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その10 「おや、どうしやした? お嬢さん急にメガネなんか掛けちゃって」 「いえ、どうも私の眼つきは相手を怯えさせてしまうようなので」 「良くお似合いですぜ、へっへっへ」

 てーれーてーれー、てってんてーん♪

 そんなこんなで朝が来ました。

「おはようございます、お客様。今朝のご気分はいかがでございますか?」

「まぁ、なんつーの、こう……、最悪以外のなにもんでもないわな……」



 詩人は受付にてチェックアウトをするところだった。

 正直、疲れは全く取れなかった。むしろ、倍にでもなった気がする。

「やほーぃ! あったーらしっいーあっさなっのですーぅっ!」

 見れば、玄関先で飛び跳ね回る、獣耳フード幼女の姿が。

 昨夜、詩人がどうにかこうにか部屋に戻った時には、すでにベッドで、ぐーすかぴーひょろ大イビキをかいていたコイツ、――魔法勇者の少女イオだ。

 しじんは おもった!

 ……ったく、お前のせいで、俺が一体どんな目にあったと思ってんだ! おかげでぜんぜん眠れなかったし! ああ、いまいましいッ、いまいましーい!

 それにしても。

 全身は鉛のように重く、今でも体力が減り続けているような感覚の詩人だった。

 まさか、呪われているのではないのか? いや、まさか。きっとただの後遺症だ。あんな屈辱を味わったら誰だってショックのひとつやふたつ残るだろう、主に精神的に。またひとつ黒歴史が増えちまったが、それも今日でサヨナラだ。ならば、とっとと出発しなければ。

 と、眠たげな目を擦りながらも詩人が代金を支払おうとしたとき、

「あ、そうそう、お客様――」

 カウンター越しに対応していた女性従業員が、思い出したように言った。

「――ゆうべはおたのしみでしたね?」

「ぶふー……ぅッ!」

 思わず吹き出してしまった詩人さん。

「な、な、なんの話だッ!」

「いえ、言葉通りの意味ですが、なにか?」

 小首を傾げる女性スタッフ。しかして、その視線の先は、詩人越しの少女イオの姿か?

 と、

「いや、ちがうぞ、あいつはぁ、えっと、その、なんてーの、こう……そうッ! 妹だ! あれは年の離れた妹なんだ!」

 やった!

 しじんは おどろき とまどっている!

 あらぬ誤解を解くために、咄嗟にウソで誤魔化そうとした詩人だったが、

「ふふふ、何をそんなに怯えているのです、お客様~ぁ?」

 意地悪く笑うその女性の掛けていた眼鏡に何故か、きらりんっ! と、朝陽が反射。

 しじんは あせった!

「違うんだ! 俺は何もしていない! だから違うぞ! それでも、俺は、やってない!」

 ていうか!

 しじんは あきらかに キョドっている!

 が、

「――まさか、目隠しで荒縄拘束放置プレイだなんて、なかなかやりますのねぇお客様、ふふふふ……っ!」

 じょせいの ひとみが あやしくひかる!

「えええええーッ! そっちーーーッ? ていうか、なんで知ってンのーッ!」

 しじんの さけびが こだまする!

 ……てか、知ってたのなら助けてくれてもよくねーッ? ……いや、アレ、男湯での話だよね?



 こうして、流浪の詩人と魔法勇者の少女イオは宿を後にし、街を出た。

 ついに――、冒険の始まりである!

 と、意気込んではみたものの、辺りはどこまでも田園風景が広がっていた。そののどかな空気感たるや。それに街からはまださほど離れてもいないので、通りはきちんと舗装され、それを道なりに、ただ進んでいるだけだった。

 それでも元気一杯に行進していく少女イオ。

 後ろに続く詩人が、その真っ白なケモ耳フード姿に声を掛けた。

「なぁ、イオちゃんよ」

 少女は交互に手を上げ、足を上げて歩きながら、振り向きもせずに、大きな声で返事をした。

「なんですっ、しじんさんっ?」

「お前さん、勇者なんだよな? これから、どーすんだ?」

「決まってるですっ! この、まほうゆうしゃイオが、わるものたちを、やみにほうむりさってやるですよっ、はふーぅっ!」

「いや、そーゆーのは、昨日も聞いたんだがな……」

 だとしたら、そもそも闇雲に動き回らずに、ひとまず拠点を決めてから鍛錬し、ある程度強くなってから旅立つというのが、冒険のセオリーなのではないだろうか。

 今のコイツ――、イオには足りないものが有り過ぎるだろ、年齢とか、レベルとか、常識とか、年齢とか……。

 ん?

 今、なにかを二回上げなかったか? まぁ、それはいいとして。

 それに――。

 と、詩人の胸中には、あの言葉が。

 それは、昨晩あの自称・精霊が最後に、詩人に言った頼み事であった。

 しじんは ことばを おもいだした!


『――どうか、次の町まで、あのコを連れて行ってくれやぁしませんかね? そこまででいいですから。なぁに、ちゃぁんと報酬は払いやすぜ。じゃ、どうか頼んますぜ、ダンナ。へっへっへ――』


 次の町で、オサラバ。それで良いはずだ。そういう約束だ。その先、コイツがどうなろうと自分の知ったことではない。

 だが、理由はともあれ、幼いながらも魔法勇者として自分の使命を全うしようとしている、この少女。

 ということは、やはり、

「イオは、魔王を倒しに行くのか……」

 それとなく詩人は呟いた。対して、自分は……? そういう想いで出た言葉であった。はたして、このままでいいのか……? と。

「おりょ? ちがうですよっ、しじんさん」

 くるるんっと、一回転したのちに振り返り、少女は告げた。

「イオは、まおうなんか、たおしませんっ」

「…………は?」


「だって、ほんとうのまおうは、もういません、ですっ!」


 ……なにを言ってンだ、コイツぁ?

 ワケがわからないよ、という顔をした詩人だった。


 つづく!

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