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12話 ~援軍~

「……っ!?」


 固く目を瞑って死を覚悟したアリスだったが、すぐに目の前の光景が変化していることに気がついた。


「あの人が来たのか、助かった」


 その声に振り返ると、そこにはソウマに加え、離れて戦っていたはずのイグニスとヘルシャも界具を手にしたままはっとしていた。


 ソウマたち四人を残し、周囲からレイドのメンバーは一人残らずいなくなっている。

 

 自分たちに起こったことを鑑みるに、他の来訪者も別の場所に転移させられたのだろう。


「キョウヤ! リリス! オレのとこに来い!」

「「!?」」


 いつも余裕の笑みを浮かべているクロヌが顔面を蒼白にして二人の名を叫んだ。


 そのただならぬ様子に、咄嗟にクロヌの元へと集まった二人は驚愕する。


 なぜならすべてを飲み込むような漆黒が彼らの頭上に広がっていたからだ。


 周囲に突如として夜が降りたような、しかし月も星々も無い無明の闇。



「黒い……太陽……?」


 キョウヤたちを遠くから見ていたアリスは、その光景を受けて絞り出されたような声で呟いた。


 直径でいえば一キロメートル以上はあろう球体は、キョウヤたち三人の頭上で形成され、彼らに向かって落下し始めた。


 地面に触れる前に球体にノイズが走り、球体が停止するとアリスたちからは三人の姿が伺えなくなった。


「ひゃ~、いつ見てもすっごいね~」

「本当に敵でなくて良かったな……」


 ヘルシャは額に手でひさしを作りながらその光景を眺め、イグニスは目を細めて呟いた。


「……あれでもダメなのかよ」


 ソウマが感情を押し殺したような表情で呟いた。


 直後、漆黒の球体は突如として一瞬で消え去る。


 すると直径一キロメートルほど、草むら諸共地面がえぐれていた。


 しかしそこには膝をつくリリス、肩で息をするキョウヤ、大剣を地面に突き刺して体重を支えるクロヌの姿があった。


「やれやれ、完全に隙を着いたと思ったんだけどな」

「完璧だったよ、リネア……!」


 クロヌはソウマたちの方向に目を向けながら笑った。


「なるほど、リリス・パンタシアが現実と虚構を入れ替えて直撃を免れ、クロヌが一時的に受け止め、アサヒ キョウヤが現象を断絶したのか」

「!?」


 突如背後から現れた気配に、アリスは視界に入るまで全く気付くことができなかった。


 ほぼ常に感知魔法が発動している彼女に反応できないということは今この瞬間、背後に突然現れでもしない限り有り得ない。


「【黄昏(アーベント)】団長 リネア・ディシオン……。クロヌとあの方と同じ、聖戦(ラグナロク)から帰還した【再来者】……」


 片膝を付いて額に脂汗を浮かべているリリスが、アリスたちの前に立った長身の男に目を向けながら呟いた。


 彼は肩にかかるくらいの藍色の長髪を束ねて右に流しており、右手には風変わりな白銀の剣を下げていた。


 それはいわゆるソードブレイカーと呼称される剣で、普通の刃と櫛状の峰を持つ特殊な武器だ。しかし放つ存在感はこの場の誰の界具よりも強力なもので、明らかに練度が桁違いであることが分かる。


