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異世界は計画的に  作者: にゃおぞう
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第2話 力試し

 エリスが部屋を飛び出してから、約10分程経っただろうか。

 エリスがバッツと侍女2人を連れて部屋に戻って来た。


 「さて、おめでとうというのも変な話だがとりあえずは良かったと言っておこう」


 「ありがとうございます」


 「ふむ。本当に流暢な言葉を話せるのだな」


 連れて来られる時に聞いたのであろう、俺が喋られる事を既に知っていた。


 「君は数百年前の失われた知識によって作られたらしいが、当時の記憶はあるのかね?」


 「この部屋に運ばれた辺りの記憶からしか思い出せませんね」


 バッツは少し残念そうにしながら頷いた。どうやら、高い技術力で作られた人形が宝物庫の肥やしになっていた経緯に疑問を持っていたらしい。

 実際には女神によって、元から宝物庫にあったというように書き換えられたのかもしれなかったのだが、女神本人じゃないのでそれは調べようがない。


 「エリスが起動に成功したのだから、エリスの指示に従う範囲では自由にしていなさい」


 「わかりました」


 満足そうに微笑みながら、後は任せると言ってバッツは退室して行った。

 まずは自分の立ち位置というか現在の状況を知りたいところではある。

 元の世界でいくつか見た、視界内に名前とかステータスが表示される事も無くテンプレ的な優遇というものを感じられなかった。


 「それで俺は、これから何をすれば宜しいのでしょうか?」


 「ん~……。あなた戦ったりとかは出来るの?」


 「そうですね、動きにくさとかは無いので戦う事は可能だと思います」


 そう答えた時、エリスは何か悪い事でも思いついた様に笑みを浮かべた。しかし、すぐに難しい表情になりブツブツと何かを呟いていた。


 「ちょっとこの家で雇っている、傭兵団のような人達と模擬戦でもして実力を見てみたいな」


 起動後に即バトル発展とか、随分とこの世界は血気盛んらしい。

 模擬戦前に、この屋敷の事や領地の事を聞いてみた。

 まずはこの国の王が、領土を拡大しようとした際に魔物の領域にぶつかったという。王都から数十キロ離れた森に、ゴブリンや狼などの魔物が住み着いていたのだ。

 離れすぎという訳ではないのだが、領土拡大の為に毎回数十キロを往復しなければならないというのも大変だった。その為、前線基地を作り効率的に開発して行こうという案が出された。

