47.敵襲
松明の群れがちかづいてきます。
城を飲み込もうとするかのように。
今この時になって、この動き。ビアージュ伯爵が、足止めをするためにユリアナ王女の情報を流したのでしょうか。伯爵なら宮廷に出入りして、ユリアナ王女の顔も知っています。
「もういい、俺たちを引き渡せ。そうすれば奴らがお前たちに手を出すことはない」
「できるわけないでしょう!」
感情の問題だけではありません。国の面子の問題です。
ここはエルシリア。そこへ小人数とはいえ、他国の軍に土足で入られ、脅されて人を渡したとなれば、近隣諸国にエルシリアがなめられます。
(でも、足止めされている間に王宮で殿下に諮問の決定でもなされてしまったら……)
今まででも召還要請をしようという貴族たちを陛下が懸命に抑えている状態だったのです。
「殿下、レミリア様、今夜、夜明けまででけっこうですわ、もちこたえてくださいませ」
ユリアナ王女がまっすぐに背筋を伸ばして言いました。
「私は森に〈碧星獅子旅団〉の連絡係を忍ばしています。この騒ぎは彼の目と耳にも届いたはず。有事には即、国境付近にいる旅団に連絡を取り、迎えにくるよう命じています」
「それは……」
「私とディーノ様のことは伏せ、あくまで以前よりリヒャルト王のために団と接触していたラヴィル殿下を御救いし、貸しを作るため、独断で救援に駆けつけた、その形をとります。それでしたら各国に申し開きもたつはず」
ユリアナ王女はさっきまでの姉の顔ではなく、王女の、いえ、一傭兵団の軍師の顔をしていました。
それでも私に兵を貸せ、とは言われません。あくまで客分の立場をつらぬかれます。
「わかった」
殿下がおっしゃいました。そして、
「それまではレミリア、お前が防衛の指揮をとれ」
そう、私の方を振り返って言われました。
「俺はこの状況で派手に動くのはまずい。私兵を城に集めていたという噂を助長するからな。が、レミリア、お前なら大丈夫だ。陛下の使者で、カストロフ家の次期当主、名目はたつ。ディーノとユリアナも表に顔を出さないほうがいいからな」
殿下は兄とユリアナ様のことは誤情報だとつっぱねる気です。二人はエルシリア側から見てもお尋ね者、今後のこともあります。
「そのかわりこの二年の間に暇にまかせてつくった兵器の数々を貸してやる。使い方を知るバルトロたちもな。離れている間にカストロフ家の娘として、王家の盾としてどれだけの力をつけたか、俺にみせてみろ、レムル」
「殿下……」
いつの間に集ったのでしょう、バルトロ以下、生え抜きの殿下の使用人たちがいました。少数精鋭で殿下の身を守り、この城を維持してきた凄腕たちです。
ゆっくりと執事姿のバルトロが前へ出ます。
「ご指示を、レミリア様」
「私に、したがってくれるの?」
「我が主、ラヴィル殿下が選び、託されたお方です。私に異などありましょうか」
他の皆もうなずいてくれます。
やれる、かもしれません。いえ、やるのです。
ここしばらく城に滞在して、構造は把握しています。地下室の爆発で内堀の水は抜けたとはいえ、強固な外堀と城壁は健在です。やれます!
私は瞬時に頭の中にロッセラ城の俯瞰図を構築し、各人の割り当てを決めます。
事務方だからこそこういう時の対処法は、経過報告と言う形で報告を受けています。それにディーノ兄様が姿を消した後、家を継ぐ覚悟をつけて、一生懸命、年長者たちに当主として必要なことを教えてもらってきたのです。
これからもエルシリアにとどまり、王家の盾となるというのなら。それらを披露する時です。
「カスタロフ家の傭兵たちもここに呼んでいいですか?」
私は城の持ち主である殿下に許可を乞います。
「広範囲を守るのはこの人数では無理ですから。内堀をなくした主塔は捨てます。防備が一番固い、北棟にこもって。戦えないものは地下に避難を。外への抜け道などはありますか? そちらの前で待機。バルトロは城内の者をしきってください。ディーノ兄様とユリアナ様もどうか地下へ。レオ、殿下の罠はすべて起動できるよね?」
私の采配に、頼もしい声で答えながら使用人たちや傭兵たちが散っていきます。
それらを見送る私に向かって、一人、残っていた殿下がぽんと頭をなでられました。
「俺の持ち場はどこだ、女将軍殿」
いたずらっぽくラヴィル殿下が言いました。
「陰からしか動けないが、それでもある程度はつかえるぞ」




