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その12 「しかし、お嬢さん、ある者を追うって、一体どうやって追いかけるんで?」 「実はワタクシ、家系に少々、占い師の血筋がおりましてね。ふふふ……!」「おお! いや、ここは、――ひぃッ!」

 潮の匂いが鼻に付く。

 大通りの十字路辺りでふたりは立ち止まった。

「ほぇぇ~っ、おっきなまちです~っ」

 真っ白な獣耳付きフード姿の少女イオが感嘆の声を上げる。

 賑やかな街だった。

 たくさんの旅人が行き交い、いくつもの商店が並び、その先には大きな港もあるようだ。

「ここで、おふねにのれば、むこうのたいりくにもいけるですねっ!」

 見慣れぬ人の多さにはしゃぐイオ。

 だが、意を決した様に詩人は、

「おお! どうやら、やくそくのにっすうが、すぎたようだな。わるいが、ここでおわかれだ。では、さらばだ!」

 なんと!

 しじんは にげだした!

「ちょいちょいちょいちょーい! どこへいくというのですっ、しじんさんっ?」

 しかし まわりこまれてしまった!

 しじんは にげられない!

「ちっ……意外とすばしっこい奴め」

「ええーっ、まさかのしたうちとはっ! むむぅ、このイオ、なめられたものですぅ……」

 それでも逃げ出そうと抵抗を試みる詩人だが、イオが放さなかった。服の裾をしっかり握って引っ張られている。

 驚いたイオはそのまま詩人に問い詰め出した。

「なにをきゅうに、りだつしようとするですかっ? しかも、ぼうよみセリフで。さくせんめいれいできない、えぬぴーしーキャラですかっ?」

「いやなに、こうして次の街へやって来たワケだしさ、そろそろいいかなぁって」

「なにがですっ? だいたいなんですか、やくそくのにっすうって? そんなやくそくをしたおぼえはないですよっ?」

「まぁほら、そこはなんつーのこう、冒険っぽいやり取りじゃん? 強制イベント的な? そんなノリで?」

「しらんがなっですっ! こたえになってないですよーっ!」

 大通りでぎゃあぎゃあ喚かれては困る。周囲の目もあるし。

 仕方がないので、詩人はイオに事情を説明した。



「……せいれいさんが、そんなことを、おっしゃったですかっ?」

「ああ。イオを次の街まで連れてってやれってさ。そこまででいいからってな」

「そうだったですか……」

 イオの深く被ったフードのケモ耳が項垂れている。

 詩人は目を泳がせた。港の遥か先に何かを探しているようだった。

「お前さんは、魔王城を目指すのか?」

 魔王はもう居ないと言いながら、その根城を目指すとは。

「はいです。まちがったせかいを、ただすため、しんじつをみきわめなきゃですっ」

 どちらにせよ、一日二日で行ける距離ではない。まずは海を渡らねばならない。それには船がいるだろう。そこで港町にやって来たというワケだ。

 ふたりはここに来るまでに、いくつかの集落は訪れていた。しかしそれらの場所では詩人が別れを切り出すことはなかった。人通りがなさすぎたし、その辺りにはモンスターが多く危険だった。そしていくつかの夜を越え、詩人とイオはこの街に辿り着いたのだった。

 詩人は視線を大通りに戻した。あちこちから人の群れが行き過ぎる。

「見ろよ、イオ。大きな街さ、ここは。これだけ広ければ、新しい出会いもあるだろ? 強そうな装備した奴らも、いっぱいいるぜ」

「はいです……」

「まずは酒場に行ってみな。あそこは、冒険者どものたまり場だからな」

 まぁ、子供が一人で入れるかどうかは分からないが。

「しじんさんは……これから……」

「ん、なんだい?」

「いえ、なんでもないです」

 大き目のフードをさらに深く被っているので、その表情はやはり見て取れなかった。

 ややあって。

 詩人のほうから口を開いた。

「それじゃぁ……頑張れよ。まぁ、なんつーか、こう……元気でな?」

「はいですっ、ありがとうございましたですっ!」

 ぺこり、と頭を下げて、イオはそのまま走り出した。

 その真っ白なフード姿は、やがて人波に飲まれていった。



「さぁ……てと、これから、どぉすっかなぁ……」

 呟いて、詩人は煙草に火を点けた。潮風と共に煙を目一杯吸い込んでみる。久々の喫煙に少し眩暈を感じた。

「いいなぁ、船旅かぁ。やっぱ俺もついて行けば良かったかなぁ」

 しじんは おもった!

 ……随分とまぁ、あっさりとした別れだったが、たぶんそのほうが良いんだろうな、お互いにとって。もう会うこともない相手のことを、いつまでも覚えていても仕方がないしなぁ。

 しかし詩人は少女が消えた人波をしばらく眺めていた。

「あ、ダメだ。船酔いするし、俺、泳げねぇし」

 と、

「さっきから独り言ですか? 気色悪いですねぇ、まったく」

「うおぉっ? びっくりしたぁ……あ、アンタは……!」

 そこに居たのは――、

「はいどうも。お久しぶりです、詩人さん」

 いつかの黒服の優男だった。

 見慣れぬ黒の上下を纏った長身。口調も物腰も穏やかで、目を細めて常に微笑を絶やさない。不思議な男だ。

 詩人が尋ねる。

「アンタもこの街に来ていたのか?」

「ええ。ここは大きな港がありますからね。まさに出会いと別れの街なんですよ」

「まぁ……そうみたいだな」

 詩人の視線は人波のほうを向いたままだった。


 つづく!

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