表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

その27 「これまでのあらすじ。さすらいの詩人さんは以前別れた魔法勇者イオを捜し街はずれの寺院にたどり着く。そこでシスター見習いの少女と茶番してたら不審者乱入で、さぁどぉなるッ?」

「子供たちをみんな差し出せ? 玄関先で、あのヒトたち何言ってンの?」

「あ、アイツはッ!?」


 荒くれどものひとり、坊主頭の男が一歩前に出て畳み掛けた。

「いいか? この場所はすでに商業協会が買い取ったんだ。ここには新たに街の自警団の拠点として要塞を築く予定だ。孤児どもは全員そこで働いてもらう。まぁ、当然タダ働きだけどな」

 しかし臆することなく凛として言い返す、院長。

「ここには行くあてのない多くの子供たちが神の教えを学び、静かに暮らしています。急にそのような横暴が、通るはずもありません」

「そっちの事情なんざ、知ったこっちゃねぇな。土地の権利書はこっちにあんだぜ。フン、何が神だ、ロクなもんじゃねぇや、なぁ!」

 男たちが一斉に笑い出した。げらげらと下品な声を上げている、と、

「まぁ、神さまなんてのは俺も信じちゃいないンだが……ロクなもんじゃねぇのは、お前らのほうだろ?」

 なんと!

 詩人が割って入った!

「て、てめぇ、まさか生きてやがったのか?」

 狼狽える坊主男に、それはお互い様だぜ、と詩人。このスキンヘッドには見覚えがあった。というより因縁か。

「にしても可哀想になぁ、お前ら。住処だった貨物船が、“魔物に襲われて”寝床が無いんだったっけなぁ? でもな、悪ぃけど他を当たってくれないかな?」

「ふざけたことをぬかしやがって! だが、てめぇがいるってことは、やはりあの小娘はここに居やがるんだな?」

「さぁ、どぉかな」

「とぼけるな! おい、てめぇら、やっちまえ!」

 合図と共に、後ろに控えていた男達が一斉に躍り出る――!

 あらくれどもの こうげき!

 しじんは ひらりと

 みをかわした!

 と同時に詩人は鞘ごと剣を叩きこむ。男ひとりの腹に突き立てたまま片足を上げ、ふたり目の顔面に強烈な蹴りを入れ、これをなぎ倒した。

「つ、強ぇ……」「何者だよ……てめぇ」

 崩れた男たちが呻きをもらしていた。

「俺は流浪のうたびと、ただの吟遊詩人さ」

「詩人……さん?」

 それまで見守っていた見習い少女が小さく声を上げた。

 詩人は坊主男に向き直る。

「あんときゃ散々お世話になったからなー、お前らには。あ、そういや、今日はあいついないの? あのクマ殺しみたいな異名持ってそうな、お前らのボス。居ないのか、なぁんだがっかりだわー。そちらさんにもお礼したかったンだけどなー」

 余裕の素振りを見せるがその表情はいつになく険しいものだった。嫌な汗が頬を伝ったが悟られまいと必死の詩人だ。

 坊主男が声を荒げる。

「クソっ、調子に乗りやがって! こうなりゃヤケだ。行け小僧!」

 外にはまだ仲間がいたのか。こいつぁちょっとヤバいかもな、詩人は胸中にもらした。

「…………」

 音もなく現れたのは、少年。

 黒髪で眠たげの目をした中性的な顔立ちの男の子だ。

「お前さん、なんでそいつらと一緒にいるンだよ……?」

 驚愕する詩人。

 それは詩人が捜していた人物に間違いなかったからだ。

「え、なになに? あのコ、アンタの知り合い? いやこれ、どういう展開なの? ちょっとぉ、あたし、ついてけないンですけどーぉッ?」

 見習いの少女が詩人の袖を引っ張って来た。が、院長がそれを引き離し、ただ首を振った。

「…………」

 少年は静かに剣を抜いた。構えもなく無表情のまま、じっと詩人を見つめている。

「いいぜ。相手になってやる」

 詩人も今度は剣を抜いた。そして、

 しじんの こうげき!

 しょうねんの こうげき!

 詩人と少年は剣を交えた。互いに激しく打ち合った。少年は素早い。攻めの手数が多かった。詩人は的確に返していたが、しかし徐々に押されていった。

「う……ッ!」

 一瞬の油断。

 壁際に追い込まれた詩人は、剣をはじき飛ばされ、床に膝を着いた。

「いけ小僧! そのままトドメ刺しちまえっ!」

 坊主男が叫んだ。

「…………」

 その無口、無表情なのがやたら不気味な少年だ。

 少年は両手持ちで剣を構え、詩人に迫る。

 と、

 しじんの はんげき!

 かいしんの いちげき!

「――ッ!」

 詩人は少年の鳩尾みぞおちに肘打ちを入れた。怯んだ瞬間、背負い投げで床に叩きつける。少年はそのまま動かなくなった。

「お前さん、剣技はなかなかだったよ。でも体術がまだまだだったな。軽ぃし、ちゃんと飯食わなきゃダメだぜ? さて、と……まだ、やるかい?」

 詩人。

「……な、なんてヤツだ」

 坊主頭が呆れて呻き、

「てめぇら、ずらかるぞ! くそッ、覚えてやがれッ!」

 なんと!

 あらくれどもは にげだした!

「おーい。いいのか、お前ら? コイツこのまま置いてって」

 詩人の足元、意識を失った少年は動かないままだった。


 つづく!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