0話 ~或る少年の、世界の終焉~
ひび割れる大地の奈落に落ちていく者、吹き出す溶岩に飲まれ断末魔を上げる者、降り注ぐ雷に撃たれて声も無く絶命する者。
少年の目の前にはこの世の地獄が広がっていた。
「どうして……」
少年は瞳を絶望に染めながら右手を握り締めた。
そこには繋がれた他者の手があり、固く握られた二人の手は離れることがない。しかしその手は石のように硬く、氷のように冷たかった。
「あ、ぁ……」
それもそのはずだ。固く握られたその手は肘から先だけなのだから。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
絶対に離さない、そう約束した。
確かにその約束はこうして守られている。しかしそこに人の温もりはもう存在していないのだ。
彼女は、妹は少年の目の前で溶岩に吹き上げられ、左手の先だけを残して蒸発してしまったのだ。
こんな地獄絵図の中でも彼女がいたから精神が壊れずにいられた。
だがその箍はもう外れ、少年の心が音を立てて崩れ始める。
少年は形容できないような声を上げてのたうち回り、やがて天から降り注ぐ雷に貫かれた。
それは彼の全身を焼き焦がし、しかしすぐに命を刈り取るには至らなかった。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、その全ての境界が曖昧になり溶けていく。
絶命への秒読み。そんな状態であるのに少年は過去に投げかけられたとある問いを思い出していた。
―――もし世界が終わるとしたらどうする?
誰しもがそんな問を投げかけられたことがあるだろう。
大抵の者がやりたいことや普段できないようなことをやると答え、笑い話で話題が変わる。
そんなもしもの問に今なら真摯に答えられる。
自身ににじり寄ってくる死神の足音を明確に感じ取りながら、少年は強く願った。
―――もう一度やり直したい。
こうして少年は命を燃やし尽くし、この世界は終焉を迎えた。