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私立陣屋学園能力科  作者: みやもと なまにく
1章 自然科学部
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6話 部室棟

6話 部室棟


 放課後になり、アキトは悩んでいた。行くべきか、行かざるべきか。タケルを信じるか、塩見の言う事を聞くかという事についてだ。


 「アキ、どうしますか?」


 「ミコは……どうしたらいいと思う?」


 「アキに……任せます」


 今日の昼頃までは期待があった。(わら)をも(つか)む思いに光明が差したような感覚があった。だが、今のアキトはむしろネガティブな思考に陥っていた。結局あの後、塩見は話したくないとの理由で自然科学部については何も教えてはくれなかった。部長の名前も顔をしかめるばかりで答えようとはしなかった。


 「でもおかしくないか? 塩見先輩は止めておけ、とは言ったが絶対に行くなとは言わなかった」


 「あの様子だと絶対行くな、という意味にも取れないですか?」


 「いや、先輩は悩んでた。もっと強く言う事も出来たはずだよ。でも言わなかった。先輩にどんな過去があるか知らないけれど、それは俺達には関係ないんだ。本当に危険ならちゃんと説明して絶対に行かないよう釘を刺したはずなんだ」


 「過去に何があったんでしょうか……」


 「詮索(せんさく)してもしょうがないよ。他人は他人だ。本当に知りたいのなら、行くしかない」


 「やっぱり行くのですか?」


 「別に過去を詮索しに行くわけじゃないよ。相談に乗って貰うだけ、話を聞いて貰うだけだよ。ダメならダメで(あきら)める、それだけ。考えてみたら俺の弱味なんて握ってもしょうがないしね。別に後ろめたい事なんて無いし……無いはず……無いと思う、無いと信じたい……」


 自分で言っておいて自信が無くなってくるアキト。最後の方はもはや聞き取れないレベルだった。ミコは真剣な眼差(まなざ)しで、


 「でも、私は怖いです。塩見さんのあの感じ、相当痛い目にあってるというか恨んでるというか。それに心を読むなんて……」


 「何も考えなければいいんじゃないか? それに読まれて困るような事無いけどな」


 「そんな簡単にいくでしょうか? 誘導尋問(ゆうどうじんもん)の様に、何かを言われて連想しないようにするなんて無理です。それに……誰だって、私だって他人に知られたくない事沢山ありますよ?」


 「え? 例えば? 牛乳飲む時つい(くせ)で腰に手を当てちゃう事とか? 或いはこっそり日記帳にポエムちっくな物を書いている事とか? それとも、誰も居ないと思ってソファーでパンツ丸出しで寝てた事とか?」


 「!? アーキー!! 許さない! 日記見てないって言ってたじゃないですか! それに、パ、パンツ丸出しって何の事ですか!? 見たのですか! 見たんですね! このエッチ! 変態!」


 ミコは真っ赤な顔でふにーとか叫びながらアキトをポカポカ叩いている。


 「いてて……悪かった! わざとじゃない! たまたまなんだよ、たまたま!……水玉……」


 「うー。信じられません。アキとの付き合い方を考えなければなりません」


 うっかり口を滑らせてしまったアキトはしまった、と焦ったがどうやら最後に口走ってしまった何かの柄の事は聞こえなかったらしい。だが、ミコは腕を組んで膨れてしまっている。どのみちご立腹(りっぷく)のようだ。


 「よ、よし! 悩んでてもしょうがないよな。元々俺が言い出したんだし、一人で行ってみるよ」


 アキトは話題を()らしにかかる。


 「ダメです。アキが行くなら私も行きます。変態さんなアキ一人では心配です」


 「無理するなよ。別に取って食われる訳じゃないんだ。一人で大丈夫だよ、それと変態は余計だ」


 「ダメ……です。また記憶でも失くされたら、大変です……」


 急にミコは思い詰めたように言う。自分の事の様に淋しい顔をされると、アキトもグッと来るものがある。そんなミコの表情を見て、アキトは今更ながら結果がどうであろうと話だけでも聞いてもらう、的外れな行動になるとしても自然科学部に行かなければと、改めて意思を固めていた。


 「うん、やっぱ行かなきゃ。会いに行かなきゃ」


 「待ってください!」


 ミコは必死な顔をしてアキトの袖を掴んでいた。そしてアキトから目を逸らし黙ってしまった。


 「どうした? ミコ……」


 ミコは黙ったまま何も言わない。アキトは不思議に感じながらも、何も言わずミコを見ていた。


 長い沈黙があった。ミコは何かに悩むような様子でじっと押し黙っている。ポカポカな陽気のせいか、アキトは頭がぼーっとしてくる感覚に(とら)われながら、ずっとミコを見ていた。


 そしてしばらくの後ミコは観念(かんねん)したかのように言う。


 「……何でもないです。行きましょう」


 ハッと我に返りああ、と返事をするとアキトはミコの手を取り歩き出す。ミコの手は震えていた。アキトはグッとミコの手を握り直すと、


 「大丈夫、きっと大丈夫!」


 とミコと自分に言い聞かせ部室棟へと向かって歩き出した。微妙な空気の中、特に会話もなくミコを引いて歩く。ミコはアキトに手を引かれながら常に半歩後ろをトコトコ付いてきた。


 部室棟に到着した時、生徒の姿は無かった。部活中だからなのだろうか。部室棟の入り口には見取図の様なものがあった。見取図によると運動部の部室は向かって右側、文化部は左側のようだ。


