第6話 人助け
色々と忙しく短い物しか上げられなくて申し訳ないです。
ある程度、自分が出来る事を試してみた。
属性魔法に分類される、火などを直接発生させる魔法は自由に使えた。
昨晩の、火と水を混ぜて直接お湯を得る合成魔法も問題無い。
試していないのは、精神作用系や造形系それに身体強化系などだろうか。
さすがに、身近な人の精神を操作するなんて不味いだろうか……。ぶっつけ本番で、魔物に使ってみるのも勇気が要る気がする。
とりあえず、周囲に影響が無いように街の外へ出て行ってみた。
まずは、道を整地した際に溢れた路肩の土を使い防壁をイメージする。想像通りに、周囲の土を集め土壁が完成した。しかし、そこにある土だけでは多少強度に問題があるようだ。
これだと、土魔法で直接壁を作った方が防御力が高い。ここから更に加工するのは難しそうだ。
造形系の魔法も、特に問題は無さそうではあるが素材の方が重要なようだった。
最後に身体強化だが、これは恐らくではあるがアレックスとの模擬戦の時に知らずに使っていたように思う。でなければ、知識だけで実戦経験豊富な傭兵に勝てる訳が無い。
先程の土壁を、腕力を強化し正拳突きしてみると脆い土壁が崩れることなく貫いた。そのまま脚力を強化し、貫いた腕を引かずに力任せに壁を粉砕した。強化をすると、多少でも防御力も上げられるらしく貫いた拳や壁を薙ぎ払った腕が痛くなることは無かった。
強化は十分作用するらしいので、別な使い方をしてみる。
耳を澄ませるイメージで、聴覚を強化してみると街がうるさ過ぎて実用に耐えない。どうやら強化するだけでは、聴きたい情報だけを収集するのは難しいようだ。
次に視力の強化だが・・・。見通しも良かったので森の入口で何か揉めてるのが見えた。
早速全身を強化して、全力で現場まで走ってみたのだが魔力の消費を気にすることも無く5分かからずに到着してしまった。
「何があったんですか?」
「あぁあなたは、確かこの前3人組で森へと入られた方ですよね?実はこちらの方が碌な武装もせずに森へ入ろうとしておりまして」
「だから、昨日帰って来るはずのダチが未だに戻って来てねぇんだよ!」
どうやら、この村人丸出しの軽装の人の友人が戻って来ないから探しに行かせろと騒いでいたようだ。
一人で行けば、多少無茶しても大丈夫だろうし代わりに見てくるとしよう。
「話はわかりました。わたしが代わりに探して来ますので情報を頂けますか?」
「本当か!?それなら是非頼みたいんだが、依頼料とかは出せないぜ?」
「それは大丈夫です。正式な依頼という訳でもわたしはギルドの人間でも無いので」
「あの~勝手に話を進められてますが、二次遭難にもなりかねないので探索は最長でも本日の夕方までにして下さいね」
「わかりました。もし見つからない場合はどうするのですか?」
「本来の規定通り、昨日が帰還予定日ですので中一日空けて明日捜索隊を編成して大規模な捜索が開始されますね」
「その間に助けられたのに、助からなくなったらどうするんだ!」
「そういう決まりなので、私たちはどうする事も出来ません」
その後も、暫く口論していたがこっそり男性に精神魔法を使って少し落ち着かせてみた。冷静になり、彼も友人が自分の限界を超えた奥地まで入った可能性を考えたようだ。
絶望的な表情をしながらも、その友人の背格好や顔の特徴など思いつくものを全て教えてくれた。
まずは、前回来た時の広場まで入り探索の魔法を使用する。
幸い、聞いていた特徴と合致する者が引っかかる。やはり森からは出ていない様だ。しかし、森のそこそこ奥に居るのにも拘らず全く動きが無い。
不思議に思い、魔物も検索してみると合点がいった。恐らく何かに隠れて、魔物の群れに見つからないようにしているらしく周囲に大量の魔物が検索された。
急いだ方が良さそうなので、戦闘は極力避ける方向で進んで行った。
認識阻害魔法とでもいうのだろうか、光学迷彩のような状態を作り出して目的地まで走って行く。勿論先程の様な、全力疾走だと木々を薙ぎ倒しかねないし土埃等も舞ってしまうので抑えているのは言うまでもない。
目的地付近へと到着をし、辺りを見回すと明らかに異常な量のゴブリン達が何かを探して回っていた。
何かとは勿論、先程の彼ゴンズさんの友人であるバースさんなのだろうが……。
さて、どうするか?
