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その32 歓喜の歌

「キサマあああッ! よくもボスをぉ! おいてめらぁ、やっちまえぇ!」

 指揮官を失った荒くれ共の行動は……、全軍突撃ッ!

 男たちが一斉に詩人に襲い掛かろうとしたときである、


「天なる父よ、大地の母よ、心正しき無垢の魂を汚す欲深き罪人たちに、今一度の裁きの光を与え給え――、

 ネメシスッ!」


 突然、辺りに眩い閃光が走り、荒れ狂う雷竜が大気を震わせ刃となって地上に降り注ぐ!

「……はッ? え、え、何、なに……ッ?」

「ぎゃああああッ!」

 阿鼻叫喚。荒くれ共は成す術もなく逃げ惑う。的確に、詩人と少年以外の男たちに光の矢が襲い掛かり、一人残らず電撃の餌食だ。

 地獄絵図が繰り広げられていた。

「いや……、ちょっ、待っ、おま……っ?」

 驚愕する詩人。

 目の前に現れた者は、

「お待たせしました詩人さん、もう大丈夫ですっ!」

 純白の法衣を纏い、神々しく輝く杖を持ち、桜色の長い髪を束ねた少女。

「まさか――、イオなのかッ?」

「はいなのです、詩人さん。魔法勇者イオン、見参です!」

 それは、慈愛にあふれる光の中でたたずむ女神のように、優しく微笑む乙女がそこにいた。

 詩人は呆気に取られ、立ち尽くしていた。

「ありゃ? 詩人さん、しばらく見ないうちに、縮んぢゃいましたか?」

「いや、お前がでっかくなったんだよ」

 泣き虫チビッコ幼女だったはずのイオ、今や絶世の美少女となって現れるなんて。

「てか、そんな顔してたンだな……」

 トレードマークの獣耳フードを被ってない。初めて素顔を拝んだ詩人だ。

「ちょ、照れるです! 何ジッと見てるですか!」

 イオの こうげき!

 イオは つえで なぐった!

 かいしんのいちげき!

 しじんに ちめいてきなダメージ!

「ぐふ……ッ!」

 ばったり!

 詩人はぶっ倒れた。

「ああッ! 詩人さん、せっかく再会できたのに、誰がこんなヒドイ傷をッ?」

「いや、言うまでもなく、お前さんのせいだからね……」

 やった!

 詩人さんは虫の息だ!

「腕力も、随分レベルアップしてるぢゃねーか……!」

「イオが魔法勇者になってみんなを守るには、ちゃんと修行が必要だったです。精霊さんにお願いして、こことは違う時の流れの中で、イオは試練に立ち向かいました」

「なるほどな。それで急成長を遂げたってワケか」

 それにしてもあの精霊め。そんなこと出来るなら最初っからやりゃぁいいものを――、

 殺気。

 詩人は突然起き上がり、身構える。

「見づげだぁ……ぞいづだぁ……ッ、ぞの小娘のぉヂガラを寄越ぜぇ……ッ!」

 荒くれ共のボス、大男もまた執念で起き上がり、イオに掴み掛かって来た。寸前に詩人が盾となりその身を挺して庇った。衝撃が詩人の身体を襲う。

「詩人さん!」

「う……、うおおおおッ!」

 詩人は渾身の力を振り絞り、男を背負い投げ飛ばした。

 ボスは再び動かなくなった。

 詩人もまた動けなくなった。





 丘の上には黎明が訪れようとしていた。

 やがて彼方から乳白色に染まり出す。

 辺りに瘴気だけを残して炎は鎮まり、荒くれ共は皆いつの間にか消え失せていた。

「詩人さん! 詩人さんッ! 起きてくださいです! しっかりするですよぉ!」

 イオは詩人の頭を抱き締めた。詩人はイオの膝に横たわり、

「イオ……無事か……怪我とか……してないか……?」

 ぽつりぽつりと呟いた。

 その頬にいくつもの雫が落ちる。

「詩人さん、イオは……、イオは本当は、知ってたです! 精霊さんが教えてくれたです。詩人さんが必死になって戦っていたことを……それなのに、イオは……!」

 その光景を、誰もが皆、見守っていた。

 院長婦人をはじめ、子供達やシスターたちは、何も言わず、少し離れた所から、ただジッと見つめていた。

「みんな……無事だったか……よかったなぁ……」

「はいです。詩人さんのおかげなのです」

 そして詩人は静かに目を閉じ、


 よろこび われらの あすへと つづけ

 ちちなる ひかりよ すくい たもうて

 だれもが てをとり ひとつに なるとき

 あいする よろこび ともに うたおう


「そういえば、詩人さんの歌声、初めて聴いたですね。……ねぇ、詩人さん」

「なんだい……イオ」

「イオの勇者さまは、詩人さんだったのですね」

「俺はただの……さすらいのうたびと……流浪の……吟遊詩人さ……」

「いいえ。イオの、いや、みんなの勇者さまなのです。立派だったです」

「…………悪ぃ……イオ……少しだけ……寝かせてくれ……」

「はいです。詩人さん、おやすみ……なさい……です……ぅぅぅ」


 ……つづく。

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