表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

その33 彗星になった日。

 光の川を泳いでいた。

 いや、詩人は泳げないはずだ。

 なので正確には、揺蕩って(たゆたって)いたのだ。

 真っ白で何もない空間。不思議と懐かしい感じがした。嫌じゃない。心地良かった。

 ああ、このままずっと、どこまでも流されて行きたいな……詩人が全てに身を委ようとしたその時、

「へい、ダンナ。お久しぶりでやすね」

 何者かが腕を掴み、詩人は留まった。

 振り返ると、着流し姿の男性がそこにいた。

「……誰だ? アンタ……まさか!」

「へい、あっしは、しがない精霊ってヤツでやんすよ、へっへっへ」

 聞き覚えのあるディストーションをかけたような汚い声。

 だがその姿を見るのは初めてだった。

「やっぱりか! ったく、口調のまんまじゃねぇか。結局何も思い付かなかっただけだろッ?」

 オッサンだ。角刈りだ。向う傷がある。日本刀が良く似合いそうだった。てか、怖ぇんだよ! ガン飛ばすな!

「まぁアレですぜ、ダンナ。そいつぁ、“大いなる精霊ものの意志”ってヤツですぜ」

「知らんがな!」

 久々のやりとりだった。どこかほっとする詩人。

 いやでも待てよ。

 今思うと、この自称・精霊のオッサンが全ての張本人だったのかもしれない。

 少女イオにワケのわからない契約を持ち掛け、彼女を魔法勇者にしてしまったのでる。一時的ではあるが、詩人に保護を依頼した事もあった。そいつが今頃になって何故に突然こんなところに現れたのか。

「ちょいとダンナの精神体ってやつを呼ばせてもらいやしたぜ。あっしの精霊パワーで」

「オッサンが精霊パワーとか言うな」

「いいじゃない、オッサン姿の精霊がいたって、いいじゃない!」

「急にどーしたッ?」

「ダンナ、あっしら精霊は下界の人間が接しやすいよう、好みの姿に変化できるんでやすぜ」

「あーそーかい。じゃぁ、いっちょ、ないすばでぃの女教師にでもなってくれや」

「いえ、ダンナの好みではなく、自分の好みでやすよ?」

「アンタそれ気に入ってたのか!」

 角刈り着流しの精霊なんて聞いたことないぞ。

「まさに、任侠スピリット」

「やかましい!」


 間。


「んなことよりも。ここは一体ドコなんだ? 俺はやっぱり、死んじまったのか……ッ?」

 ここが地上世界でないことは詩人も薄々気が付いていた。

 見渡す限り真っ白で、なーんにもない!

「ここは、時空のはざま、でしてね、へへへっ。ここには時間という概念がないんでやすぜ。かつての大魔道士たちは、俗世と離れ、永劫の試練へと立ち向かうために、ここを利用しやした」

「まさか! じゃぁイオはここで何年間も特訓していたってのか?」

「強大な魔力をその身に宿し、自由自在に操る為には、膨大な時間が必要だったんですぜ」

「こんな、だれもいない、なにもないところで、ひとりぼっちで、何年も……」

「ダンナのおかげですぜ」

「俺の?」

「ええ。悪しき者どもに立ち向かうダンナの姿を見て、誰かのにチカラになりてぇっていう、勇者にとって一番大事なものを、嬢ちゃんは必死で追いかけたんですぜ」

「頑張ったんだな……イオのやつ」

「まぁ、それでも見て見ぬふりに我慢できなくて、呪文ひとつふたつ覚えた程度で飛び出ちまいやしたけどね」

「おかげでみんな助かったさ」

「まだまだ未熟な所もありやすが、あの嬢ちゃん、今や志しは立派な魔法勇者になりやしたぜ」

「そっか。それなら、まぁ……しょーがねぇか」

 詩人の胸は晴れやかだった。

 最期にひとつくらいは、何か良いことが出来た気がした。ちょっと短いようだけど、悪くない人生だったと思った。

 だが、

「いいや、まだですぜ。へへへっ、ダンナには世話になりやしたからねぇ、きちっと落とし前、つけさせてもらいやすぜ……!」

 不敵な笑みを見せる精霊。(※角刈り向う傷ありの中年男性)

 そして着流しの懐から刃物を取り出した!

「ちょ、待て待てまてまてーいッ! やっぱ持ってたじゃねーか! アンタ完璧そっちのヒトだろぉッ?」

 慌てふためく詩人。

 精神体なら物理攻撃など効かないのでは、という野暮なツッコミは置いといて。

 と、

「ふんッ! ぬぅおぉぉぉ……ぅッ!」

 なんと!

 せいれいは じぶんのむねに ドスをつきたてた!

「ひ……、ひいいいいッ!」

「こ、こいつぁ、あっしの魂。こ、こいつでダンナは、よ、蘇りますぜ……へへへ」

 どっくんどっくん。

「だとしても、想像以上にえぐすぎるわッ! 血ぃぼったぼたじゃねーかッ!」

「か、悲しいけど……、現実って、こんなもんですぜ……、ファンタジーや、メルヘンじゃねぇんですからね……ぐふッ!」

 ばったり!

 せいれいは ぶったおれた!



 …………。



「うああああ、怖かったよおおお、トラウマもんだよおおおッ!」

 やった!

 またひとつ しじんさんは

 いやなおもいでをてにいれた!

 すると、

「……ッ!」

 生々しかったその物体が眩い光を放ち、宙に浮かんだ。

 水晶玉となったそれに恐る恐る触れてみると、全身が粒子となって、詩人はその場から舞い上がった。

 詩人は彗星になって空を駆ける。

 海を、山を、街を越えて――。


 どこからともなく、声が聞こえる。

「ダンナ、行ってくだせぇ。ダンナにゃ、まだまだやるべきことがあるってもんですぜ、へへへ」


 つづく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