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22話 ~決着~

「うっ……らぁっっ!!」


 裂帛の気合と共にヘルシャの小さな拳が全力で振り抜かれる。


 直後、クロヌの引力の腕が内側から爆散して鮮血を吹き出した。


「くッ……!?」


 クロヌは心底驚いたように目を剥いて己の腕を凝視した。


 本来の腕よりは強度が低いとはいえ、それを拳で撃ち抜くなど凄まじい怪力だ。


 だがクロヌが腕に意識を引かれたのは一秒にも満たない一瞬であった。


 彼はすぐさま拳を撃ち抜いて隙だらけとなったヘルシャに大気を揺るがすほどの蹴りを見舞う。


「かっ……はっ……!」


 唐突なカウンターに防御が間に合わなかったヘルシャは、真正面からその蹴りを食らってしまう。


 常人なら身体がバラバラになってもおかしくないほどの威力であるが、ヘルシャは地面を数度跳ねて両足と右掌で地面を抉りながら停止した。


「ごほっ……。イッくん、生きてる!?」

「何とか、な……」


 ヘルシャが勢いを殺しきれたのはイグニスが吹き飛ばされた側の客席間際であった。


 彼女は吐血した後に苦笑いを浮かべながら背後にいるであろうイグニスに声をかけた。


 そんな彼も瓦礫の中で佇み空を見上げていた。


「うち、そろそろ限界かも……」

「だろうな。俺はもうまともに打ち合うことも出来ないだろう」


 真紅の瞳と纏うオーラを明滅させるヘルシャ、全身ズタズタのイグニス。


 明らかにダメージは限界を超えている。


「ならさ、次で決めるしか無いよね」


「……あぁ、次の一撃に全てを込めるぞ」


 しかし視線は交わさずに言葉を通わせる二人は、互いに小さな笑みを浮かべていた。


 そして闘志の炎が灯り続けている瞳でクロヌを睨みつけた。


「まだやるってのか? いいぜ、来いよ!!」


 半数の腕を失ってアンバランスな数の腕を回しながら、クロヌは不敵な笑みのまま視線で二人を射抜いた。


 直後、ヘルシャが巨大なチャクラムを片手に地面を踏み砕き、霞むような速度でクロヌに迫った。


「【青々と凍てつく氷塊もやがて解け行き水となる。やがて水さえ掻き消え活火激発の矛と化す】」


 それと同時にイグニスは再び瞳と髪を朱色に染め上げる【火精化】状態になり、双剣を重ね合わせるように身体の正面で合わせた。


 すると双剣の境界が曖昧になって一本の槍と化す。


 刹那、凄まじい量の蒼の大炎が発生してその槍を包み込んだ。


 それは先程クロヌの腕を吹き飛ばした槍の比ではないほどの火力で、構えるイグニスの腕さえ焼き焦がしていた。



「終わらせるよ、おじさん!!!」

「あぁ、流石に俺もお前ら二人を纏めて相手にするのは疲れたぜ!」


 ヘルシャが全力で振り下ろしたチャクラムに、クロヌもまた大剣を全力で振り上げて応じる。


 凄まじい金属音が鼓膜を貫き、衝撃は地面を割り砕いた。


 そして大剣を振り切ったクロヌによってヘルシャは上空へ吹き飛ぶ。


「まだ離れるわけにはいかないんだよね!!」


 ―――かと思われた彼女は界具の能力を全開にしてクロヌへと再び迫る。


 今度は重力が乗せられた刃が叩きつけられる。


「ぬぅ……ッッ!!」


 ただでさえ凄まじいヘルシャの膂力が重力によって何倍にも跳ね上がり、さしものクロヌでさえ地面に足をめり込ませていた。


「吹っ飛べやぁ!!」


 しかし腕に極太の血管を浮き上がらせて叫んだクロヌによって、今度はヘルシャの身体が地面と並行に吹き飛ばされる。


 しかしその瞬間にイグニスが駆け出していた。


「終わりだ……クロヌ・ヴィゴーレ!!」

「お前らがなぁ!!」


 イグニスの手には自身を焼き焦がすほど膨大な量の炎を纏う大槍が握られており、その矛先をクロヌへと向けていた。


「いくぞ!!」

「うんっっ!!」


 クロヌへと驀進するイグニスと、吹き飛ばされて離れるヘルシャが交錯する瞬間に視線を交わす。


