6.突入!
ぼそぼそ言う傭兵たちに背を向けて、私は最後尾にいる男に声をかけます。
「レオ、この城の構造は分かります?」
眼鏡をくいとあげながら、史学者くずれのレオが背嚢からどこから入手したのかと突っ込みたくなる図面を取りだします。
「念のため図面を用意してよかった。正面突破のルートは書き込んであります」
「いいでしょう。全員、順路を頭に入れてください。退路を確保する必要はなし、一点突破、一気に玉座の間を目指します。城の人間はなるべく傷つけないで」
「「「おう!」」」
百戦練磨の頼もしい傭兵たちが声をそろえると、あ、うん、の呼吸で扇状に散っていきます。うん、この張り詰めた空気、いいですね。インドア派だからといって体育会系の盛り上がりが嫌いというわけじゃないんですよ。
今日連れてきた一個小隊はベテランばかり。だからこういう場合、何も言わなくても未熟な私の行動を補助してくれます。
ごきごき肩を鳴らす大男が馬上のまま、両手を組んで腰をかがめます。その直線状には、馬上に立ち上がった二人の男が、互いに手を組み合わせています。
「いつでも、お嬢!」
「行きます!」
声を合図に、私は馬に跨り、鞭をふるいます。ああ、念のためカストロフ家の正装をまとっていてよかった。ズボンをはいた男装でなければこんな真似はできません。
駆ける馬ごと助走をつけて、鞍から跳躍します。
まず大男の手に足をかけて、宙高く投げあげてもらい、その後、馬上の二人の手で、さらに高みへ。 ふふふ、小型齧歯類に例えられる軽くちっこい体型を生かした離れ業です。
我ながら上出来の飛距離で鳥のように空を舞い、ひらりと城壁の上に降りたちます。兄はじめ屈強な男たちの過剰な愛情表現により、しょっちゅう胴投げされ、命の危機に瀕してきた私と、膂力自慢の傭兵たちがいてこそなせる離れ業です。
が、無事、矢間の内にある歩廊に着地して、私は眉をひそめます。
(何? 衛兵がいな、い……?)
これだけの城なのに、不自然です。そういえばここに来てから殿下のお姿を見ただけで、門番の姿すら見かけなかったことを思い出します。
が、そのままつっ立っている暇はありません。いそいで階下へ駆けおりて、堀への跳ね橋を落とします。どっと傭兵たちがなだれ込んできました。
「お待たせ、お嬢!」
皆で城の主塔へと続く廊下へ駆け入ります。
扉をくぐるなり、さっそく天井からつりさげられていた柵が落ちてきました。
「危ないっ」
とっさに傭兵の一人が私を抱いてよけてくれます。飛び散った木枠の破片と、石床にぶつかって火花を散らす重い鎖にぞっとします。一瞬、古い城だし元からの防御機構が働いて……と思いましたが、落ちてきた鎖は錆もなく、真新しい輝きを放っています。どこから見ても新たに敷設されたものです。
つまりこれはあの殿下の歓迎行為なのでしょう。
(手加減いっさいなしですか。上等っ)
ますます血がたぎります。事務方の体力をなめるな。
老朽化した砦に真っ先に入って補強か所の確認と予算化をするのは兵たちではなく事務方、つまり脳筋集団でただ一人の実務系、私なのです。とっさに構造を見て取り避けるすべなら身につけています。
「ついでに。事務方が運動神経ゼロなんて思ってもらっては困りますよっ」
声に出して気合を入れつつ、これまた飛んできた弓矢の仕掛けを避けます。
重い書類を持って階上階下、関係部署を走り回り鍛えた脚力と敏捷性を思い知るがいい。私はさらに奥へと進みます。
ちなみに。
自分では雄々しく駆けているつもりの私ですが、父といってもよい年代の年配傭兵たちには、私の姿が慌てふためいて走り回るレムルにしか見えないそうです。
それがまた皆の憐れみ・・もとい、庇護欲をそそり、お家継続に力を貸してくれているそうなのですが、精神衛生上悪いので、私は雄々しく戦っていると思うことにしています。




