腹が減っては馬鹿話も出来ぬ。2
「どうやら、私はモテるらしいんだ」
口に出しながら思わず首でも吊りたくなった。およそ話の枕としては自惚れが過ぎて、我ながら正気を疑うものの、それが他者からの評価であるなら一考の余地はある。自己評価が常に正確であればその必要も無いのだろうが、しかしそうとは限らないから世は儘ならない。
「はぁ、そうですか。……で?」
「いや、聞いてくれ。そもそもの原因は伊織ちゃんなんだ……」
しかし自己評価との格差のせいで、追及されるのを待たずに心が折れて自白を始める始末である。見てくれが良いという自覚こそあれど、それだけで人から好かれるか、と問われれば、少なくとも答えは否であった。
後輩である相羽 桜との夕食を終え、食休みに、と緑茶を啜り始めたところで、私は伊織ちゃんからの諫言について話を切り出した。
「私自身はそんな自覚は無いんだがね。伊織ちゃんが言うには、私が特定の後輩と仲良くすると、面倒が起こるから控えろと言われたのだよ」
「まあ、でしょうね」
「……賛同されるとは思わなかったな。一応、理由を聞いても良いかな?」
食前のテンションは何処へやら、といった具合の桜に対し、食い下がるように説明を求めた。いや、こんな話を振られたら誰でもそうなるだろうから、テンションの低さに関しては考えまい。
こういった問題に際した時に考えることは、伊織ちゃんを信用、或いは信頼はしているものの、けれどお互いに遠慮を知っていればこそ、歯に衣着せることもある、ということだ。
元々交友関係に関しては狭い上、伊織ちゃんと栞ちゃんに対しては仕事に関わること以外で話すというのは、実のところそう多くはない。先の誘いにしても、珍しいから受けた、という事情もなくはないほどだ。
然るにこと後輩から意見を求めるに、最も率直で遠慮がなく、かつ気の置けない相手というのが、私にとっては生徒会の二人ではなくこの相羽 桜にあたる訳である。
いっそ春以外の有象無象は塵芥と同等くらいにしか考えてなさそうな盲目さで、宗教はこうして生まれると言われれば成る程、と思えるような狂信具合。下手にはぐらかすことも無いだろうし、確認という点においてはこれ以上の適役もいない。
(後はどれだけ心に傷を負うか。それが問題なんだがね……)
屍の上でブレイクダンス。その程度で済めば良いのだが……。