死に身振り手振りで何かを訴えているようだった。



「分からねぇよ、クズ!!!言いたいことがあるなら声でも出せ!!!」



 しかしラウボスはその様子に苛立ちを深めたようで、手を振り上げた。それを見た少女はビクリ、と体を震わせて手で頭を庇った。



 しかし、少女が思ったような痛みも衝撃も来ない。



「――やめろ。」


「離せや下民が!!!」



 イグニスが、少女とラウボスの間に体を割り込ませて、殴り付けようとしたその手を掴んで妨害したのだった。ラウボスはイグニスの手を振り払おうとするが、ビクともしない。ラウボスが思い切り力を入れたところでイグニスはパッと手を離した。ラウボスは込めた自分の力の勢いに負けてバランスを崩してそのまますっ転んだ。



「てめぇ、俺を誰だと思ってんだこの弱小ギルドが!お前なんぞ俺の一声で捻り潰せんだからな!!?」


「だあああストップストップ!」



 引っくり返ったのが屈辱的だったのかラウボスは喚き散らしてイグニスに掴みかかろうとしたが、それから少し遅れて鉄煌石の三人も割り込んできて少女を庇うようにしながら宥める。鬼族は自分のガタイの良さを生かして鉄壁の守りを固めていた。もし別の学生がラウボスと同じような暴挙に出ても彼女には届かないだろう。



「出発しようぜェ、出発!!!いつまでもグダグダしてっからイライラすんだよ、なっ?な?」


「そうだよ、お前らが一番グダグダくっちゃべってっからだろうがよ!」


「あああ分かった!分かったから!謝るから出発しよう!歩きながら謝るから!」




 はぁ!?歩くって何!!?聞いてないんだけど!!

 馬車は!?車は!!?準備してないの!!?

 …まさか過ぎたもう一悶着を予感させる学生達にイグニスは頭を掻いた。噛み付ければ誰でもいいのか、あっさりと標的を少女からカズに変更した学生達は輪を崩して彼に詰め寄った。気付いた鉄煌石の二人もリーダーを助けようと向かう。

 歩きっつっても予定では三十分……いや、もういい。面倒臭いというかもう、呆れた。何もしてないのに疲れた。それに対応しようと奮闘するカズ達とリスキーには本当にもう頭が下がる。


 イグニスは後ろにいた少女の方を向く。




「おい、大丈夫……なわけねぇんだろうが、」


「………」


「………大丈夫か?」



 もうちょっと気の利いたことを言いたかったのだが、全く思い付かず、諦めて普通にそう問いかけた。

 だが少女はそれでも首を縦に振った。まだ潤んでいる薄い水色の瞳をイグニスの目線に合わせて、口を動かした。それはまた音にならず、少女は口を押さえた。またどうしようとか思ったのかオロオロし始めた少女にイグニスは、こういうのは柄じゃないんだがな、と思いながら言葉を続ける。



「見間違いと勘違いだったらただ恥ずかしいだけなんだが、…“ありがとう”、で、合ってたか?」


「!」



 予備線を厳重に張ってから問うと、少女は驚いたような顔をしてから頷いた。…薄々予想は付いていたが、話せないのだろうか。



「まぁ気にすんな、これも仕事だからな。」



 イグニスの言葉にキョトンとしてから、涙目こそ変わらなかったが少女は安心したみたいにニヘラと笑った。


 特別なことを言ったつもりなどない彼にとって虚を突かれたような気分になったが、まぁ怖がられるよりかはマシだ。相方にも、お前は目付き悪いんだから仏頂面になると怖いんだよ、と言われたこともある。…正直お前には言われたくねぇ。



 結局ラウボスの我儘のお陰で、その日の依頼はお釈迦になった。



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