 開発が進み、村のような状態まで発展し管理を行っているのがこのアシュレイ家らしい。

 領地開発を先陣を切って行っているのに、その辺の冒険者達に手柄を持って行かれるのは外聞が悪いので専属の傭兵達が居るという訳だ。

 この世界での魔物の領域となる条件として、エリアボス的存在が居るらしい。街外れに見かける、一般的な魔物よりも少し上位に位置するような魔物である。

 エリアボスの資質がある魔物が、一定期間以上その地に留まると瘴気が溜まり魔物を呼び寄せ魔物の領域が完成するという寸法だ。

 つまりはエリアボスを討伐しない限り、何度でも魔物が集まって来る為開拓が終わる事はない。

 10歳を迎えたエリスが、魔法人形である俺を見つけて思いついた凄い事。エリアボスの討伐である。

 期待する存在が、弱ければ夢物語で終わってしまう為テストをしてみようということだった。

 そうこうしている内に、屋敷外にある練兵所にやって来た。

 そこでは木剣と木盾で訓練を行う、むさ苦しい男の集団が居た。

 訓練だからだろうか、あまり動きに洗練されたものを感じなかった。子供の遊び、チャンバラごっこ的なお粗末な印象しか受けなかったのである。

 汗だくで疲れている、傭兵団の面子には暫く休憩をしてもらう。その間にまずは、どの程度この身体が動くのかを確かめる事にする。

 転生してから初めての運動が、実践では無いにしろいきなり戦闘なのだ。元の世界で、剣道とかスポーツ系のものをしてこなかった経緯もあり不安しか無い。


 ファンタジー系のラノベを読む際、脳内妄想で再生される剣士をイメージしながら木剣を構える。

 踏み込み、上から下に剣を振り下ろし切り返す。更に踏み込みながら、体勢を低くしつつ横一閃。

 そこそこイメージ通りには、動けてはいるようだった。暫く自由に剣を振っていたが、傭兵団のリーダー格の一人が戻って来て中断した。


 「私の名前はアレックス。君はその若さで戦闘経験があるのかね?」


 どうやらこの人は俺が、人形だとは気付かずに普通の青年だと思っているらしかった。


 「俺は魔法人形で、まだ名前も決まってません。性能チェックと言いますか、どの程度戦えるのかを知りたいとエリスお嬢様が仰るので」


 「なんと!まるで人間の様だが、ここまで精巧な人形など見たのは初めてだ」


 「それでどなたと戦えば良いのでしょうか?」


 「それなんだが、先程の君の動きを見た時点で全員萎縮してしまってな」


 アレックスは頭を掻きながら、申し訳なさそうに説明していた。先程の、子供の遊びの延長だと思っていた訓練はどうやら全力だったらしい。

 見るからに年下である俺、実際には外見だけではあるが自分よりも若い人間に負けるのは恥だと思ったようだ。


 「恐らく俺でも、君には勝てないとは思うんだが。それだと嬢ちゃんも納得しないだろうから俺が相手になるぜ」


 「わかりました。お手柔らかにお願いします」


 「それはこっちの台詞だっての……」


 「じゃあいくね。勝負開始!」


 エリスの合図で、アレックスとの模擬戦が始まった。

 彼は先程の訓練同様に、木剣と木盾を構えている。それに対する俺は、右手に木剣を持ち左手には何も持たずにいた。閉塞感というか、動きにくいというイメージしか無かったからである。大楯ではなく、バックラーの様な程度ではあったが訓練時の動きなら確実にかわす自信があった為に持つ事は考えなかった。


 まずは先制で、上段から一閃。当然の様に、大振りでは盾で防がれてしまった。しかし、体勢を崩す様な受け方ではなく防ぐのがやっとだったようだ。そのまま反撃するにしても、良い斬撃が出来るとは思わなかったのだろう。開始と同じ様な立ち位置に戻り、今度はアレックスが接近してきた。

 盾を前面に押し出して、突進のような動き。俺は、彼の盾を持つ方向へとかわす。そうさせるのが目的だったように、かわす動作に合わせて横薙ぎの攻撃をしてきた。しかし、やはりというか彼の斬撃に驚くような速度は無く余裕でかわせた。

 どうやら、彼は俺の強さを理解していたらしく全力の一撃でなら届くかもしれないと思ったらしい。

 完全に、自分の攻撃でバランスを崩してしまったようだ。俺はそのまま、足を払い床に倒れこんだ彼の顔に木剣を向けた。


 「勝負ありですね」


 「のようだな。まさかここまで何も通用しないとはな」


 傭兵団の面子からは、歓声が上がる事は無くただ茫然としていた。エリスだけは、俺の手を取って上下にブンブン振ってはしゃいでいた。

 彼らにお礼を述べてから、満足気なエリスと共に屋敷に戻った。明日の夕方に、来客があると伝えられた。それまでは、自由にしてて良いと言われたので書斎でこの世界の事を学ぶ事にした。


 ここは、大陸東部に位置するウェルガルド王国という国だった。王都では、何か優れた事がある訳ではなかった。しかし、冒険者ギルドや魔道ギルドを始めとする戦闘関連から鍛冶や裁縫などの生産関連まで多種多様な国らしい。ずば抜けてはいないが、悪くもないので将来的に独立を目指す足掛かり的な要因から人気の高い国という印象があるようだ。

