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26.敗北感そして疑惑

「う。これは……」


 レオに連れられて出向いたお城のテラス。

 そこにあった光景は、当然と言えば当然の光景でした。


 リネンの白いテーブルかけがかかったテーブル。もちろん上には秋の薔薇を飾った花瓶に、ティーカップ。色とりどりの焼き菓子を乗せた皿。

 そして華奢な透かし細工の椅子には、着飾ったマチルダ嬢とその父親、そして招待主であるラヴィル殿下が座っていました。客人の歓待と休憩をかねたお茶会の真っ最中です。


 マチルダ嬢が可愛らしく殿下に菓子をつまんで差しだしています。


「殿下、こちらのお菓子もおいしいですわよ、はい、あーんしてくださいませ♡」


 周囲にきらきらと光が舞い散りそうな甘い光景です。どこから見ても親公認のバカップル。

 女友達がいないことを気にしているレオが、私の隣でぎりぎり歯ぎしりをもらしています。


「くっ、これ見よがしな! あれ、色気で殿下を籠絡するつもりですぜ! ね、お嬢、大ピンチでしょう?!」

「お嬢、びしっと邪魔してくださいよ! こん中であのメンバーに話しかけていい身分はお嬢だけなんですから! ここで殿下があっちについたら、俺ら、ますます任務達成が難しくなりますぜ」


 確かに。殿下を伯爵に取り込まれることだけは避けねばなりません。

 私はぐっと手を握り締めて自分に活を入れます。


「行きます!」

「その意気でさ、お嬢!」

「そう、さあ、窓の埃はらうみたいに細かないちゃもんを言ってやってください、小姑みたいに!」


 小姑。その言葉で前へ出ようとしていた私の足が止まりました。


 冷静になればその通り。私は何の権利があって人様の恋路を邪魔しようとしているのでしょう。政敵うんぬんと言うには、あまりに目の前の光景がお花畑すぎて。今の私はお邪魔馬にしか見えません。

 しいていえばアナを想う主の立場で乱入しようとしているのでしょうか。ですがそもそもアナは殿下の侍女です。私の出る幕はありません。


「うわ、殿下の口についてもいない菓子の欠片を、可愛くつまんで食べるふりしてるよ、あの令嬢。やるな、女優だぜ」

「くっ、こっちも負けていられねえ、お嬢、気合だ! 気合で割り込んでくださいよ! 恋の鉄板、幼馴染っしょ!」

「レミリア様、殿方をたぶらかす戦いなら任せてくださいませ!」


 私が悩む間にも、周りがどんどん盛りあがります。

 さりげなくアナまで混じっているのは何故? あなた殿下の恋人では。


「さあ、ちょっとこの襟のボタンをはずして、女なら色気で勝負でしてよ」

「けどアナ姐さん、お嬢って胸ないし、二個くらいはいっとかないと足りないんじゃねえか?」

「あら、言われてみれば。じゃあ、間をとって三個いってみましょうか」

「さっすがアナさん、そうこなくっちゃ!」

「わ、ちょっと待って、いいです、しません、だから脱がせないでっ」


 皆で戸口のところでわやわややっていると、殿下がため息をつかれました。「失礼」と伯爵父娘に断って、こちらまで来られます。

 広い背で伯爵たちの視線を遮って、こちらに身をかがめて来られます。


「あのな。俺たちは大人の話があるから、おとなしく部屋に戻っていろ。後でお前の好きなおやつを届けさせるから」


 ぽんぽんと頭を撫でられました。

 思いっきり子ども扱いされてます。あの、殿下と私はたったの三歳違いですよ? 一応、第一ボタンも外してあるのですけど気づいてません?

 いや、まあ、別にこの場で殿下に色仕掛けをするつもりはさらさらないのですけど。


……なんだか。自分が嫌になりました。マチルダ嬢がくすくすと勝ち誇った笑みを浮かべているのが見えます。

 私はいったい何のためにここへ来たのでしょう。


でも……。


「頼むから、レミリア」


 殿下が重ねて言われました。そのいつもの意地悪そうな口調の底に、つらそうな、懇願するような響きがあったと思ったのは気のせいでしょうか?


 殿下と再会して、共に時間を過ごして。

大人になった彼に慣れてきたからでしょうか。それとも私も大人になって昔は分からなかった殿下のいろいろな面を知ることになったからでしょうか。

 

 私をわざとらしく子ども扱いして遠ざけようとする殿下の態度に、違和感というか、作為を感じました。

何か隠し事をしていて、それをごまかそうとなさっているような……?


 ほんの少しの、気をそらせばすぐにわからなくなるような違和感だったのですが……。


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