表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/51

13.侍女と執事

注・前回10話から、閑話が二話はさまったので、今回13話の前二行は、思い出しやすいように、重複しています。

 わって入った妖艶な声。


「まあ、この方がレミリア様ですの? なんてお可愛らしい」


 ふり返ると、一人の女が部屋に入ってくるところでした。


 妖しくも美しい三日月の形を描く紅い唇。暴虐な陽の光などあたったことなどないのではと思わせる蝋のように白い肌。ゆらゆらと背に伸びた長い金髪……。


 場所が場所なのでおどろおどろしい形容になってしまいましたが。


 美人です! 地味なメイドのお仕着せを着ていますが、貴族、いえ、一国の王女といってもおかしくない気品と存在感です。


 私が眼を離せず動けずにいると、女がすっと足を踏みだしました。


 ああ、歩む姿までもが絵になります。さしずめ月光の下に凛と佇む白百合でしょうか。なんという神秘性! 男性の美形には兄や殿下のおかげで耐性ができていますが、めったに領地を出ない身では、女性でここまで美しい方は久方ぶりに見ました。


 眼をそむけることもできず私が凝視していると。

 

 びたん。彼女がいきなりこけました。顔面を床に直撃です。


(え、えっと……)


 反応に困ります。

 とりあえずバルトロと一緒に見て見ぬふりをします。


「もう、なんですの、この靴、歩きにくいったら! 床も古びて凸凹だらけで!」


 どうやら床と靴のせいのようです。


 こほんと咳払いをして起きあがった女は改めて、「初めまして、レミリア様」と挨拶しました。


「殿下より、お世話をするよう命じられました。アナと申します」


 おでこが少し赤いですが、やはり美人さんです。こんな人が私付きになるのかと、内心、顔を引きつらせてしまいます。

 たじろいだ私をなだめるように、バルトロが城で宿泊する場合の注意を口にします。


「これから城内をお歩きになるときは、私か、このアナをお連れください。部下の方々にも決して一人では出歩かないようにとお伝えを。この城にはいろいろ仕掛けが残ってございますから、危険ですので」

「……部屋の中は無事と思っていいの?」

「ご心配なく。皆様の部屋の物は確認いたしました。もう錆ついて動きませんから」


 そういう問題? 

 突っ込みたくて仕方のない私に、バルトロが、なげかわしいと顔をふります。


「昔はこの部屋も天井を落としたりといろいろできたようなのです。ですがすべて昔のこと。かなりガタがきておりまして床も血の染みだらけ。いくら石灰を流して磨いてもとれないのです、ほとほと維持管理に弱っております」


 いえ、突っ込みたいのはそこではないです。


「バルトロ様、説明はそれくらいになさってください、正餐の時間が迫っておりますわ。ところで、レミリア様、お着替えはどうなさいます?」


 意識して注意をそらせていたアナがクローゼットを開けて話しかけてきます。


「殿下との初めての夜になりますのよ、私、腕を振るいますから、お好きな色をおっしゃってくださいませな。ちなみにお薦めはこちらの大人っぽい紫のドレスですわ、襟ぐりの深さ具合がちょうどよろしくて」


 思わず顔をぶんぶん横にふってしまいたくなる大人なドレスを、アナがかかげてみせます。


 クローゼットには他にもずらりと並んだ色とりどりのドレス。

 きっと流行を取り入れた品なのでしょう。絹の艶や施された刺繍のきらめき。最近仕立てられたばかりのものだと、引きこもりの私でもわかります。


 何故、独身男性の居城にそんなものがあるのか。

 つっこみたくなりましたが、私はアナと美しいドレスが重なった視界に、それだけで体がすくんでしまいます。もう限界です。


「レミリア様? どうなさいました? ドレスがお気に召しません?」


 アナが首を傾げます。ごめんなさい、あなたのせいではないのです。ですからそんな顔をしないで。そんな単純なことさえ口にできません。

 

 そんな私の様子に、バルトロが気づいたようです。すっとアナとの間に入ってくれます。


「……お嬢様は身の回りのことは一人でおできでしたね。アナには最小限の世話しかさせませんから。では、お着替えが終わった頃にもう一度お迎えに参ります」


 クローゼットのドレスは動きやすさを重視してありますから、おひとりでも着替えられますので、と言いおいて、バルトロはアナをうながして部屋を出て行ってくれました。


 私はほっと一息ついて、長椅子にぽすんと倒れこみました。まだ、治っていないな、と情けなく思いながらーーー。



  ****


 部屋を出たバルトロとアナはふうと息を吐いて立ち止まった。

 レミリアに拒絶されたのがわかったのだろう、アナが顔を曇らせる。


「気になさることはありませんよ、アナ。あの方は同じ年頃の女性が苦手なのです。後、いかにも女官、侍女、といった外観の女性たちも」

「べ、別に気になどしていませんわ、少し、その、がっかりしただけで。せっかくレミリアさまと親しくできる機会だと思っていましたから……」


 メイドに対しても丁寧な口調で話すバルトロに、アナが大人びた外見にもっかわらず、しゅんと肩を落とす。


「……でもどういうことですの? 同年代が苦手だけでなく侍女まで苦手では、レミリア様は邸ではどうしておられるの」

「もちろん、昔から仕える使用人、領内を見回る際に話しかける村娘といった者なら大丈夫なようでございます。が、いったん、対等な貴族令嬢として相手が前に立たれたり、その令嬢たちに仕える侍女然とした人が視界に入ると。今はまだましになられました。昔は体がふるえだすほどでしたから」


アナはさらに眉をひそめる。

そんなアナに、バルトロが優しい目を向けた。


「少し昔話をしましょうか。レミリアお嬢様の秘事にあたりますが、あなたなら口外なさいますまい」

「……そんな大事そうなこと、いいの?」

「はい。あなた様なら」

「どうして……?」

「知っておいてほしいからです。あなた様がこれからもレミリアお嬢様に関わりたい、そう望まれるのであれば」

「そ、そんなこと、望むにきまっているじゃない。だって、あの子は、私にとって……」


 そこでてれたのか、アナがふいと顔を横に向ける。その顔が、早く話しなさいと言っているのが丸わかりで。あまりの分かりやすさにバルトロは苦笑した。


 そして、口を開く。過去の出来事を話すためにーーー。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