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その8 「ワタクシ実は、とある事情で、こちらでバイトをしておりまして」 「え、なに、いきなり身の上話? てか、そんなん知らんがな」 「な・に・か~?」 「――ひぃッ!」

 ……いや別に追われているワケではないから、逃げるっていうのは、おかしな話なのだが。


 ともかくアイツ、――イオを置いて、こっそりここから抜け出そう……。

 詩人は浴槽から上がり、洗い場に腰を下ろす。

 俺だって他人に構っている場合ではないのだ。

「………………」

 ま、まぁ、行くあてなんて決まってないけどねッ! いいんだ、俺ぁ、流浪の詩人だし、それにイオには、なんだかんだで、金貨何枚も渡してやったし、それでまぁ、なんとかなるだろ。……となると、さっさと上がんなきゃな! と、詩人は新たな決意を込めて? 身体を洗い始める。

 と。

「へい、ダンナ。お背中流しやしょうか……?」

 ややあってから、頭を洗っている詩人の背後に、不意に声が掛かった。

「ん? ああ、悪ぃな、すまねぇ、頼むわ」

 宿のサービスなのだろうか。素泊まりにしてはやや過剰だとは思ったのだが、せっかくなので、振り向きもせずに詩人は受け入れることにした。

「へっへっへ、いいですぜ、ダンナ」

 酒のやりすぎなのだろうか? ディストーションをかけたような汚い声だ。

 ふと、詩人の背を洗おうとするその手が止まる。

「おっとぉ……。こりゃぁ、ひどいアザでございまさぁねぇ、ダンナ」

「ん、背中のそれか? ああ、それはな、さっき油断して、喰らっちまったんだよ」

「へえ、モンスターに、ですかい?」

「んまぁ、普段なら簡単に避けられるンだけどな、ちょっと……お荷物が居たもんでよ」

「そうですかい、へっへっへ。でも安心してくだせぇ、ダンナ。ここの湯は、特別でさぁ」

「とくべつ?」

「へい、なんでも、向こうの山のふもと、森の中の泉から汲んできた不思議な水を混ぜてあるとかで、傷によく効くんだそうですぜ?」

「へ~。いや知らなかったなぁ。なるほどなー」

「……ところで、ダンナ。お仕事は、何なさってるんで?」

「え、俺? んー、いやー、お仕事っちゅーか、なんというか、こう……自由人? みたいな……」

「こんな傷こさえて来るなんてなぁ、もしやダンナは、凄腕の戦士様なんではッ?」

「いやいやいやいや、そーゆーもんじゃなくてだなー。……実はな。俺はな、世界を旅する、さすらいのうたびと……まぁ、吟遊詩人ってやつなんだな」

「おお、ダンナが! あの! 詩人さんなんですな!」

「え? なに、俺ってそんな有名人?」

「ええ、そりゃぁ、もう! 詩人さんと言えば、いい歳こいて真面目に働こうともせず現実から目を背け道楽で生きていこうなどと人生舐めきった夢見がちな若者たちの代表格! あの伝説の……ッ?」

「またそれーッ!? でんせつの……っ、じゃねーよ!」

「おお、しゃかいのていへんよっ!」

「ちょ、待てまて待てまてッ!」 

「もしくは、こちらに人数の空きがあるときは強引にパーティーに加わってくるが、序盤で外そうとすると断固拒否するという、結構扱いに困る存在! ああっ、それが詩人! あの伝説の……ッ?」

「知らんがなッ!」

「この、KYがぁっ!」

「ちょいちょいちょいちょーいッ!」

 しじんさんは おもった!

 ……え、なんで俺、風呂場で知らないオッサン? に、ディスられなきゃなんないの……っ?

 ちなみに。

 ここまでずっと、詩人は背中をゴシゴシされていた。程よい力加減で垢すり効果も抜群だ。

 だがついに、

「ていうか、あのさぁ、そろそろ……いいかな?」

「へい? なんです、ダンナ」

 そして詩人は、その言葉を投げかける!

「で………………………………アンタ、誰?」

「ああ! これはこれは! 申し遅れやした、すいやせんね、へっへっへ。あっしは、しがない……精霊でやんすよ」

「精霊ッ? さっきから、俺の背中をフツーに洗い流してくれてたオッサン口調が、精霊となッ?」

 てっきり宿の使用人かと思ったーっ!

 おかしいとは思っていたけどなー、脈絡もなく、いきなり出てきたしっ!

「アンタさぁ、どういうことだよ、一体よぉッ?」

 と、詩人が振り向いた瞬間、

「ていっ!」

「ぎゃーぁッ!」

 なんと!

 せっけんすいが めに はいった!

 しじんは なにも みえない!

「目がぁ……ああぁッ……目がぁぁああああ……ッ!」

「すいやせんねぇダンナ。ダンナにはまだ、あっしの姿を見せるワケには、いかねぇんですよ。……べ、別に何も考えてないワケじゃ、ねぇんですからね……ッ!」

「知らねぇよッ、んなことぁどーでもいいッ! うおおおおッ、ちょー目が痛ぇぇぇえええッ!」

 やった!

 しじんは もがきくるしんでいる!


 つづく!

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