腹が減っては馬鹿話も出来ぬ。
「無用な混乱を起こすな、と言われてもねぇ」
伊織ちゃんの諫言から、空腹を言い訳に逃げ出してから数十分後のことである。私は声高に訴えかける空腹と食欲に導かれるまま、食堂内にて行列を成す一員となっていた。
賑やかな人の流れに身を任せ、私は伊織ちゃんの言葉を反芻し思考に耽る。
何でも、私が因幡を妹と呼ぶのはあまり宜しくないらしい。
「おや、雅先輩お一人ですか?」
「……」
「雅先輩止めて下さいよ!生徒会長がイジメなんてダメ絶対カッコ悪い!桜を無視するなんて一万光年早いです!」
「……」
「え、雅先輩勘弁してくださいよ!早く光年は距離の単位だ、と訂正してくれないと、桜が周囲の皆さんから変な目で見られてしまいます!あ、さてはそれが狙いですね!?ですが残念なことに桜に対して羞恥プレイを敢行する権利は春先輩にしか無いんですごめんなさい!これからも良い先輩後輩でいましょう!大丈夫です、桜は全然気にしませんから!」
「……何やらうるさいと思えば君か。相変わらず元気なようで何よりだね」
「あっはー!やっと反応してもらえたと思ったら素っ気ない態度、雅先輩も相変わらずです!」
少し物思いに耽っている内に、気付けば知り合いの中で最もやかましい娘が満面の笑みで私の前に並んでいた。
「良識ある一生徒として言うがね、横入りはあまり宜しくないと思うよ。罰として一番後ろから並び直しなさい。それと人を一方的に袖にした挙げ句、その屍を蹴りつけるような発言も止した方が良いね」
「何を言っているんです!この程度の挨拶をそんな表現されたのなら、春先輩が桜の屍の上で一体何回ブレイクダンスしたか分かりませんよ!?」
「……君はそんなに何をしたんだい?」
気苦労の絶えないであろう親友に同情せざるを得なかった。元々抱え込む気質があるから、春の胃に穴が開くのは時間の問題だろう。
「あ、それと横入りはしていませんよ!前の方から雅先輩が見えたので、皆さんに順番を譲りながら来ました!」
真偽を確かめるべく視線をやれば、前に並んでいる何人かが困ったようにこちらを振り返っているのが見えた。
「譲るのと押し付けるのは違うと思うよ?」
口では嗜めながら、けれど一人で味気の無い夕食を頂くよりは幾分かはマシか、とは思った。それでもよりによってこの娘か、とも思った。