「さて、うちの若いヤツらをいじめてくれたみたいだな」


 リネアは薄い微笑みを浮かべながら、ソードブレイカーの切っ先をキョウヤたちに向けた。


 直後、キョウヤたちの真ん中に漆黒の球体が発生し、彼らを飲み込んだ。

「ッ……!」


 界具を向けた瞬間にノータイムで、かつ距離を無視して発動する消滅の球体の威力に、アリスは戦慄した。


 しかし球体が抉った空間から右に少しズレた位置に、像を結ぶようにキョウヤたちが現れた。


「くッ……! ごめんなさい、クロヌ。ワタシはもう力を使えない……」

「あぁ、よくやってくれたぜ。ここはもう引くしかねぇか……」


 何とか立ち上がってフランベルジェをかざしていたリリスだったが、やがてその身体から力を失って倒れ込む。クロヌはそれをそっと受け止めて笑いかけた。


「悪ぃなリネア。流石にこれはキツい」


 クロヌはリリスを抱えながらソウマたちの方に目をやった。


 三対五、形勢は明らかに逆転した。


 それにリネア・ディシオンという人物には、たった一人でもソウマたち四人を相手にする程の力量があるはずだ。


「逃がすと思ってるのか?」

「オレとお前の仲じゃねぇか」


 不敵な笑みを浮かべる二人の間には、目に見えない闘気が迸っているようだった。


 そしてリネアより早くクロヌが動いた。


 大剣を振り下ろして大地を割ったかと思うと、そこから周囲のものを弾く透明な球体のようなものが発生した。


 それがもたらす斥力は、クロヌたちが立っている地面を彼ら諸共後方へ吹き飛ばした。


 逆にリネアの方向には砕けた地面の破片を吹き飛ばし、彼の行動を阻害しようとしている。


 リネアが咄嗟にソードブレイカーを横薙にすると、ソウマたち四人の前に盾の如く漆黒の壁が形成された。


「退くぞ、キョウヤ」

「チッ……!」


 リリスを抱き抱えたクロヌと、忌々しげにソウマを睨むキョウヤは着地の勢いのまま、地平線の方向へ駆け出した。


「だから逃がさないと言ってるだろう」


 漆黒の壁に守られているソウマたちとは異なり、リネアは斥力の影響を直接受けているはずだがそれを意に介すことなくソードブレイカーをひと振りした。


 すると漆黒の斬撃が草々や地面を消し飛ばしながらキョウヤたちに迫っていく。


 それに向かってクロヌが大剣を振るって再び斥力の球体を生み出すものの、いとも簡単に切り飛ばされる。


「消えろやァッッ!」


 斬撃に追いつかれそうになったキョウヤは、紅の直剣を振り返りざまに薙いだ。


 直後、漆黒の斬撃は霧と化したかのように彼らの直前で完全に消滅した。


 その間にクロヌがキョウヤを片腕で抱え込み、大地を割り砕いて加速した。


 一歩で百メートル近くを飛ばすクロヌの踏み込みが連続して続き、数秒で彼らの姿は地平線の彼方に消えていった。


「さて、怪我はないか?」

「えぇ、おかげさまで」

「やっぱリネっさんの力はいつ見ても凄いなー!」


 イグニスは目礼をし、ヘルシャは楽しげに笑った。


 それに対して小さく微笑んだリネアは、視線をアリスとソウマの方へ向けた。


「は、はい。私も特には」

「俺も大したことない」


 優し気な目線を向けられたアリスは、しかし先ほどの凄まじい強さを目の当たりにしているため緊張しながら答えた。ソウマは視線を逸らしながらそっけなく答えていた。


「なら良かった」


 そう言った後、彼は来訪者も邪精霊もいなくなった、戦いの痕跡だけが残る草原を見渡して言葉を継いだ。


「今回の事の顛末を聞きたい。それとアリス・フォティア、聞きたいことが山ほどあるんじゃないか?」


 リネアの言う通り、この戦いの中で湧き上がってきた疑問は山ほどある。それを解消しなければアリスは眠ることも出来ないだろう。


 そのため彼女はリネアの灰眼を見つめ返して小さく頷いた。


「ここではなんだ、俺たちのアジトに来てくれるか?」

「分かりました」

「俺はパスで。三人もいれば十分だろ」

「なんだと~! サボるなんて許さないぞ!」

「うっせ、俺は疲れたの、お家帰って寝るの! てかどうせまともに話説明できるのイグニスだけなんだからお前もいらねぇだろ!」

「うが~!」


 ソウマが右手を上げながらアリスたちに背を向けて歩きだそうとしたところを、ヘルシャが呼び止めた。そして彼の反論に彼女は声を上げながら飛びついた。


 引っ付いてきたヘルシャを鬱陶しそうに引きはがそうとするソウマに、イグニスが声をかける。


「疲れているのに町まで歩くつもりか? お前ひとりじゃ邪精霊に喰われるぞ?」

「うぐ、それは……。てか、お前どれだけ俺のこと過小評価してんの……?」

「ははは、構わない。ソウマは家の付近に飛ばしてあげるよ」


 二人のやり取りを聞いていたリネアは柔らかい笑顔を向けながらそう言った。


 そしてソードブレイカーの切っ先をソウマに向けた。


「……巻き込んで悪かったな」


 リネアは柔らかな笑みに、ほんの少しの哀愁を織り交ぜたような表情をしながら小さく呟いた。


 直後、漆黒の球体が発生してソウマの全身を包み込んだ。


 その直前にソウマが悲嘆や悔しさが混在したような、複雑な表情を浮かべていたのは気のせいだったろうか。


「さて、俺たちも行こうか」


 ソウマを包み込んだ球体が消滅すると、リネアは元の優しげな表情に戻って振り返った。


 そしてソードブレイカーを逆手に持ち替え、それを手放した。


 切っ先が地面に触れた瞬間、四人の足元に漆黒の大穴が展開して彼らを飲み込んだ。

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