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その28 「伝説にはこうあります。――その者、白き衣を纏いて翠緑の地に降り立つ――、と」 「それ絶対ウソだよねッ? こないだ金曜○ー○シ○ーでやってたからって、影響されすぎじゃねッ?」

「ふぃ~。やれやれだったぜ」

 逃げ出した荒くれどもが見えなくなり、一息ついた詩人だ。

 だがこれで、ようやくひとつ目的が果たせた。足元で気絶したままの、黒髪の少年。そして、あとは、もうひとり、と、

「詩人……。アンタ、ホントに強かったんだ……」

 シスター見習いの少女が、ジッとこちらを見つめている。それに対し詩人は、

「ふふん、惚れたかい?」

「ばっ、ばか! だ、誰がアンタなんか……!」

「あれ、お前さん、顔赤くね?」

 詩人が茶化した。

「べ、別にアンタのことなんて、なんとも思ってないんだからねっ!」

 見習いの少女は真っ赤になって声を上げた。すると詩人は急に目を細め、明後日の方向を見つめ、

「でもな、お前さんには悪いが、俺は流浪のうたびと、さすらいの吟遊詩人さ。歌詠み流れ、旅から旅へ。そう、ひとつの地に留まることは出来ない運命さだめなのさ」

 なんと!

 しじんは じぶんじしんに

 よいしれている!

「だ、ダメよ! あたしには、あの人が――ゆうしゃさまが居るぢゃない! 目を覚ませ、あたし! うおおおお……ッ!」

 なんと!

 みならいしょうじょは

 じぶんで じぶんのほおを れんぞくひらてうち!

「……おふたりとも。それぞれ自分の世界に浸っているところ申し訳ないのですが」

「それでも良いと言うのなら、いいぜこいよだいてや……ん? ああ、悪いな、院長さん。なんか騒がしくしちまってさ」

 院長の冷静な一声にやっと目を覚ました詩人さんだ。

「いえ、あの者たちを放って置いたら今頃どうなっていたことか。結局またあなたに助けられましたね。ありがとうございました」

「いやいや、あいつらとは、俺もちょっと、な」

 むしろ、俺が巻き込んじまったのだろうか、詩人は複雑な心境だった。

 院長が続ける。

「しかし、おかしいですね。先代の国王様より預かりしこの施設、いくら商業協会とは言え、あのような者たちが急に押しかけてくるとは……」

「それなんだがな。やつら、言ってただろ、孤児をみんな寄越せって。でもそれは違う。やつらが狙っているのは、イオひとりだけなんだ」

「イオ……?」

 見習いの少女が首を傾げた。どうでもいいけど、頬めっちゃ腫れてるぞ。

「ああ、そっか。えっと、もうひとり子供を捜してるって言っただろ? イオってやつでさ、真っ白な格好した、やたら元気なチビっこが来なかったか?」

「それはまさか、魔法勇者イオン様のことですかッ?」

 詩人の問いに答えたのは院長だった。というか、

「イオン“さま”だと~ぅッ?」

 え、なに、アイツ、自分で言いふらしてンのか? しかもなんか敬われているし……。驚愕の詩人だ。

「先日、この地に大勢の魔物が現れたとき、イオン様がその絶大なる魔法力で我々を守ってくださったのです」

「ええー……なにやってンの、アイツ」

 大勢の魔物って、あの仲間呼ぶ昆虫かな。アイツ、虫平気だったっけ?

 しかし!

 それはいま わりとどうでもいい!

「ですが……イオン様は……」

「?」

 何かを言いづらそうな院長だが、

「イオン様は、――今、ここにはおりません!」

 きっぱり。

「な、なんだって~ぇッ?」

 驚愕の詩人さん、ふたたび。

「イオン様は、己の未熟さに気付き、山奥へ修行に入られました」

「えええええー、いまさら~ぁ?」

 おいおいおい、アイツ、まぢで何やってンのッ?

 詩人は胸中に叫んだ。

「今しばらくは、帰りを待つこととしましょう。それよりも……、大丈夫なのですか?」

 院長が急に不安気な顔を見せた。

「え? あ、コイツ? ……いやぁ思いっきり投げちゃったからなぁ。受け身とかとってなさそうだし。頭とか打ってたらどうしよう。ヤバいかな。でもコイツ、剣のウデだけは格別だったけどな。何者なんだろな、コイツ」

 いまだ足元で倒れたままの黒髪の少年を気遣った。

 が、

「いえ、そうではなくて……。詩人さん、あなたのお身体の具合は?」

「え、俺のからだ? 別に、なんともなきゅ~~~~ッ!」

 ばったり!

 しじんは いきなり ぶったおれた!

「いけない! 早く、この方を休ませてあげなくては!」

「うっわ、身体あっつ! 熱すっご! ……こんな身体で戦ってたンだ」

 見習いの少女が声を落とした。


 詩人さん、またしても、ばたんきゅーエンド!


 つづく!

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