その7 「おや? しじんさん、なにをそんなにおびえているですっ?」 「ここの従業員やべぇよッ! まぢ目が恐ぇぇッ!」 「……なにかおっしゃいましたか?」 「――ひぃッ!」
しじんさんが、まちはずれで、であった、しょうじょイオ。
イオは、せいれいさんのおつげによって、えらばれた、まほうゆうしゃ、だったのです。
いっぽう、しじんさんは、じゅうしょふていむしょく、じしょう・さすらいのうたびと。
はたして、ふたりにまちうける、うんめいとは……?
*
「……んで?」
「はいですっ? なんですっ、しじんさん?」
「なんです、じゃねぇよ、イオ!」
きょとん、とした顔の少女イオ(しつこいようだが、ケモノ耳フードのせいで、ちゃんとは見えないが、たぶん、そうだろう)に対し、詩人はまたもや嘆息。……こいつは事の重大さが分かっているのだろうか? 改めて、問いただす。
「んで……お前さん、これからどうすんだよ?」
「決まってるですっ! まほうゆうしゃとなったからには、このイオが、わるものたちを、せんめつしまくってやるですよっ、むふーぅっ!」
「………………」
「おりょ? どしましたか、しじんさんっ? なにをそんな、――わけがわからないよ、といった、おかおをしてるですかっ?」
「ああ、うん、なんつーか、こう……、まったくその通りだよ、もうワケ分かんねぇわ……」
そして詩人は、おもむろに立ち上がる。
「およっ? しじんさん、どこいくですっ?」
「風呂だよ、お・ふ・ろッ!」
思えば宿に来て以来、まだ何も癒されてない。どうやら減った体力が瞬時に全回復なんてことは有り得ないらしい。そりゃそうだ。悲しいけど、それが現実ってもんだしな。
と、詩人が部屋を出て行こうとすると、
「イオも、いくですーっ!」
ひとり元気な幼女イオだった。
「お前はあっち、な!」
ふたりは部屋を出て、共同浴場へとやって来た。
詩人は、赤い暖簾の元へ、イオの背を押してやる。
放っておくと、ドコまでも付いて来そうで、それはとてもとても危なっかしい。
「えーっ! いっしょに、おせなかながしっこ、しないですっ?」
「はーいはいはい。いいから大人しく入れよー。あんまり泳いだりすんなよー。他人様に迷惑かけんなよー」
「ぶ~~~ぅっ、イオながされたですっ、おふろだけにっ!」
「そーゆーの、いいから、な?」
ふくれっ面したらしい(しつこいようだが、ケモ耳フードのせいで、以下略)イオが、しぶしぶ女子風呂に入っていたのを見届けから、詩人は青い暖簾を潜った。
その先、男性用の風呂場には、他に客は居ないようだった。広くはないが、気を遣わずにのんびり出来るというものだ。
「ふぃ~」
と、戦闘を終えたばかりでもないのに、一息ついてしまった詩人。……まったく、なんて一日なんだ。本当なら、昼間の報酬でもっと豪華な宿に泊まって、美味い酒でも浴びるほど呑んでいただろうに。ついでにあんなお子様連れではなくて、キレーなおねーさん達なんかお部屋に招いちゃったりして、むひひひ……。
早々に浴槽で妄想に耽る男、住所不定無職、自称・詩人さん。
「うっさいよ! …………はッ? なんで今、俺、ツッコんだんだ……?」
しかし!
そのほうこうには だれもいない!
「ま……、まぁいいや……」
気を取り直し(?)湯船の中でひとり、詩人は考える。
……結局のところ魔法勇者が何者であるか、全く説明になっていなかったので、それは未だによく分からない。が、ひとつだけ理解できることがある。それは、先ほどのモンスターとの戦闘で見た、イオの魔法力だ。あれが魔法勇者としての能力なのだろう。でなければ、子供があれほど強力な魔法を使えるワケがない。
しじんは おもった!
……だが何故、イオが勇者なんだ? 勇者って、アレだろ? 魔王を倒す奴のことだよな。それなら、イオは魔王を倒しに行くとでもいうのか? あんな凶暴なモンスター共の親玉を? そんなの大人にやらせりゃいいだろ。そもそも子供に戦わせる理由がどこにあるってンだ? だったらただの魔法使いで良くね? 勇者のお供のさぁ。てゆーか、魔法勇者ってなんだよ。結局、戻っちゃったよ、思考が!
……ああ、よく分からん! もういい! 疲れた、ホントに疲れたッ! 湯が傷に沁みてすげー痛いし! もう知らん! どうにでもなれ! ていうかよぉ、これ以上、俺が関わる必要、なくね?
「 よし決めた この風呂出たら もう逃げよう! 」
詩人は勢いよく湯船から立ち上がったのだった。
つづく!