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その2 「こっちですっ、へいたいさん、こっちなのですっ! こっちに、ゆうかいはんが、いるですっ! ゆうかいはんですっ! 略して、ゆうはん。なのですっ!」 「ちょっと待てぃ、その略し方はおかしいッ!」

「……そんでな、こんなご時世だろ? ほらな、モンスターとか、うじゃうじゃいるじゃんよぉ」

 ややあって。

 男は、この場をなんとか落ち着かせることに成功した。

 周囲に不吉な叫びを撒き散らし逃げ出そうとしたそいつに、男は金貨数枚を与えてやった。その途端、急に大人しくなったのだ。

 男の隣に、ちょこんっと座って、そいつは、

「ほほぉ、それでそれで、おじさんは、すごうでのよーへーさん、だったのですっ?」

 全身、真っ白なコート姿の子供だった。

 左右にだらんと垂れた、なんかデカくて獣のような長い耳の付いたフードを、すっぽり被っていた。女のコ、だと思う、たぶん。

「んー、いやぁ、傭兵ってワケでも、ましてや凄腕なんかじゃ全然ないんだがなぁ、“お兄さん”は」

 陽はすっかり沈んでしまっていた。街はずれの外灯の下、二人して並んでベンチに座っているのだが、一体、何をしているのだろうと思いながらも、男は続けた。

「……まぁ、こんなんじゃ、いつどこで死んじまうか分かんねぇだろ? だからな、俺ぁ、自分の好きなように生きることに決めたんだよ」

 言って、男はチラリと隣を覗った。

 大き目のフードをさらに深く被っているので、いまいち表情が見て取れない。ちょっと怖い。

 そのコが舌っ足らずで返してくる。

「むぅ、じぶんさがしとは、なかなかやるですねっ? おじさんのくせにぃ」

「ああ、うん、なにも、人をそんな思春期真っ盛り野郎みたいに言わなくてもね……、ってか、“おにーさん”な?」

「ほむ~ぅ、わかった、ですっ! つまり、じゅーしょふてーむしょく、なのですねっ、おじーさん!」

「混ざっちゃったよッ! 俺の現状としては間違っちゃいないけれどもッ!」

 てか、おじーさん、って!



「いいかい、お嬢ちゃん、俺は、さすらいの“うたびと”なのさ」

「ほぇ? たびびとさん、では、ないですっ?」

「詩う人、と書いて、詩人。そう、流浪のうたびと。俺ぁ世界中を旅して、自分の歌をうたって食っていきたいんだ。まぁ、なんつーの、こう……、吟遊詩人ってヤツだな」

「おお~ぅ! しじんさん、だったですねっ!」

「へへへっ、まぁ、な」

 男は――、詩人は思わずドヤ顔を決めた。

 が、

「つまり、いいとしなのに、まじめにはたらこうともせず、ユメとかかたっちゃってるオレかっけーとかおもって、そのくせ、たいしたどりょくもせずに、ただげんじつからめをそむけているだけの、いまのよのなかのきれつがうんだ、いわば、しゃかいせーかつふてきごーしゃ、なのですねっ!」

「幼女が的確にヒトの痛いところを突いて来たーッ!」

 でも、ひらがな口調だから、すっごく読みづらいしッ!

「おい、このダメにんげんっ!」

「どストレートで悪口きちゃったよッ!」

 悪意がッ、なんかすっごい、悪意がぁッ!



 詩人は頭を抱えて呻き出す。

「ったく、なんなんだよぉ、こっちは、さんざん若者らしく夢を持てとか言われて育ったのによぉ。んで、気が付いてみれば、いい歳こいて夢とか見てんな現実見ろよとか言われるし。……ああ嫌だヤだ。だから大人は嫌いなんだ。俺たちのことを、な~んも分かっちゃくれやしねぇ! 嗚呼、盗んだドラゴンで飛び出したい……、嗚呼、このクエストからの卒業……」

「そつぎょうして、いったいなに、わかるというのですっ?」

「知らねぇよ」

「あとなんど、そつぎょうすれば、いいのですっ?」

「だから、知らんがな」

「てゆっか、しじんさんは、もぉすでに、はたちこえているのではっ?」

「ああそうでしたねッ、確かにねッ!」

 ……物覚え良いんですね、近ごろのお子様はッ!


 つづく!

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