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9.閑話・俺が初めてレムルを見た時のこと

 なんだ、この生き物は!


 今まで大人しかいない王宮で暮らしていた俺は衝撃を受けた。

 これが赤ん坊というものか。


 ふくふくでふわふわで、それでいて、ふにゃふにゃしていて。

 窓からの陽ざしに、やわらかそうな髪がキラキラ光っている。クリームのような頬はまるでつついてくれといわんばかりに艶やかで、つんとした唇は何が楽しいのか、むぐむぐと動いている。

 命の大切さを学びましょうと、ごたいそうな御託と共に教育係に手渡された、レムルみたいだと思った。


 小さくて、片手で握りつぶせそうな頼りなさ。

 でも、この生き物のほうが百万倍きらきらしていて、眼を惹きつけられる。


「可愛いだろう? レミリアって言うんだ」


 自慢げに、俺のものだと言わんばかりに、妹を紹介するディーノ。

 普段の俺ならそんな生意気な態度は許さないところだ。だがその時はディーノのそんな様子もまったく目に入らなかった。ゆりかごで眠っているちっぽけな存在をひたすら見つめていた。


(こんなにちいさくて、生きていけるのか?)


 それが初めての感想。


 そして不安になった。こうしてただ見つめているだけでいいのか。何かしてやらないと弱って、死んでしまうのではないか、と。

 はらはらした。

 それくらい初めて見たレミリアはもろく、儚げに見えた。慣れない手つきで妹を抱き上げようとするディーノを必死に止めた。そんな乱暴にふれて、こわれたらどうする!


 もちろんあの時のディーノにはレミリアへの愛情もあったし、何度か抱いて、乳母たちからもう一人でふれても大丈夫と認可をもらっていたということは今は理解している。だがその時はひたすら彼のすることが野蛮に見えたのだ。


 まだ三歳でしかなかったが、七歳と六歳の兄やディーノとも対等につきあい、たまに、特にディーノを前にすると相手が幼く感じることもあったから、俺はかなり早熟な子どもだったのだと思う。だが、〈妹〉というものに対する免疫というか耐性はまったくなかった。


 ディーノも兄もゆりかごに近づけないようにして、俺はやっとほっと息をついた。これで大丈夫だろうか、傷つけずにすんだだろうか。他に危険はないか辺りを見回して、おそるおそる振り返った時、レミリアと目が合った。すると、


 彼女はにぱっと笑ったのだ。

 嬉しそうに。


 ……その瞬間、すべてを持っていかれた。


 その後はすぐにレミリアが泣きだして、あわてて乳母がやってきて。俺がいくら泣いても利はないと説いても泣きやまなかったのが、乳母があやしはじめたとたんに泣き止んだのが悔しくて。


 それまでは特に興味のなかった書物、しかも育児書を自ら読むようになったのはその時からだった。


 ……今になって見ると、実に幼い思い出だ。


 だが……今もあまり変わっていない気がするのは、気のせいだろうか。


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