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24話 ~適材適所~

「ここがユグドラシルの心臓部か」


 アリスとソウマはリリスの足跡を辿ってユグドラシルの心臓部にたどり着いた。


 その場所は巨大な洞となっており、そこに荘厳な木製の扉を付けた部屋のようになっているようだ。


色とりどりの宝石で装飾された扉は人が通れる程度に空いており、リリスの足跡は奥へと続いていた。


「行くわよ……」

「あぁ」


 アリスは振り返ってソウマに確認を取ると、その隙間から中へと入っていった。


 それに続いてソウマも扉を潜ると、真っ暗だった扉の中が一気に照らされた。


それは通路の左右に設置された燭台に、青い炎と赤い炎が灯ったことによるものであった。


「これがユグドラシルの内部なの……?」

「なんかあまりにも手がかかりすぎてて、逆に不気味だな……」

「また扉があるわ」


 照らし出された道を駆け抜ける二人は、装飾の施された左右の壁を眺めながら嘆息した。


 そして突き当りである二枚目の扉の前で停止する。


 リリスの足跡はその扉の向こう側にまで続いており、進んできた距離を考えてもうすぐ幹の中心であるため、この先に二人がいる可能性が高い。


 ソウマとアリスは無言で頷き合って扉を開いた。


 その先に広がっていたのはかなりの広さと高さ誇るドーム状の大部屋であった。


 その中心には黄緑色に煌く巨大な宝玉があり、それは無数の根に守られるように絡みつかれていた。間違いなくあれがユグドラシルの核となっているものだろう。


「くそがッッ!! いったいどんだけの数、結界が張られてやがんだッ!!」


 その宝玉の前にはキョウヤとリリスが立っており、彼は紅の直剣で何度も核を斬りつけていた。


しかし目に見えない結界に阻まれているのか何度も弾かれている。


 一枚一枚は断絶の能力で壊されているものの、結界は幾重にも重ね掛けされているようで、いつまでたっても刃が核に至らない。


「貴方たち、そこまでよ!!」


 アリスはいつの間にか顕現させていた灰色の細剣をキョウヤたちに突き付け、そんな台詞を口にした。それを聞いたソウマが目を見開いて驚いている。


「リアルでそんなこと言う人初めて見た……。エルフさんマジかっけぇ……」

「ちょっと、こんな場面でくらい馬鹿にするのやめなさいよ!! 彼女たちも困惑してるわよ!」


 振り返って二人のやり取りを目にしたキョウヤたちは、驚愕したように目を見開いていた。


「貴方たち、クロヌはどうしたの……?」

「二人に任せてきたわ」

「まさかあの人が簡単に通すわけがねェし、うまく足止めしてこっちに来たってとこか……」


 キョウヤが推測を口にして、憎らしそうにソウマの方を睨みつけた。そして紅の直剣の切っ先をソウマに向けて嘲笑うように言った。


「まァちょうどいい。サツキをむざむざ目の前で殺されたテメェは、この手でぶち殺したかったんだ。テメェを殺した後に、この世界をぶち壊してやるよ……!!」

「ッッ!! こいつはあの子を助けようと必死にもがいてた! それでも救えなかった気持ちが、あの場所にいなかったあなたに分かるの!?」

「無駄な戦いに参加して、あいつの最期を看取ることさえできなかった。手の届く場所にいなかったオレの気持ちだって分からねェだろうなァ!!」

「ッッ……!!」


 手の届く場所にいながら救うことが出来なかったものの、彼女の最期を看取ることは出来たソウマ。


 手の届かない場所にいて、彼女の最期を看取ることさえ出来なかったキョウヤ。


 アリスにとってはどちらが負っている傷も同じくらい深く、治りようのない不治の古傷に思えてならない。



 タカナシ サツキを失ったことで、二人の少年の道は分岐した。


 キヅキ ソウマは己の無力さに打ちひしがれ、運命に背を向けた。


そして戦うことをやめ、彼女の分まで平穏に生きることを決めた。


 アサヒ キョウヤは己の行動を後悔し、運命を憎んだ。


そして彼女を殺した世界を呪い、破壊することを決めた。



 これほどまでに対極の道を辿っている二人の争いはもう止められない。


 どちらかが死ぬまでこの争いは続いてしまうのだろう。


「テメェのそれを見るたびにあいつのことを思い出す。いつまで経っても引きずってんのはテメェも同じだろォがッッ!! ソウマァッッ!!!」


 キョウヤの視線の先にはソウマの襟足の三つ編みを結ぶ、十字架の装飾が施されたヘアゴムがあった。


それは生前サツキが身に付けていたもので、形見としてソウマが大切にしているものであった。


しかし形見を受け取ったのは彼だけではなかったはずだ。


「ソウマを貴方と同じにしないで!!」

「いいや、同じだよアリス。俺だってサツキの死を乗り越えられたわけじゃない」


 これまで黙り込んでいたソウマが、アリスの前に立って口を開いた。彼は俯きながら自身の三つ編みを縛る形見に触れ、言葉を継いだ。


「けどあいつがここにいたという証を無くしたくない。この世界を壊すことはあいつの全てを消すことと同義だ。お前は全部忘れたいんだろうけど、俺は覚えていたい。誰かが覚えている限り、そいつはその人の中で生き続けるんだ……」