 「タケルの言っていた事が本当なら、左側の突き当たりの部屋のはずだけど……」


 そう言いながらアキトは見取図をみるが、左の突き当たりには部屋がないようだ。ただの壁となっており、そこから右に行けるようになっているだけで、周りには部室どころか部屋自体が無い。さらには一通り部活名を確認したが、自然科学部の表記も見つからなかった。


 「なんだよ。タケルのヤツ適当だな! まぁ、行ってみれば分かるか。ミコ、大丈夫か?」


 「……はい」


 いよいよミコの元気が無い。アキトはミコの覇気のない声に肩を(すく)めながら、よし、とミコの手を離して一人でゆっくりと歩き出した。付いてくる気が無いならそれはそれで構わない、そう考えていた。

 

 ミコは俯きながらトボトボとアキトに付いていく。近すぎず遠すぎない微妙な距離。アキトは入念に一つ一つ部活名の書かれたプレートを確認しながら進んでいき、突き当たりまで来て壁を入念にチェックする。


 「やっぱただの壁だな」


 突き当たりの壁には標語のようなものが貼ってある。


 ――安心は備えと用心これ肝心――生徒会


 「微妙に韻を踏んでいるな。てか、何の標語だよ」


 ――体育祭より文化祭――文化部会


 「体育祭ディスっちゃってるな」


 ――異能力が世界を変える力となる――理事長


 「理事長、力入ってるな」


 ――かるたはかたる――かるた部


 「よく見ると、かるたは語るだったのか。軽く博多ると勘違いしてた! ん? かるた部?」


 ――囲碁部へGO!以後お見知り置きを!――囲碁部


 「……アホだな。ん? 同好会じゃなかったか? どこで見たんだっけ?」


 アキトは何故か妙な既視感(きしかん)を感じつつ、一つ一つツッコミを入れながらも容赦なく標語? を剥がし、裏に何もない事を確認する。流れ作業の様に淡々とこなしながら、昨日の夜に確認した学校案内を思い出していた。散々見た筈だが興味が全く無いからか、かるた部など全く心当たりが無い。だが、何故か変に気を引く簡潔な部活紹介には覚えがあった。


 「……あちこちに貼ってんのか? うーん、こんなんで入部するヤツいるのかよ?」


 ――スクープ! 生徒会長とFSリーダー真夜中の密会!?

 

 「新聞部の新聞もあるな。FSってファイアスターターか? 塩見先輩の言っていた事とかぶるな」


 先程と同じように問答無用で壁に貼られた新聞を剥がすと、壁を確認し元に戻す。と思ったら新聞の下にもう一つ新聞があった。新しい新聞を重ねて貼ったのだろう。上に貼られていた新聞部の新聞とは違い、下に隠された新聞は完成度が低い。


 「なんだ? 後ろの新聞は……オカルト研究会? 都民病院から植物状態の女性患者失踪事件の謎を解く?」


 「随分と古い事件ですね……」


 いつの間にかすぐ後ろにいたミコが覗き込んでいる。


 「ミコ? 知っているのか?」


 「確か、二年ほど前にそんな事件があって、その当時はテレビでも報道されてましたよ。未だに患者は見つかってはいない筈です」


 「そんな事件あったっけ? まあ、どうでもいいけど。しかし新聞部の新聞は流石に出来が良いな。オカルト研究会の新聞がショボく見えちゃう。当てつけで上から貼ったのかな」


 「いいえ。これは後ろにあるオカルト新聞の方が後に貼られたんです。発行日が新聞部のよりも新しいです」


 「? 何で後ろに貼ったんだ? 誰も気付かないだろ?」


 「よく見ると後ろの文字が透けてます。多分ですがこの新聞自体をオカルトっぽくしてるのではないでしょうか?」


 「ふーん。変な事考えるんだな」


 アキトは興味無さげにそう言いながら新聞を元に戻すと右に曲がり、また一つ一つ部活プレート確認作業に移る。


 「なんだよ、文化部も結構いっぱいあんのな」


 などと独りごちながら奥へ奥へと歩いていく。ミコはまだ新聞を読んでいるようだ。


 いつの間にか突き当たりまで来てしまった。ここまでに自然科学部のプレートは無く、廊下も行き止まりだ。行き止まりには部屋があるのだが、プレートは付いていないようだ。


 「ここで行き止まりか。この部屋だけプレートが無いな。それに何だかここだけ異質な感じがする。嫌な予感がするな。なんだろう、この感覚……」


 ミコも同じように感じているのか、アキトに追いついたかと思うと後ろに隠れるように立ち、ソワソワしながらアキトの制服の裾を摘んでいる。


 真っ白で安っぽいドアには他の部屋とは違い、プレート自体が付いていない。オーソドックスな丸い掴んで捻るタイプのドアノブが付いているだけの簡単な造りだ。他の部室のように人が触れて汚したと思われるような汚れも無ければ、埃も無く新品のような白さに目眩を起こしてしまいそうな不思議な感覚に陥る。シルバーに光り輝くドアノブにも、人が使っているような()れたキズや汚れは見当たらなかった。


 しばらく腕を組んで考えていたアキトだが、このままでは埒があかないと思ったのか、深呼吸をして制服の袖を捲ると、


 「うしっ! 開けるぞ!」


 そう自分に言い聞かせ、勢い良くガチャリと取っ手を捻ると続いて恐る恐るそのドアを開けた。


 「え?」


 ――ドアを開けたその先には、裸の少女が立っていた。

読んで頂いてありがとうございます。

楽しんで頂ければ幸いです。

書いている本人は非常に楽しいのですが……


また明日、続きを投稿致します。

宜しくお願いします!

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