30.閑話・茶番劇
「一芝居うたないか、政敵どもを屠るのに」
そう兄に提案したのは、あの時、半分、自棄になっていたからだと思う。レミリアを迎えに行く、その約束が潰えたから。
「深謀遠慮など必要ない。餌だけ上等なものを用意して、後はあいつらのレベルに合わせてやる。そのほうが喰いつきもいいだろう。いや、馬鹿馬鹿しければ馬鹿馬鹿しい方がいい。そのほうが目立つし、やつらの卑小さが際立つ」
「……ラヴィル、お前、何をする気だ」
俺の顔を見て何か察したのだろう、兄が止めてくる。
簡単なことだ。
王家の王子が二人いるから、馬鹿どもが二派に別れる。なら、一人にしてしまえばいい。
ついでに、誰か一人、人身御供を道連れにする。
いくらうっとおしくとも反対派どももまた大事な臣下だ。一網打尽にしては国力が落ちる。
だから悪目立ちしている中から、いなくなっても国政にさほど影響はなく、かつ、皆に新王の威光を見せつけられる、そんな馬鹿を選んで、派手に見せしめにすればいい。
「馬鹿な、ラヴィル。お前わかっているのか。私にはまだ子がいない、王家の血筋はどうする気だ」
「臣籍降下せず、一代限りの女大公になっておられる方がいるだろう？ 問題ない」
父王の妹君が健在だ。夫君を迎え、男子の後継者もいる。
この国では女性でも女王に立てるから、兄に世継ぎができるまで暫定的に王太子の座についてもらえばいい。あの父に似ず太っ腹な叔母なら笑って引き受けてくれるだろう。
だからこの機に一気に馬鹿どもを黙らせたい。そう言うと、兄はくしゃりと顔をゆがめた。
「それは、ディーノが消えたからか？」
ああ、そうだ。俺はもうこれ以上、カストロフ家の人間を盾にしたくない。
タイミングを誤れば俺自身も罪を負うが、それでも別によかった。もともと生きる目的とやらへの想いが希薄なほうだった。だからうまく有効活用できるなら別に命の一つくらいどうでもいい。悪評とやらはさらにどうでもいい。
兄にいざという時はすっぱり切り捨てろ、そう何度も念を押して領地に引きこもったが、兄は俺の言いつけを守れなかったようだ。レミリアをよこした。
まったく、この兄妹は。
お前たちをこれ以上巻き込まないようにここに引きこもったというのに、自分からきてどうする。王家に利用されてばかりなのにまったく気づいていない。
傭兵たちを一緒に連れてきたのが腹立たしくも安心だが。こんなところまで来てしまった脳筋どもをどうやって無傷でカストロフ家に帰せばいい？
彼女が信じる意地悪殿下を演じても、顔を見て避けても、それでもちょこちょこついてくる、この可愛い生き物をどうすれば。
世話が焼けると、俺は深いため息をついたーーー。
