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7.いざ、玉座の間

 ふはははははは、と、魔王の高笑いが聞こえそうなおどろおどろしい城の中。

 私たちはせっせと罠をよけ、進んでいきます。


 進むにつれ、白兵戦を予想していたのに衛兵が一人もいなかった理由が分かってきました。罠の巻き添えをくわないようにするためです。何しろ次から次へと大掛かりな仕掛けが発動していくのです。


 何がきっかけなのか、崩れ落ちてくる岩。そしてそれが起点になったのか、ガリゴリと嫌な金属音がしてしまっていく扉。あはは、一見、廊下に見えていた場所の前後の扉が閉ざされて、袋の鼠になりました。しかもさらには左右の壁が動きだし、ゆっくりと迫ってきます。これはまた古風な絡繰り仕掛けです。

 今どきこんな古臭い仕掛けを作れる職人がいるのかと妙なところで感心しましたが、我が家の図書室でその手の建築家が売り込みに来た時の資料を見たことがあります。当時のご先祖様は予算不足で却下していましたが。


 侵入者を壁で押しつぶすのが待てないというように、壁の穴から仕掛けられた槍が飛んできます。


「散らばって、うかつに壁や床に触れないでっ」


 私は指示をだしながら、飛んできた鋭い穂先をやり過ごして、他にも落ちていた槍の柄をつかみます。落ちている物は使わないともったいないですからね。確かこの手の仕掛けのもとは壁の裏。歯車で動いているはず。それを止められれば。


(擦過音が一番大きいところは……)


 そこだっ。私は壁に奪ったばかりの槍を突き刺しました。が、力が足りません。石の隙間に刺さっただけです。すかさず付き従う傭兵の一人が駆け寄ってきてくれます。


「お嬢、どいてください!」


 うん。何も言わずとも察してくれる呼吸、さすがです。

 隊内一の大男、イザークが戦斧を振り回してくれます。そして気合一閃、槍の柄にたたきつける鈍い音がして、槍の穂先が壁を貫通しました。歯車が止まって、壁の進行も止まります。


「お嬢、こっちですっ」


 連携よろしく先頭の傭兵が扉をぶちやぶり、さらなる城の深奥部へと駆け入ります。いやあ、そこからの歓迎具合のねちっこいこと。


「うわ、こっちにも落とし穴がっ。えらく念入りに仕掛けてありますね」

「殿下がこの城にこもられて二年だ、暇だったんだろうな。って、言ってる先から落とし穴の底にうん●がっ。なんて陰険なっ」

「うお、今度は針だらけの落とし天井だっ」

「ぬおっ、こっちにゃ棘だらけの鎧人形が襲ってくる罠があるぜっ」

「ひいいっ、扉の向こうにメイドたちのお色気軍団肖像画がっっ」


 最後の一つはよくわかりませんが、四方八方から悲鳴が響きます。ああ、なんという執念深さ。

 微に入り細を穿つ、殿下の性癖は相変わらずのようです。次々と出てくる血なまぐさいのかあほらしいのか分からない罠の数々に、歴戦の勇士たちの戦意もがたがた削られていきます。これが計算づくならたいしたものです。


「……殿下の御領地での様子を聞くと、陛下が頬をひきつらせて眼を逸らされた理由が分かりました」


 私は抱きついてきた骸骨の腕をよけながら顔をひきつらせました。


「お嬢、本当に殿下は玉座の間におられるんで? それも罠じゃ」

「大丈夫。観戦のため動くことはあるかもしれませんが、ここぞという時は玉座にふんぞり返ってこちらを見おろしてくる、そういう人です、殿下は」


 苦手な相手な癖に、その思考回路が読めてしまうあたり自分が憎い。

 現に玉座の間がある主塔へとつながる通路が一番罠が多くて陰湿です。


 でもなんでしょう。すっ、と、頬の横をかすめた槍をよけながらも、違和感があります。

 間一髪、罠をよけているようでいて、それが計算しつくされたものであるような。まるでこちらの反応速度を知っていて、そのぎりぎりのところで手加減されているような……。


(そんなはず、ないですよね……)


 殿下の手先として兄ともども悪事にこき使われたのはもう何年も前。その頃なら駒として使う以上、こちらの身体能力を殿下は完璧に把握しておられましたが。成長してからは殿下とは顔すら合わせていないのです。私だって身長も伸びました。走る速度も上がりました。殿下が今のこちらの状態を知るわけがないのです。


 それでもなんとなくおさまりが悪く。私はもやもやしながら、罠の数々を乗り越えて、ようやく玉座の間へと続く大きな扉が見える位置までたどりつきました。


「あれだっ」

「開けますぜ、お嬢っ」


 音を立てて、両開きの扉が開いた向こうには。


 玉座に、ラヴィル殿下が座っていました。

 長い足を組み、端正な顔を肘掛けに置いた手にあずけて、こちらを見おろして。


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