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その31 決戦、街はずれの寺院。

 熱い。

 全身が灼けるような熱さで詩人は目を覚ました。

 傷の痛みで高熱を出したせいかと思った。しかし、そうではないことがすぐに分かった。

 異臭。

 鼻に衝く焦げたニオイで危険を察知した詩人は、シーツを掴んでベッドから転げ落ちた。

 天井を煙が覆い始めている。ぐずぐずしている暇はないようだ。

 窓を叩き割るとあちこちから火の手が上がるのが見えた。近隣の森までもが炎に包まれていた。

 ここは二階だ。その身体で飛び降りるのかを迷っていると、

「詩人さん! 生きてるッ?」

 シスター見習いの少女の声。

「ばかやろう! 危ないから来るンじゃねぇッ!」

 詩人の制止を振り切って少女が廊下の奥から飛び出して来た。

 そのまま詩人の胸に倒れ込む。

「火がっ、炎が……っ、みんな燃えちゃう……っ、あいつらが、火を放って、火事がっ!」

「とにかく落ち着け! わかったから……!」

「詩人さん、怪我してるし、動けないんじゃないかと思って、それで、あたし……」

「そっか、助けに来てくれたんだな。怒鳴って悪かったぜ」

「良かった……よかったよぉ」

 しかしながら状況は最悪のようだ。まさか深夜に放火とは、やることが極悪非道極まりない。こんなことをするのは、昼間の荒くれ共に間違いないだろう。奴ら、もはや手段を選ばないつもりなのか。

 泣き崩れる見習い少女を抱き起こし、詩人は訊いた。

「院長はッ、子供たちは、みんなはどうしたッ?」

「みんなは、大丈夫、礼拝堂の奥に、地下室があって、あそこが一番安全だからって」

「そうか、みんな無事なんだな。よし、俺たちも早く行こう……!」

 詩人と少女は頭から毛布を被り、口元にはシーツを巻いて、一気に駆け抜けた。

 宿舎は全滅のようだ。行き場を失った炎と煙が舞い踊り轟音を上げている。

 二人は階段を転げるように滑り落ち、中央広間へと急いだ。詩人は扉を蹴破って抱きかかえていた少女と共に押し入った。幸い、礼拝堂に火の手は伸びていなかった。

 しかし、

「おらおらぁ、さっさと出て来やがれーッ!」「それとも、みんな仲良くそのまま丸焼きになりてぇのかーぁッ!」「どのみち生かしちゃおかねぇけどなぁ、ぎゃはははーッ!」

 汚い怒号。

 げらげらと大勢の笑い声は外から聞こえる。すでに包囲されているようだ。

 さらに衝撃音。奴ら、放火だけでは飽き足らず、ここを完全に破壊するつもりか? 玄関ホールは廊下を挟んだ向こう側だが、侵入してきてはいないだろうか。

 見習い少女が告げる。

「大丈夫。玄関とここだけは、そう簡単に壊れたりしないはず……、たぶん」

 流石は祈りを捧げる神聖なる場所だけあって、元から造りが頑丈のようだが、それも時間の問題か。

 詩人と少女は聖母像の足元、隠し階段に急いだ。


「ふたりとも、ご無事でしたか!」

「いんちょ~~~ッ!」

 見習い少女が院長婦人に抱き付いた。

 倉庫のような狭い地下室だった。

 子供たちも他のシスターたちも輪になり身を寄せ合って、みんなうずくまっている。

「ふぇぇん、こわいよぉ」「ねぇ、みんなしんじゃうの?」「いたいよぉ、いたいよぉ」

 怪我をしている子がいた。放心状態で宙を見つめたままの子もいた。泣き疲れて寝ている赤子さえもいた。

「あいつは、あの小僧はどこだ?」

 詩人は声を絞り出した。黒髪の少年の姿が見えない。

「そうだ! あのコが居ないよ! いんちょー、あの男の子、見ませんでしたッ?」

 見習い少女は泣き叫んだ。

「彼は……ひとりで残りました。私たちが何を言っても聞かずに、ただ剣を持って、玄関の方へ……」

 目を伏せ、院長婦人が続ける。

「きっと戦うつもりなのでしょう……私は、私はただ、見送る事しか出来なかった……」

「そうか……。行ってくれたのか、あいつ」

 自然と笑みがこぼれた詩人、そして、立ち上がった。

「ちょっ、どこ……行くの? アンタはまだ動いちゃダメだってば!」

 すがりつく見習い少女の頭を撫でてやる。いつの間にか三角巾が取れて、ベリーショートの金髪が露わになっていた。

「なぁんか、おサルさんみたいだなぁ」

 なでなで。

「ちょっとぉ、ばか! もぉ、ばかぁっ!」

「嘘ウソ。でもまぁ、キレイな髪質してっから、伸ばした方がきっともっと似合うと思うぜ」

「ちがぅよぉ、切ったんだもん。あたしだってぇ、ここに来る前はぁ……うううああん……」

 自分の使っていた毛布を泣き崩れた少女に掛けてから、

「さてと、じゃぁ俺も行ってくるぜ。院長さん、ちょっとの間、頼ンますわ」

 詩人は剣を手にし、隠し階段を上り始めた。

「どうか、どうかご無事で! 神のご加護がありますように……!」



   *



 そこらじゅうから聞こえる、怒号と悲鳴、破壊音。

「しっかしまぁ、真夜中だってのに元気な奴らだねぇまったく。やれやれ」

 詩人は礼拝堂を抜け、玄関ホールの大扉を開く、と、

「ぐああああッ!」

 なんと!

 あらくれが とんできた!

 しじんは ひらりと みをかわした!

