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その11 「……短い間でしたが、お世話になりました」 「おや? お嬢さんも宿を出て行かれるんで?」 「ええ。ワタクシはある者を追わねばならぬのです……」 「そうですかい、お気をつけてくだせぇ」

「イオは、まおうなんか、たおさないですよ、しじんさんっ!」

 きっぱりと放った、その少女イオ。

 なにを言ってンだ、コイツは。詩人は訝しげに思った。イオは勇者なんだろ? 勇者がやらなくて、誰がやるんだよ、魔王退治なんて。

「だって、ほんとうのまおうは、もういないですもんっ」

 目深に被ったケモ耳フード奥で、コイツはどんな眼をしているのだろう。

「ちょ、待てよ、イオ。そいつは一体どういうこと……」

 言い掛けたが、不意に気配を感じ、詩人は振り向いた。

 背後に何者かが這い寄って来ていた。

「ぎゃぁっ、で、で、でましたですーっ!」

 なんと!

 モンスターが あらわれた!

 悲鳴を上げながらイオは詩人の腰にしがみ付く。

 軽く舌打ちを漏らしたが、たいして動揺もせずに詩人は敵を確認した。

 泥状の怪物が三体。

 巨大な上半身だけだ。顔らしきものはない。全身を覆うヘドロが溶けては流れ落ち、地面から生え、またその身体に戻る。それを絶えず繰り返し形成される化物だった。

 しじんは おもった!

 ほら見ろよ、こんなヤツらがうじゃうじゃ湧いて出るんだぜ? それが何よりの証拠じゃないか。親玉の魔王がいるってことのなぁ。

 べちゃべちゃと不快な音を立てながら、怪物たちがにじり寄って来る。

「うぅぅ、きもいです、こわいです~ぅ。でも…………まけてらんないですっ!」

 そのおぞましい姿を直視出来ず、詩人の傍らで震えていた少女だが、ついに決意した。

「――この、まほうゆうしゃイオが、たたかうっです!」

 しかし、

「いや、いい。お前さん、ちょっとコイツを持って待ってな」

 詩人は急に持っていた荷物をイオに預けた。

「ほぇ? ちょ、なんですっ、こんな、おもいものっ?」

「商売道具さ」

 言うが早いか、詩人は躍り出た。剣を抜き、なぎ払った。

 しじんの こうげき!

 かいしんの いちげき!

 モンスターたちを やっつけた!

 それぞれに切り裂かれた泥の塊は文字通り土に還って消え失せた。

「たったいちげきとは、むふー……ぅ、さらにやるようになったですっ、しじんさん……っ」

 感嘆の息を漏らすイオ。押し付けられたものだが大事そうに荷物を抱きかかえたままだ。

「ふぃー……っと。あぁ、悪ぃな。重かっただろ?」

 イオから受け取り、荷物が詩人の手に戻った。

「しじんさん、いつのまに、そんなものを、もってたですかっ?」

「べつに誰も、“持ってない”、とは、言ってなかっただろう?」

 ふふふん、と笑う詩人だ。

「それは、へりくつというのではっ?」

「うっさいよ。細かいことぁ、いいンだよ」

 言って詩人は、その“商売道具”を背負った。

 そんなことよりも。

 詩人は続けた。

「なぁ、イオちゃんよ。これで分かっただろ? それでもまだ魔王なんかいないって、お前さんは言い張るのか?」

「そうですっ、まおうは、すでに、いないですっ」

「じゃぁ、なんでこんなに化物共が出て来るんだ? 魔王じゃなけりゃ、誰のせいだって言うんだよ」

「さぁ? イオ、しりませんっ」

「さぁって、お前……、知らないって、お前……」

 呆れた。

 所詮は子供相手だったのだ。ったく、ムキになるのも馬鹿馬鹿しいってなもんだ。戯言に振り回されるのはもう沢山だ。次の町までと言わず、いっそこのままコイツを置いて、走り去ってしまおうか。

「でも、でもっ、きいてください、しじんさん」

 小さな両手を大きくぶんぶん振り回しながらイオは叫んだ。

「いまの、このせかいは、――まちがっている、ですっ!」

「ほぉぅ、なにがどう間違いだって言うンだい?」

「イオは、そのまちがったせかいを、ただすため、まほうゆうしゃになったです」

「いや、答えになってないし」

「たしかに、まおうは、いたです。でも、まおうは、なにものかによって、いなくなってしまったです。それでも、まだ、かいぶつさんたちが、あばれているのは、だれかが、あしきちからで、のこったまりょくを、りようしているから、ですっ」

「あのなぁ、イオちゃんよぉ」

 詩人はこれまでで最大級の嘆息をした。どうせ、精霊とやらに吹き込まれただけに違いない。

「いい加減さぁ、目を覚ましたらどぉなのよ? そんなことよりも、楽しく遊んで生きていこうとは思わないのかい? もっと、なんつーか、こう、夢とかないのかよ、その若さでさぁ」

「じゃぁ……だれが、せかいをすくってくれるです?」

「え、誰がって……そりゃぁ、世界を平和に導くのが勇者様って奴で……アレ? おかしいな」

「だから、イオがやってやるですよっ! この、まほうゆうしゃイオンが、あしきものどもを、ばったばったとせいばいしてみせますですっ! おりゃー、かかってこんかー、なのですっ!」

「よく言うよ、さっきまで、怪物相手にビービー泣いてたくせに」

「ちょ~~~っ、ないてませんよぉ、なにいってるですかーっ、しじんさんっ!」

 しじんは おもった!

 ……まぁ、いいか、次の町までくらいなら。もう少し子守りしてやるか。


「ところで、イオ。次の目的地――、つまり、お前さん、どこに向かって歩いているンだ?」

「はいですっ! うみのむこうのたいりくの、さいはてのちかめいきゅう、ですっ!」

「え、それって結局、魔王城なんじゃねッ?」

 もはや町じゃねぇし、ていうか、海挟んでるしッ!


 つづく!

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