3.私と兄と二人の王子の過去のあれこれ
私が初めて殿下に、王家の二人の王子にお会いしたのは、四歳の誕生日を迎えた翌日のこと。カストロフ家の長女として王家の方々にお披露目を、と特別に王宮にお招きいただいた時のことでした。
実はそれまでにも二人の王子はお忍びで我が家に来て、赤ん坊の私をあやしたりしていたらしいのです。兄や陛下は、
「あの頃は赤ん坊が珍しかったらしくて、二人とも、特に殿下は家に来るたびに相手していたぞ」
「そうだね、私もレミリアのことは可愛く思っていたけど、ラヴィルはもっとすごかったね。泣かれてしまった時は、なだめることもできなかった、としょげて、悔しそうに図書室にこもってしまったりね」
「ああ、そういうこともあったなあ。すごい勢いで図書室にある育児関連の書をすべて読破したとか、司書の爺さんが驚いてた」
「そうそう。で、もう失敗はしないと、次にカストロフ家へ行ける機会を今か今かと待っていたのが微笑ましくてね。彼なら今でも育児全般を完ぺきにこなせるのではないかな」
などと言いますが、あいにくこちらにその頃の記憶はありません。
それよりもその後さんざん虐められたことのほうが強烈で、私に赤ん坊時代の記憶が残っていたとしても、とっくに上書きされてしまったのでしょう。
そもそもラヴィル殿下は完璧主義なところがある、とても研究熱心な人でした。
昔はきちんと私の世話もしていたといいますが、それは単に赤ん坊を初めて見て好奇心がわいたとか、大人とは違う反応に、いろいろ調べてみたいと知識欲が刺激されただけ。研究素材扱いだったのではと思います。
とりあえず、そんな赤ん坊時代が終わって、私がよちよち歩きができるようになった頃には、二人の王子も兄も学業に力を入れなくてはならない年齢になっていて。
家庭教師の数も増え、各々、そう自由に家から出られなくなって。
兄はともかく、幼児の私はまともにお話もできない齢では王宮にあがれるわけもなく、つきあいが疎遠になったのです。
その後、先々代の陛下が王位を息子に譲られ、時間ができたからと、ディーノの妹を見たいと仰せになり、非公式に私を離宮に招かれたのが私が四歳のお披露目を行った時のこと。
先々代に気に入られた私はそれからはちょくちょく離宮へ遊びに上がり、同じ王宮の敷地内であればと二人の王子も顔を見せに来られて。先々代も子どもは子ども同士遊ぶのがよかろうと二人の王子を招いたりなさったので、私たちの再び親交は始まりました。私の彼の記憶は主にその頃のものです。
その後、さらに互いに成長して、再び私たちの交遊は距離を置くことになったのだけど。
とにかく、私は約九年ぶりにラヴィル殿下にお会いすることになったのです。