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その21 「あ、言っておくけど……、押入れは私が貰うから」 「夢のド〇〇〇ん生活ッ?」

 室内は薄暗かった。

 カビ臭く、埃っぽい。普段あまり使用されていない場所だと分かった。

 詩人は押し殺した声をだした。

「話があるンだが」

 武器屋の娘は近くの積み荷に腰を下ろしていた。

「なんなの」

「助けてくれないか?」

「…………」

 詩人の言葉に娘は目を伏せた。

「頼む、見逃してくれ」

「無駄よ。そんなことをしたらタダでは済まないわ」

 娘は貌を振った。

 それでも詩人は懇願をつづけた。

「そんなこと言わないで、頼むよ、な? な?」

「無理よ。あきらめなさい」

「そんなこと言わないで、頼むよ、な? な?」

「無理よ。あきらめなさい」

「そんなこと言わないで、頼むよ、な? な?」

「無理よ。あきらめ……って、アンタね、なんなの、コレ? 無限ループごっこでもしたいつもりなの? 私にこの流れは通じないわよ」

 きっぱりと、娘。

「ちぇっ」

「舌打ちッ?」

「可笑しいなぁ、お前さん、こういうやり取り、好きそうだと思ったンだけどなぁ」

 あっけらかんと詩人は笑って見せた。

「ず、ずいぶんと余裕なのね……。自分の状況、分かっているの?」

「まぁね。こうなった以上、悲観的になっていても何も進みはしないンでね」

 未だに拘束されたままで床に転がった芋虫状態の詩人さんである。

「さっきまで半死人だったくせに」

 娘は、そうつぶやいた。今でも詩人は満身創痍だ。それでも詩人は努めて明るく振る舞った。

「つーこって、いっちょ頼むわ、この縄を解いてくれるだけでいい」

「そんなことをしたら、アイツらが何するか……」

 娘は困惑しているようだ。

「お前さんは、俺が助ける。かならずだ」

「そんなの、できっこないわ」

 娘は、ゆっくり、かぶりを振った。

「だとしても、このままでいいのかッ? あんなヤツらの言いなりになって、罪を犯すのか?」

「言ったでしょう。あの街は裏ですべて繋がっているのよ。どこへも逃げられはしないわ」

「お前さんのことは俺が守ってやる。だから、一緒に逃げよう!」

「どうして? どうしてそんなことが言えるの?」

「さぁね。惚れちまったのかもしれない」

「うそね」

「ウソなもんか。俺ぁ、さすらいのうたびとだぜ。真実しか歌わないのさ。だけど、どっか知らない場所で、お前さんと一緒に商売でもやるもの悪くないかなってな。あの接客体験、楽しかったしなぁ」

「…………」

「じゃぁ、こういうのはどうだ。――俺と手を組まないか?」

「急にッ? って、いつの間に対等の立場になったのよッ? ていうか、アンタと組んで何の得があるっていうの?」

「そうだなぁ、――俺の味方になれば、世界の半分をお前さんにやろう!」

「何様ッ? どこのラスボスなのよ。アンタ、ホントに自分の状況、分かって言っているの?」

「じゃぁ、いいよ。ワンルーム、四畳半のうち、二畳半がお前さんで、俺が二畳でもぉ」

「狭ぁッ! 急に範囲狭くなったッ! 世界どこ行ったぁッ?」

「あ、ちなみに風呂無しでトイレは共同なんで、そのへんは、まぁ、なんつーの、こう……、がんばろうなっ!」

「なにをッ? 何を頑張れと言うのッ? ていうか、アンタ、住所不定でしょぉがぁああああッ!」

 むすめのさけびが こだまする!

 と、

 詩人は照れくさそうに、はにかみながら、

「いや、わかんねぇかなぁ。その、なんだ、一緒に暮らそうぜってことなんだけどな」

「…………ばか」

 そこまでだった。

 足音がして、男が入ってきた。

 先に詩人を痛めつけたのとは別の男だ。

「なんだ、騒がしいな。おぅ、飯の時間だぜ」

 スキンヘッドで、こちらも鍛えられた身体の持ち主だった。

「手当だぁ? 要らんいらん。どうせすぐに始末するヤツだろぉが、コイツぁ」

 男はそばに来ると、詩人の顔を無造作に踏みにじった。

「私、そろそろ街へ帰りたいんだけど」

 武器屋の娘が立った。

「そうかい。なら夜明けまで待つんだな」

 男は、詩人の顔を踏みにじったままだ。

「夜が明けたら、街はずれの寺院へ攻め込むってよ」

「そぉ」

「あそこはまぁ、よくわかんねぇ場所だからな。噂では、罪人や浮浪者まで、かくまっているらしいって話だしな」

「…………」

 一瞥しただけで、娘は出て行ってしまった。

「よぉ、兄ちゃん、気分はどうだい?」

 答えたくても喋ることが出来ない。

 詩人は長い間、男に踏みにじられていた。

「女に騙されて捕まるたぁ、なんとも間抜けな野郎だぜ、まったく」

 ああ、そのとーりだろうよ、どーしてこーなったんだか。

 詩人は胸中につぶやきを落とした。

 娘からの返事は聞けなかったが、望みは託したはずだ。

 詩人は屈辱に塗れながらも、残された室内に、もはや絶望感は無かった。


 つづく!

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