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その18 「裏切ったな! 俺の気持ちを裏切ったなぁ!」 「悪いわね。世の中、武器屋だけじゃ食べてけないのよ」 「やっと就職先、見つけたと思ったのにぃッ!」 「アンタ住み込む気だったの!?」

「……………………はッ! ここはドコッ? 俺は誰ッ?」

 詩人は目を覚ました。

「いや、知っている。この俺は、さすらいのうたびと、いわゆる、吟遊詩人ってやつだ。世界を気ままに旅して巡る、ちょっと夢見る、真剣・二十代! なんだぜ。よろしくな! しか~し、ここはドコだ? ドコなんだ? いやまぢで。っていうか、うぉぉぉ気持ぢ悪ぃぃぃ……ッ!」

 ヒドイ頭痛が襲い掛かった。それはまるで、浴びるほど酒を飲んだ次の日のような感覚。……いや、待てよ。俺は酒には強いほうだぞ。こんなに悪酔いするはずが無い、ていうか、まだ一口しか飲んでないような? ……詩人は濁流に揉まれる頭の中で徐々に記憶を取り戻そうと――、


「お目覚めかい?」


 扉が開き、男が入って来た。近づく気配。

 ふいに詩人は気が付いた。自分が、床に転がされていることに。さらに両手は後ろ手に縛られていた。

 男は酷く冷たい目で、詩人を見下ろしている。

 屈強そうな男だ。素手で獣も仕留められそうな威圧感がある。

 しかし詩人は喚きも騒ぎもせず、そのままの格好で男に訊ねた。

「あんた……何者だ?」

「ほぉ。よく、落ち着いていられるものだね」

「まぁな……こんな状況、こちとら初めてじゃないンでね」

 詩人にとってこの仕打ち、二回目なのである。

 あのときは風呂場だったしな。しかも、目隠しされていたし。

 それにくらべりゃぁ、服も着てるし目も見える。多少頭痛はするが、随分マシな気がするぜ。

 と、詩人が感慨深く思っていると、

「あー……、きみ、そっち系の人か~……」

 おとこは に・さんぽ あとずさった!

「距離を取るなッ! 別に俺、そういう趣味じゃないからねッ!」

 ……ここに来てようやく声を荒げた詩人さんである。

 と、

「ホント、バカなヤツね」

 男が下がったほうから、若い女性の声がした。

 詩人はそれを凝視した。

「てめぇ……謀ったな……!」

 武器屋の娘がそこにいたのだ。



 ――もう遅いから、今日は店仕舞いにします。

 いつの間にか店に帰って来た娘がそう言った。確かに、あのときすでに外は夕暮れだった。

 それまで店番をしていた詩人は、約束の報酬――尋ね人である少年の目撃情報――を、閉店作業を手伝いながら待った。

 せっかくなので、食事にしましょう。ゆっくりお話でもしながら、どうです? と、娘の誘いに、詩人は乗った。

 ワインはいけますか? 娘はグラスを差し出した。娘の部屋で、だ。

 時は来た、若い娘と、美味い酒――、最近の詩人さんと来たら、やれ護衛だ子守りだ迷子捜しだ店番だ、と、ゆっくり一息つく暇もなかったものなのである。

 詩人はグラスの中身を一気に飲み干した。

 これくらいは罰も当たらんだろう。――カミサマだって何も禁止なんかしていないはずだ……!

 ――と、そこまでである。


 以上、回想、おしまい。


「うぎぎぎぎぎ……ぃッ!」

 しじんさんは ちのなみだを ながした!

「ちょ、なにコイツ、こわぁ……ッ!」

 やった!

 むすめは じゃっかん ひいている!

「うおおおぉ、思い出したぜ……コノヤロウ……ッ! よくも……よくもぉ……!」

 歯を食いしばり過ぎて今にも吐血しそうな勢いの詩人さんだ。

「そ……そちらの事情は、なにかよく知らないが、うん。まぁ、良くやった。あとは任せておけ」

 おとこも じゃっかん ひいていた!

 だが、引きつつも、男は再び詩人に近づいた。恨めしそうな詩人の視線を他所に、娘は部屋を出て行ってしまった。

 詩人は不自由な身で辺りを見渡した。薄暗く、積み荷のようなもので囲まれていて、狭い。どこかの倉庫だろうか。薬品で眠らされ運び込まれたとしたら、二日酔いに似た頭痛の正体は、その後遺症のせいか。

 だが、それとは違う、酔いがある。不規則なリズムで、部屋全体が静かに揺れている。

「さて。訊こうかね」

 男が声を落とした。文字通り、足元に転がる詩人に、だ。

「なにを?」

 詩人に心当たりはない。何故自分がこんな目に合うのか、自身にはその理由が見つからなかった。あるとすれば……、

「あの子はどこだ?」

「…………」

 やはり、か。何か知らないが、コイツもあの黒服の連れである、少年を捜しているのだろう。

「いや、むしろ、俺も捜しているンだけどなぁ……」

 しかし、詩人の言葉を遮るように男が続ける。

「とぼけても無駄だ。お前がこの街へ連れて来たことは分かっている」

「ん?」

 連れて来た……? いやいや、連れて来たのは黒服だろ? 俺は、はぐれたソイツを捜しているんじゃないか。

 が、

「あの小娘はどこへやったと訊いている!」

 こむすめ……って?

 まさか……ッ!


 つづく!

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