「真正面から叩き潰してやるよ!!」


 クロヌが好戦的な笑みを浮かべながら引力の右腕をかざしてイグニスを引き寄せた。


 凄まじい引力に身体をもっていかれながらも、イグニスは小さな笑みをこぼした。


「やれるものならやってみろ」


 刹那、イグニスが蒼炎の大槍を構え、引き寄せられる力と推進力を全て乗せて投擲した。


 接近戦を予想していたクロヌは思わずはっとしたものの、すぐに斥力の腕を前に突き出す。


 だがクロヌが予想だにしていなかった現象が目の前で起こった。


 吹き飛んだヘルシャが手にしていたチャクラムを手放し、イグニスの進路上に停滞させたのだ。


 そしてそれは刻まれた刻印から煌々と赤光を放つ。


「ッッ!!」



「【破槍(イグジティウム)】」



 クロヌがイグニスとヘルシャの思惑に気付いた瞬間、豪炎の大槍が放たれた。


 直後、それは赤光を放つチャクラムの輪を潜って掻き消えた。


 否、それはあまりの加速によってこの場の誰にも視覚では認識することが出来なくなったのだ。


 だがその矛先を向けられたクロヌだけが第六感で存在を知覚出来ていた。


 見えなくとも槍が放つ圧倒的な質量と熱量は存在をありありと誇示している。


 破滅の槍が迫り来る方向に、残った二本の斥力の腕をかざす。


 片方は掌、もう片方は大剣の界具を振り上げている。



「叩き潰してやる!!」

「「やってみろ……!」」



 大剣を振り下ろしながら口端を釣り上げて叫んだクロヌに、槍を全力で放ったイグニスは体勢を崩しながら、ヘルシャは吹き飛ばされて客席の瓦礫に埋もれながら叫び返した。


 刹那、斥力によって速度をほんの少しだけ打ち消された槍がクロヌの大剣と激突し、闘技場の半分を飲み込むような蒼の火柱を生じさせる。


 その熱波は槍を放ったイグニスの身体さえ吹き飛ばし、瓦礫の山へと叩きつけた。


 立ち上った火柱は数秒間燃え盛り続け、収まったかと思うと代わりに黒々とした煙を周囲に充満させた。


「これでまだ立ってたら流石にやばいよ……」

「同感だ」


 ヘルシャは犬のように舌を出して荒い息を吐き、イグニスは霞む視界でクロヌの位置を睨みつける。


 二人とも【武神化(バーサク)】【火精化(サラマンダー)】状態が解け、もう立っているのがやっとであった。


「よぉ、やってくれたなお二人さん……」

「「!!」」


 そんな状態の二人を、死神の声にも思える野太い声が瞠目させた。


 黒煙が晴れ、そこに倒れることなく立ち尽くしているクロヌの姿があったのだ。


 彼は全身焼け焦げているものの、獰猛な笑みを浮かべて二人の方に視線を向けていた。


「ウソでしょ……。おじさん、まだやるつもりなの……?」

「あぁ、続けようぜ……!」


 いくら好戦的なヘルシャでさえも顔を引き攣らせながら問いかける。


 それに対してクロヌは当然と言ったように答えた。


 ―――が、突如としてクロヌが膝から崩れ落ち、地鳴りのような重い音を響かせた。


 辛うじて大剣を地面に突き刺すことで体勢を保ったクロヌは苦笑混じりに言葉を継ぐ。


「と、言いてぇところだが、もう腕一本動かねぇ……」


 直後、【闘神化】によって増加した腕の中で唯一残っていた斥力の腕が光粒として弾け、光を纏っていたクロヌは元の姿へと戻った。


「……はぁ~、良かった~! ウチももう立ってらんないよ~」


 クロヌの言によって気が抜けたヘルシャは全身から力を抜いて瓦礫の山に倒れ込んだ。


 それを見たイグニスも足から力が抜け、瓦礫に腰掛けた。


「クロヌ・ヴィゴーレ……今は休戦だ……」

「あぁ、今のオレじゃ虫の息のおめぇらにさえトドメをさせねぇからな……」

「うん、あとはあの二人に任せよ~」


 ヘルシャは自分たちを見下ろしてくる眩しい青空に手をかざし、別の場所で戦っているであろうソウマとアリスに後を託した。

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