「このぉくそガキがぁ、裏切りやがってぇ!」

「…………」

 黒髪の少年はたったひとり、迫り来る荒くれ共を黙々となぎ払っていた。

 十や二十じゃない、男達は百を超える数で攻めて来ていた。

 終始無言の少年だったが、流石に息が上がり始めている。

 中央、スキンヘッドの男が叫んだ。

「路頭でくたばりかけてたテメェを、拾ってやった恩を忘れやがったのか!」

「ほうほう、説明口調でありがとさん」

 詩人さん、なっとく。そういうワケだったのか。なるほどなー。

「なっ? て、テメェは!」

「またお会いしやがりましたね。はいはい、こちら詩人さんですよー。昼間はどもども、坊主くん」

「か、かまうもんか! やれ! みんなやっちまえ!」

「よう、団体さん追加だぜ? お前さん、まだイケるかい?」

 詩人。

「…………」

 こくり。

 眠たげな目を伏せ、少年はただ頷いた。

 扉を背に、ふたりは剣を構えた。

 様々な武器を手にした男達が勢揃いだ。

 対峙する者たちの間を風が抜け、夜空に火の粉が舞った。辺りは昼間のように明るく、異常なほどに熱気は上がり続けていく。



 詩人と少年は上手下手に別れ、次から次へと突っ込んで来る命知らず共をそれぞれに蹴散らしていった。

「バカなっ! 相手はたったふたりだぞっ? なんてザマなんだキサマら! 次、早く行きやがれ!」

 狼狽えるスキンヘッドの男。コイツ自身は戦闘には参加しないくせに、ちっ、偉そうにしやがって。

 しかしながら満身創痍なのは詩人と少年。

「ったく、キリがないぜ。こいつぁ本気でヤバいかもな。こうなりゃふたりで逃げ出すかい?」

「…………」

 ぶんぶん。

 首を横に振る少年。

「お前さん、やっぱ男だよ」

 詩人。

 と、

「どけ、奴はオレがやる」

 軍勢の中から声が上がった。

「ボスっ! 待ってましたぜ!」

 歓喜するスキンヘッドを押し退け、屈強な大男が前に出た。 

「ついに来やがったか、会いたかったぜ、こんちくしょう……!」

 宿敵を前にし、騒ぎだす詩人の血。

「オレもだ、名もなき詩人よ」

「お前だけは、お前だけは……ぁッ!」

 詩人は、この男だけは許せなかった。許すわけにはいかないのだ。

 異様な緊迫感が漂う中、ついに対決が始まる!

「貴様に沈められた船の礼をしなくてはな。いくぞッ!」

 あらくれボスの こうげき!

 つうこんのいちげき!

 ミス!

 しじんは ダメージをうけない!

 大男は一気に間合いを詰め、手斧を振り下ろした。咄嗟に構えた詩人だが、

「ぐ……ぅッ!」

 背中に激痛が走った。その拍子で体制が崩れ、辛うじて一撃を躱したに過ぎない。

「ぬぅん!」

 続けてボスは詩人の頭上を目掛け攻撃を繰り出す。それを剣で受け止めた詩人。ボスの連打。詩人は防戦一方だ。金属同士がぶつかり合って火花を散らす。

「どうした若造! いきがっていたくせにその程度か!」

 詩人の腹を抉るようにボスの素早い蹴りが入った。

「ぐ……ぁッ!」

 無様に転げ回って詩人は外壁に激突した。

「貴様ら、なにをしている。さっさと突入しろ! 連中を引きずり出して来い!」

 轟!

 ボスの命令で手下共が一斉に唸りを上げた!

 這いずって詩人は、

「頼む、お前さんは、みんなを……、みんなを守ってくれぇ……!」

「…………」

 少年は小さく頷き、大扉の前に躍り出る。

 果敢にも群がる荒くれ共に立ち向かう。が、数に押され、容赦のない攻撃に傷つき、息も絶え絶え、ついに少年は倒れてしまった。

 詩人はなんとか立ち上がる。剣も持たず、ふらつきながら、屈強な大男、荒くれ共のボスの元へと、一歩ずつ、詩人は近づいていった。

「まだ、やるのかね?」

「……へっ、へへへ……っ」

「どうした? 恐怖でついにおかしくなったのか?」

 怪訝な目を向けるボス。

「俺ぁな、ここに来るちょっと前、夢を見たんだよ。それはもぉ、最ッ低な、悪夢だったぜ」

 もはや詩人は風前の灯火だったが幽鬼さながらの執念で距離を縮める。 

「ボスぅ、コイツ、どうしますぅ?」

 坊主男が動かなくなった少年を引きずって来た。

 詩人はちらり、とだけ、それを見て、

「彼女が淹れてくれた珈琲を、お揃いのマグカップでなぁ、へへへっ……、陳腐すぎて反吐が出らぁ。ぜってぇ、忘れねぇよ、たぶんもう、一生な……」

「ふん。では、せめて最期くらいはマシなものを見せてやろう。――走馬燈ってやつをな」

 ボスが詩人の首に両手を掛けようとしたその瞬間、

「ああ、そうさ。忘れらンねぇよ――、お前に一発入れるまではなぁッ!」

 しじんの こうげき!

 かいしんのいちげき!

 あらくれボスに ちめいてきなダメージ!

「ぐがぁあああぁ……ッ!」

「今のは、あの娘の痛みだぁ! 思い知ったか、ばかやろうッ!」

 詩人のアッパーカットがボスの顎に直撃した。しかし、それだけではない、詩人の手に握られていたものは、黒服から預かっていたあの金属板だ。それが、砕けた。ボスの顎骨もろとも、だ。

 轟音を立て、大男は崩れた。

「へへへっ、ザマーミロ……!」

 詩人も崩れ落ちた。


 つづく!

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