その15 邂逅(邂逅)2
誰かが入店してきたようだ。
鎧姿の壮年、どこかの兵士だろうか。
気配を察し、乱雑なカウンターの中で、のそのそと男が起き上がる。
男はその兵士を一瞥し、
「なんだ、客か……」
それだけ呟くと、怪訝そうな兵士の視線を他所に、わざとらしく欠伸をして見せる。
あたりの商品を一応は手にしてはみるものの、やはり気まずくなったのか、壮年兵士は何も買わず、早々に店を出て行ってしまった。
しばらくし、兵士の姿が見えなくなると、
「ったく、冷やかしはゴメンだぜ、やれやれ……」
そしてその男――詩人は、煙草に火を点け――、
ばちこーんッ!
「なにやってんですかあなたはーぁッ!」
ぶきやのむすめの こうげき!
かいしんのいちげき!
しじんさんの とうぶに きょうれつなダメージ!
「痛ぇなッ! 何すンだよッ!」
頭を抱える詩人さん。衝撃で、咥えていた煙草が床に転がった。それを地団駄踏んでもみ消しながら、
「あんた接客業なめてんですかっ! ありえないにも程がありますよ!」
この武器屋の娘である女性店員がわめいた。
「いいじゃねぇかよぉ、あー勿体無ぇな~ぁ」
「バカ者! 室内、禁・煙っ! 業務中に一服するんじゃありません!」
「ちっ……サボろうと思ったのに」
娘はひどく呆れ嘆息し、
「も~、また一から教え込むしかないようですね、……それではお客様がいらっしゃったときは、はい!」
「……っらっしゃーせーっちはー」
やる気のない、詩人さん。
「違う! 『いらっしゃいませ、こんにちはー!』 はい、復唱っ!」
「いらっしゃいませ、こんにちはー!」
「そしてお客様が帰られるときは、はい!」
「……あらぁしたっせ~~~」
ひどくダルそうな、詩人さん。
「ちがぁーーーう! 『ありがとうございました、またご利用くださいませー!』 はいっ!」
「ありがとうございました、またご利用くださいませー!」
「決して笑顔を忘れない! ベストな、スマイルッ! はいっ!」
ニコっと、武器屋の娘。
「俺、スマイルッ!」
ニコっと、詩人さん。
「ふぅ、良いでしょう…………、ん、どうかしましたか?」
しじんさんは おもった!
「……お、俺は一体、何をしているんだろう……?」
しかし それはだれにも わからなかった!
引き続き、ここは武器屋である。
一体何をしているのだろうと自問をしても自答は出来ずにいる、詩人。
……いかん、このままでは。話が全然進まない。前回なんて丸々無くても良かったんじゃね? そもそもさ、魔法少女ものかと思いきや、探偵ものに強引な路線変更かよ? なら、なんで接客うんぬん仕込まれなきゃなんないの? ビジネスにまで手を出すの? やめろって、お腹いっぱいで収集つかないって! え、つぅか、これ、冒険活劇だったよね? ……でも、だって、小一時間ほど店番すりゃぁ、有力な情報を提供してくれるって言うから――、
それは、詩人が捜している人物についてだ。眠たげな目をした少年。目撃情報があると言う。
しじんさんは おもった!
う~ん、何故だろう、すっごく腑に落ちないが、なんとなくRPGっぽい気がするなぁ。
ふと、詩人は娘に訊いてみた。
「なぁなぁ、あんた、なんで武器屋なんかやってンだ?」
「儲かるからですよ」
こともなげに娘は答えた。手にした短剣を綺麗に拭き上げている。
「ほぉ。そうは見えないけどねぇ」
あの兵士以来まったく、来客はない。
こちらを見ずに娘が訊き返す。
「どうして武器屋が儲かるか、おわかりですか?」
「さぁね。考えたこともねぇな」
「武器が、何の為にあると、お思いで?」
「……なるほどねぇ。そりゃそうだ。ごもっとも」
娘の一言で、詩人は全てを理解した。
「あなたのように、道楽で食べていこうなんて、今の世の中、甘くはないんですよ」
「へいへい」
「――今のこの世界が間違っている、だなんて、思春期真っ盛り野郎も大概にして欲しいものですね」
「あ、いや、だからそれは俺が言ったんじゃなくてだな、イオのやつが――」
「今のこの世界が間違っている、か。奇遇だな、余も同じことを考えていたところだ」
小さな人物がそこにいた。
「誰だい、お前さん?」
「ほぅ、ここは人間どもの武器屋か?」
来客なのだろうか。それにしても子供のくせに変な奴だ。
「なんだなんだぁ、生意気そうな奴だなぁ。ここはお前さんが来るような所じゃないぜ、さっさと帰ンな、な?」
詩人が適当にあしらおうとするが、
「なんだと、貴様ぁ! ――きさまも けいけんちに してやろうかッ!?」
ひどく目つきと口の利き方が悪く、襤褸切れのような大きな布を纏った少年だった。
つづく!