 王都から北西70~80キロくらいに位置するのが、我らがアシュレイ家最初の領地であるアシュプールの村である。ここは、前線基地をメインにした土地柄なので冒険者用の宿泊施設や食料確保の為の畑や牧場が多い。中には、森での怪我人を収容する医療施設(実際はポーション等で治療し休ませるだけの建物)や装備修理用の鍛冶屋まであるので王都まで戻る必要があまり無い。

 アシュプールに面した森の端には、魔道具ギルドが開発した結界石と特殊なロープが張ってあり魔物が出てこない仕掛けがある。相当コストが高い為か、森の外周を覆いつくす程の量は用意出来ないらしい。

 この為、アシュプール側からは魔物が出る事はほぼ無いがそれ以外からは普通に魔物が出てしまう。

 住民よりも冒険者が多いアシュプールでは問題があまり起きないが、この魔物の森を開放しない限り王都とアシュプール間の開発もままならないという訳だ。

 魔物が持つ、魔核には様々な利用価値がありそれは俺自身の体にも使われている。

 魔物の森の開放は、確かに人口増加に向けての大きな利益ではある。しかし、小さいながらも魔核を安定して得られる現状も悪くは無いと言える。

 だからこそ、大規模な掃討作戦まで発展はしておらずフリーの冒険者が稼ぎに来ているというのも開拓が進んでいない理由の一つだった。

 それが、この王国での100年程度の歴史である。戦争が起こるとか、クーデターがあったとかもないごく平和な場所に転生したようで安心した。

 とりあえず、明日は来客があるらしいので調べ物はここまでにして休む事にする。


 午前中には、別な事を調べに書斎に行った。

 魔法の才能が欲しいと願ったが、この世界では魔法はどういう立ち位置なのかという事である。

 元の世界での知識通りで、まずは基本となる属性が存在するらしい。

 火・水・風・土の四種が主体であり、派生として氷・雷や光・闇などもあるようだ。

 興味深かったのは、無属性の魔法だった。無属性の特色として、想像が力になる物が多いようだ。

 一番簡単で身近な物で、生活魔法と呼ばれる無属性の分類がある。

 例えば、衣類や食器などの汚れを落とす魔法がある。これは水などを発生させて、洗い流す訳ではなく術者自身が汚れだと判断する物を消滅させる効果がある。想像が効果を発揮するので、服まで消えるイメージで使うと大変な事になりそうである。

 人間には、本能的にストッパーがかかっているらしくそういう問題は起こってないらしい。

 魔力量にも限りがある為、全く使えない人間も居るようだ。

 無属性というか生活魔法は、魔力総量自体が才能であり資質は必要無いが他の基本四属性などは資質に左右される。

 さて俺が願った才能は、どの程度の者なのかと思っているとエリスから昼食に呼ばれた。


 以前に色々と、調査された際に判明した事ではあったがこの身体は食事も可能だった。

 実際には噛んで潰れた物を、体内で魔力に変換して吸収する機構が存在する。

 魔力補充の作業だと思っていたが、食べてみると味も感じられるようだった。

 全て魔力に変換される為、排泄する事は無いのだが毒などを含む異物は分離して外に出せるらしい。

 一部辛過ぎる物質が、毒物として分けられていた……。

 食事も終わり、再び夕方まで書斎で魔法の事を調べようと思っていたのだが来客の予定が早まってもう間もなく屋敷に到着すると言われた。


 さて、その来客には見覚えがあった。

 身長140センチくらいで、ピンク色の髪と瞳の10歳くらいの可愛らしい女の子。

 一見幼い姿に見えるが、実際には20歳を余裕で越えているらしい。

 魔法に関する、講師のような事や家庭教師のような事まで色々と行っているそうだ。

 

 「こんにちは。キャロルと申します。以後お見知りおきを」


 ローブを着た少女、以前にエリスにアドバイスをしていた魔術師の女性であった。

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