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百合っぽい学園物  作者: 森野彼方
澄城 雅
4/22

続きも生徒会室で。2

日が暮れて、夜の帳が学園を包み始めた頃。根を詰めて処理するほど急ぎの仕事も無いという理由で、私は労働から解放されることとなった。


「しかし絵になるね。今度メイド服でも来てみないかい?」


「いたずらに前科を増やすものではありませんよ、先輩」


「増やすも何も、まだ脛に傷すらない清い身なんだがね……」


にも関わらず、未だに生徒会室に留まり軽口を言い合うには理由があった。


「少し、お時間頂けますか?」


我らが頭脳たる会計、八千草(やちぐさ) 伊織(いおり)からの誘いである。


「勿論良いとも。伊織ちゃんからの誘いなら断るまいさ」


私だけをご指名らしく、副会長の春と書記の栞ちゃんは先に生徒会室を出た後である。時間を頂く代わりに、と伊織ちゃん手ずから淹れた紅茶を楽しみながら、二人きりの女子会と相成った。


「しかし趣味とはいえ手慣れたものだね。私ではこうはいかないよ」


手元のカップを遊び、しっかりと抽出された飴色に私は微笑む。香りも確かな存在感を保ちながら、けれど主張し過ぎない様が好ましい。


「ご冗談を。先輩ならすぐに出来るようになりますよ」


謙遜なのか、それとも本心なのか。私の賛辞など歯牙にもかけぬ、とばかりに紅茶と共に飲み込まれてしまった。


確かに私はさして不器用でもないし、やろうと思えば多少は出来るようになるだろう。ただそれは教えをなぞるだけで歪な出来損ない。哀れで虚ろと既に見切りをつけられていることを思えば、とてもそんな気にはならなかった。


《茶道において作法はどこまでいっても作法でしかありません。本質は相手を想ってこそ。雅さんでは損なうばかりです》


「……私は利休になれないさ」


ふと思い出した家元の言葉に呟けば、なんのことかと伊織ちゃんは首を傾げる。


「ああいや、大して意味のある話じゃないさ」


温度や茶葉の選定から、幾らかではあるが私の好みに寄せられて淹れられたことが知れる、気遣いあればこその一杯。


洋の東西で隔たりがあろうと、何かを振る舞う行為の本質は同等だろう。他者とはある程度の距離を取っていたい私には、ティーバッグですら手に余るかも知れない、と自嘲する。


比較的気心の知れた伊織ちゃんに対してすら、やはり一線を引いたまま近付こうとは思わない。紅茶が趣味と知りながら、何故、紅茶が趣味なのか知ろうとは思わない程度の距離。


それは私が誰かに近付ける限界なのだろう。


「それで、今回の用向きは何なのかな?」


虚勢も良いところだとは自覚しながら、沈みかけた心中を悟られぬよう、私はニヤリと笑って切り出した。


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