呪~断片~
ハイファンタジーとは名乗ってますが、携帯とかカメラとか出る予定なのでローファンタジーだったかもしれません…(どっちにしたらいいのか分からなかった)
読んでみて逆だったらツッコミを入れてください…
今日は久し振りに夢を見た
正確には、“説明しがたい感覚の夢”を見た
具体的に説明しろと言われると本当に困る
それはいつも見るような、寝て覚めれば忘れてしまう夢とも、印象が強くて記憶に残るようなものとも違う、
“よくある夢とは違う”と直感的に、根拠もなく、でもはっきりと分かるぐらいだ
それでも強いて言うのなら――そう、胸騒ぎに近いものかもしれない
これを見るときはいつも“何かが起きる前触れ”であることだけはよくよく分かっていたから
幼い頃に母や父の友人を失ったときも、
父が酷い怪我をしたときも、
(…手紙見た感じだと今日もとても元気だけど、あの頃は本当に肝を潰すような思いだった)
私が故郷を離れて、遠い遠い小中一貫校に連れていかれたときも、
そのまま殆ど帰れないまま、高校も教師の勧められるままに入れさせられたときも、
内容はもう忘れてしまったが、名状しがたい“夢”を見ていた
いいことも悪いことも、いつも夢で予告されているようだった
そして、今日も
今回も内容はあまり覚えていない
ただその夢の中の風景は自分の故郷であることと、自分は自分より年下の少年にこう告げられたことは覚えていた
「俺が、貴女を守りますから。」
言葉は短いけど、なんてロマンチックな、物語で読んだ騎士とお姫様みたいな台詞なのだろうと思った
たかだか夢、それでも私にとってはかなりの救いでもあるから
そう言ってくれる人なんて、身内を省いてしまえば今まで誰もいなかったから
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でも、少女の淡い期待は現実にはならないのだろう。
真っ先に見限られた。
囮にされた。
飢えた狼の群れの中に、捨てられた。
しかも逃げられないようにと念入りに、足を拘束魔術で地面に縫い付けるという手の込みようだ。
やっぱり、と諦めはあったが、それ以上に恐怖で泣きたくなる。
でも、今は泣いたら死ぬ、
泣いたところで前にも後ろにも自分を餌として認識した狼は容赦などしてくれない。
だが自分に許された抵抗の手段など、何もない。素手でも振り回すか、という程度だ。
彼女の一番得意な得物は、誰かに隠されてしまった。嫌がらせ、にあたるのかもしれないが、今日に限っては本当に最悪としか言いようがない。
いや、得物があったところでこの数では抵抗出来るかどうかからして怪しい。
――あぁ、怖い、怖い、怖い!!
あの牙で喉笛を食い破られるのだろうか。
あの爪で腹を裂かれて、鼻先を突っ込まれて腸を引き摺り出されるのだろうか。
いや、先に後ろから飛び掛かられて押し倒されるだろうか。
殴ろうにも狼はその間合いの射程外。素手でなんて飛びかかってくるのを叩き落とすことだって出来ない。ましてや十体以上全てなど不可能に近い。逆に噛み付かれてそこから餌食になるのがオチだ。
ならば魔術で、とも思ったが、詠唱をするための声が出ない。
恐怖の叫び声だって助けを求める声だって、一つも出ない!
震える体が崩れ落ちないように堪えていたのだが、はた、と気付いてしまう。
そうか、そうだ、きっとそうだ。
ここに来ると決まったときから彼らは、自分をこうして殺すつもりだったのだ。
お前は“黄札付き”だからと馬鹿にして、石を投げて、水をかけて、髪を切って、教科書を燃やして、
物に触れれば“罪人が触れたものなどもう触れない”と放り捨てられ、
私が何か話せば気持ち悪い声で喋るなとゴミを投げられ、
何もしてなくても突き飛ばされることなんて当たり前で、
生傷が絶えなくて、
自分で治すしかなくて、
先生に訴えても耳を貸してもらえない、
お前は黄札付きだから、死んでしまっても誰も悲しまない
そう突き付けられたような気分になって、呆然としてしまう。
今度こそ、涙が零れた。
今度こそ足から力が抜けてへたり込んでしまった。
この好機を逃すまいと狼が一斉に飛びかかってきたが、もう少女には逃げようという気力さえ湧いてこなかった。
(私が一体、皆に何をしたって言うんだろう。)
足元が抜けたような絶望が死への恐怖さえ凌駕し、少女に這って逃れるという挙動さえ許さない。顔も上げられない。もう動けない。
――動きたくない。
きっとここでどうにか足掻いて生き残れて、学校に帰ったところで一生このままなんだ、
もうどうだっていい。
(あぁ、でも死にたくないなぁ)
(お父さんのところに帰りたいなぁ)
(…………死ぬときぐらい、苦しみたくないなぁ)
最早一つも叶わない我儘を、せめて願った。
――次の瞬間、目が覚めるような熱風と赤橙の光が少女を取り巻いた。
何が起こったのかは理解出来なかった。
出来なかったけど、やっぱり自分は死ぬんだな、という予感は少しも薄れなかった。
頭は上げられないが、視界の端で捉えたその光と熱の正体は――爆炎と言っても過言でない、炎の塊だったのだから。
ところが熱風は吹いたとき同様、突然に消え失せる。あれほどの熱量だったのに、少女に火傷一つ残っていない。
自分はまだ死んでいない。それを認識してからようやく少女は頭を上げた。
視界は涙で滲んでいたが、目の前に誰かが立っているのが見えた。
狼はもうどこにもいない。あるのは黒い影のような跡と、僅かな消し炭だけ。
パチパチと何かが燃えるような音だけが聞こえる、
そして誰かは、少女の方に顔を向け――