 ソウマは自身の胸に手を当てながら、アリスが彼に出会ってから見せたことのない真摯な視線をキョウヤに向けて言い切った。


その言葉にキョウヤはさらに顔を歪める。


「だから俺はお前を止める。あいつもこの世界を壊すお前の姿なんて見たくないだろうしな」


 ソウマは刃折れの界具を顕現させ、切っ先の無いそれをキョウヤに向けた。


対する彼も紅の直剣を握りなおして鋭い視線をソウマに向ける。


「俺だけの力じゃあいつを止められない。アリス、お前の力を貸してくれ」

「……えぇ、終わらせましょう」


 振り返って助力を乞うソウマに、しかしこれまでの他力本願な意思は感じられなかった。


 その真摯な言葉へ肯定の意を返すように、アリスは彼の横に並んで細剣を構えた。


「ソウマァァァ!!!」


 キョウヤは血走った目でソウマを捉えながら間合いを飛ばす。


それを迎え撃つようにソウマも駆け出した。


 二人の距離が零になる直前、アリスがキョウヤに向かって灰炎の槍を飛ばす。


 背後から放たれたにも関わらず、ソウマはそれを知っていたかのように左に跳び、すれ違いざまに切りつけた。


直後、灰炎の槍が膨張してキョウヤに襲い掛かろうとする。


「【惑え惑え。真実は鏡の中】」


 その様子を傍観していたリリスが、フランベルジェを掲げながら蠱惑的な声で詠唱する。


すると灰炎の槍にノイズが走り、直後アリスの背後で灰炎が爆発した。


「っ!?」


 その様子に理解が追い付かないアリスの耳に剣戟の音が届く。


 それによってはっとしたアリスは、自身が放った灰炎の槍がリリスの魔法によってなぜか背後に被弾したということが理解できた。


「敵の阻害に関しては本当にピカイチの能力ね……!」


 ソウマとキョウヤが打ち合っている後方で、リリスは嫣然と微笑みながらアリスの方を見つめている。


アリスも好戦的な笑みを返すと同時、灰炎の槍を放った。


 しかしその槍はリリスの立っている場所から少し離れた位置に着弾し、彼女の能力によってまともに狙いが定められなくなっていることが分かった。


「だったら……!」


 遠くからでは認識を阻害され、まともに攻撃することが出来ない。


ならば接近戦に持ち込めばどうにかできるだろうと考えたアリスは、床を蹴ってリリスとの間合いを飛ばそうとした。


「あら、どこに行くのかしら?」


 しかし真左から聞こえてきた声と殺気によって、進行方向を急転させて右に飛び退いた。


しかし飛び退いた先の背後からも殺気が届く。


「貴女ではワタシに勝つことは出来ないわ」

「ッッ!!??」


 直後、アリスの背に漆黒のフランベルジェが付きつけられる。


切っ先が皮膚を破る直前、咄嗟に細剣を振るうことによってそれを弾き飛ばした。


 剣を突きつけられたのだから通常であれば危機感を感じて間合いを取るべきところである。


 しかしアリスはリリスの実体がこの場にあると分かったため、そのまま突きを放ったのだ。


 予想外の行動にはっとしたリリスはフランベルジェで突きを横から叩き、軌道をずらしたうえで退避しようとした。


 しかし叩かれた勢いを利用して回転したアリスは逆側からリリスを切りつけた。


「くっ……!」

「【吹き荒れろ】!」


 左手首を浅く切り裂かれたリリスは今度こそ後方に飛び退いたものの、背後から吹きつける突風によってアリスの元へと引き寄せられてしまう。


 彼女は幻覚に対抗するため、一度存在を捉えたリリスに距離を取らせないつもりだ。


「【歪曲せよ、鏡の国】」


 たった一言の詠唱の後、アリスとリリスを取り巻く空間にノイズが走り、彼女たちの背中合わせの位置関係へと入れ替わった。


 その瞬間、リリスはフランベルジェを逆手に持ち替えてアリスの背に向けた。


 対応が遅れたアリスは足元の木を急速成長させることでリリスのフランベルジェを打ち落とそうとしたもの?

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