雲を掴むような
空の上に雲はあります
もくもくと
ごうごうと
真っ白で
あんなにはっきり群青色に浮いている
それならきっと
ふわりと掴むことができるでしょう
踏みしめて
歩くこともできるでしょう
けれども
その本当は煙みたいなものですから
例え触れられるほどそばに寄ったとしても
掴むことはできません
歩くこともできません
どんなに悔しがったって
嫌だ嫌だと悲しがったって
ほんの指先の微かにでも
触れたと思えることはないのです
通学路は
長く遠い田んぼの中の畦の道
水鏡で
上も下も夕暮れた
空の間を迷うようなものでした
そこでは雲は
腹に紫紺の影を張り付けて
頭に金冠戴いて
ごうごうと
ぢりぢりと
目の奥で
あんなにはっきり赤錆色に燃えている
古びた大きなお屋敷は
いつのまにか更地になっていました
柔らかい土をあらわにして
そこへ寝っ転がった庭木は
根っこも葉っぱの裏も
すっかり見せていました
金木犀もどこかへ行って
知らずに嗅いだ
最後はいつの日だったのか
不自由だなと思いながら
ポケットに手を突っ込んで歩きます
朝
通勤路は
頑健な建造物の海の中
波間に見え隠れする雲は
澄んだ水色の朝日に濡れて
とうとうと
さらさらと
あんなにはっきり薄明色に揺れている
あれではとても
掴むことはできないでしょう
あんまり遠くに輝きすぎていますから
それなのに
なぜでしょう
時おりふいに
指先よりも手よりも胸よりも
ずっと深くに触れられていると感じられるのは
なぜでしょう




