続きも生徒会室で。
「どう考えてもそれは雅が悪いと思う」
愛すべき親友にして我が右腕たる副会長、真田 春は呆れたようにそう切り捨てた。
因幡から姉など不要と断られてから少し後。用事があるから、と生徒会室から立ち去った因幡と入れ替わるように参上した役員達の中から、最も胸襟を開けて接する春へ、私は相談を持ち掛けていた。
「妹から要らないって言われたんだが」
そして出された答えが先の一言である。
「ふむ。……ふむ?」
「なんで分からないかなぁ」
未だに因幡と応対して以来、現実に打ちのめされてソファーから立ち上がれない私を、傍らに立つ春が憐れむように見下ろす。
私よりも上背のある、女性の中でも長身な春だからこそ、僅かではあるが圧迫されるような息苦しさがあった。
「いや、何かしらの落ち度があったのは理解しているんだ。ただ、それが何なのかが分からないんだよ。そんなにすぐ分かるようなことを見落としているのだろうか?」
可愛らしく小首を傾げる私。春は呆れ果てたとばかりにため息を吐いた。
「はぁ……。想像してみなよ。まずその因幡ちゃんとやらは右も左も分からない転入先で、生徒会室に呼び出されました」
一から問題を整理しようとする春に頷いて先を促す。
「そこに変態がいました」
「異議あり!」
「却下します」
にこり、と評するにはいささか攻撃的な、有無を言わせない笑顔で私の反論は封殺された。今の春は私を見下ろしているのか見下しているのか、どちらなのだろう。
「その変態が《今日から私は君の姉だ》、と言い出しました。どう思う?」
「私じゃなかったらポリス沙汰だね。前科待った無しだ」
「……相変わらず変な自信に満ち溢れているようで何より」
ようやっと私の対面に腰を下ろしながら、肩を竦める。
「とやかく言うべきじゃないかもだけどさ、一応は自分の立場とか考えながら立ち回りなよ」
「ふむ。……ふむ?」
「いや、だからさ……。今回はもうちょっと外堀埋めるなり段階踏むなりするべきだった、って話だよ。生徒会長が変なことすると私ら役員だったり、他の生徒が割りを食うの。伊織ちゃんも何か言ってやってよ」
言いたいことは言ったとばかりに背もたれへ体を預けながら、春は我らが頭脳たる会計殿へと水を向ける。
「どうでも良いので仕事をしなさい」
「「……はい」」
笑顔と共に向けられた言葉なのに、とても逆らう気にならなかったのはきっと私達が職務に忠実だからだろう。決して眼鏡の奥の瞳が怒りに澱んでいたのが恐かったからとか、後輩に気圧されたからでは無いはずだ。
何にせよ、澄城雅による《赤坂因幡妹化計画》は端から見るに最悪の滑り出しでもって幕を開けたのだった。
「見落としていたのは心情ではなく常識でした、とか泣けてくるな」
「澄城先輩、手を動かして下さい」
伊織ちゃんの声に私は身震いと労働で応えた。