周囲のゴブリン達は、平均レベルは3といったところで倒せなくはない。しかし、数が多すぎて殲滅となると不味い事になりそうだった。
まずは、バースさんに連絡を取ってみよう。
(バースさんですね?ゴンズさんの依頼で探しに来ました。返事は心の中でイメージするだけで結構です)
(ゴンズの依頼?あぁそうか、もう1日経ってしまったんだな……)
(今からそちらに合流しますので、決して驚かないで下さいね)
(言っている内容がよくわからんが了解した)
俺は、先程の認識阻害魔法を強めにかけた。視覚と嗅覚は勿論、自身の近辺から発する物音も遮断したのだ。
その状態のまま、バースさんの後ろに回り再度声をかける。
(バースさんの後ろに到着しました。驚かずに振り向いて下さい)
(え……っ!?)
(ゴブリン達に感づかれると不味いと思うので、会話はこのままで行きましょう)
(あんたは一体何者なんだ?)
(領主様の屋敷に住まわせて頂いております、魔法使いとでも言いますかね)
(なるほど、今はそれだけわかれば十分だな)
(助かります)
バースさんとの合流は、無事果たせたのだが問題はここからである。
どうやらバースさんは、怪我などをして追われていた訳ではなく狩りをしている最中にゴブリンの集団に襲われたらしい。その集団と交戦中に、別な集団と合流されてしまい退路を断たれて奥地へと逃げる事になってしまったのだそうだ。
歩けるのならば都合が良い。
俺はバースさんに、先程の強めの認識阻害魔法をかけて確認してみる。
どうやら他人の強化等も、問題無く行えるようだ。バースさんの姿が全く見えなくなった。視覚を魔法で強化して、ようやく気付けるレベルなのでゴブリン達にはわからないだろう。
術者でも全く見えないままだと、不都合極まりないので有難い仕様である。
(バースさんに認識阻害魔法をかけさせていただきました)
(認識阻害魔法?どういうことだ?)
(実際見て貰った方が早いですね、俺を見てて下さい)
そして、俺自身にも魔法をかけると……。
(消えた!?)
(同じ状態のモノがバースさんにも付与されてますので、落ち着いてこの場を離れましょう)
(わかった、現状ではどうする事も出来ないし実際見せて貰ったし信じてみよう)
俺たちは、なるべくゴブリン達から離れた位置を移動し帰路についた。
森に入ってすぐの、いつもの広場で魔法を解く。そして、バースさんと自分に洗浄魔法をかけて汚れを落としひと段落した。
「えっと、改めまして俺はリョウと言います。正式ではありませんがゴンズさんの依頼で来ました」
「リョウさんか、あんた凄い魔法使いなんだな」
「その事でご相談なんですが、俺が色々な魔法を使った事はあまり公にしていただきたくないのです」
「あぁなるほど、確かにあんなに便利な魔法が使えると知れたら面倒ごとに巻き込まれそうだよな」
「そうなんですよ、俺自身であればどうとでもなるのですが周りにまでとなると不安でして」
「命の恩人だし、その辺は安心してくれ。実際見なければ、あんなの信じて貰えないし法螺吹き呼ばわりされるような事は極力避けたいしな」
「でしたら奥地で、強めのゴブリンに襲われている所に運良く合流出来て迎撃して帰還したとでも口裏を合わせておきましょうかね」
「そうだな、リョウさんが颯爽と現れて腰巾着ゴブリンを瞬殺してくれたお陰でガタイの良いゴブリンを撃退する事が出来たって言っておくよ」
「まぁそのくらいであれば大丈夫でしょう。では戻りますかね」
「そうするか」
その後、魔物の森の入口の監視小屋へ1日遅れで無事帰還出来た旨を報告した。
小屋の中でずっと待っていた、ゴンズさんとも合流し街に戻ることにした。
バースさんも、ゴンズさんにお礼を言っていたがゴンズさんはお前が無事なら問題無いとあっさりとしていた。探しに行く前の、あのゴンズさんからは想像出来ないくらいだ。
帰り道の馬車では、色々と説明を求められたが打ち合わせ通りの簡単な話しかしなかった。ゴンズさんくらいであれば知られても問題無いとは思うが、周りには他の冒険者も居たので話せなかった。
街に着いた時に、重要な事を思い出した。さくっと、魔法の練習をして戻る予定であった為にエリスにもキャロルさんにも何も伝えていなかった。
「リョウ!あんた今までどこに行ってたって言う気!?」
「いや、それは……」
「まさかとは思いますが、私たちに内緒で森になんて入っていませんよね?」
機関銃の様に、攻め続けられて白旗を上げ晩御飯の後にでも話す事になった。
ゴンズさんと、バースさんも軽く会釈をしつつ苦笑しながら脱兎の如く逃げて行った。
やはり何事も、綿密なスケジュールの元行動しないと大変な目に遭うのだと再認識して屋敷に戻って行った。
食後までは、それほど時間が残っていないが言い訳を考えるのに苦労する俺であった。