始まりは生徒会室で。2
「ネタばらしをするとだね」
と戸惑う因幡に笑いかけて話し始める。
「私と因幡は、っと。因幡って名前で呼び捨てにされるのが嫌なら先に言ってくれよ?」
「いえ、気にしませんけど……」
「それは良かった。では話を戻そう。因幡のご母堂が再婚された赤坂某は私の叔父にあたる人物でね。戸籍上、私と因幡は従姉妹になったんだが、……聞いているかな?」
「何も、聞いて無いです」
ふるふると私の言葉に首を振って因幡は応えた。滝のようだった髪から幾房かが乱れ河のように揺らぐ様は、因幡の心情を表しているのかも知れない。
「私も朝にそれを伝えられてね。従姉妹が転入するから面倒を見てやれ、とさ。あの人はサプライズのつもりかも知れないが、そう言う話はもっと事前にするべきだよなぁ……」
どこか茫然とした表情へと変わりつつ因幡を見て、少しばかり同情に胸が疼いた。見るからに繊細そうな因幡にとって、親の再婚は相応に気を使う大きなイベントであったことだろう。そこに加えて知り合いもいないだろう、地元から離れた全寮制の私立校へ転入させられて、積み上がった心労はいかほどか。
「とはいえ出来ることなんてそう多く無いんだ。寮の部屋割りに少し手を回した位だ」
手を回した、と言うよりは頭を下げたというのが正解なのだが、あまり格好が良くないのでそこは伏せる。
「はあ」
「……。私は因幡と従姉妹になれて嬉しいよ。まあ、頼りがいのない姉かも知れないが、折角の縁だ。愚痴を言える程度には頼ってくれよ」
多分時間を空けないとかえって負担になるだろうと話を切り上げ始める。せめて彼女にとってこの縁が、悪いものにならなければ良いと思う。
「……姉、ですか」
「ああ。因幡にとって、それが迷惑でなければね」
ポツリと、こぼした呟きに頷きながら応える。
後になって振り返れば、私は少しばかり浮かれていたのだと思う。無論、その事に関して言い分はある。あるのだが、それは後の祭りというもので、語るには及ぶまい。
ただ1つ語るべき確かなことは、
「迷惑です。私は姉なんて要りません」
私は何か、因幡の心情を見逃してしまっていた、ということだった。