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百合っぽい学園物  作者: 森野彼方
澄城 雅
14/22

朝焼けを君と。2

因幡から私に求めるものはあるのだろうか。


互いのお茶を啜る音と息遣いが食堂の片隅でこだまする中、私はふと、そうなことを思った。


私は因幡に家族になることを求め、彼女はそれに応じてくれた。


今のところはそれ以上もそれ以下も、それ以外も求める気はない。


私としてはその合意だけでも充分で、別に馴染まないのなら、無理に姉と呼んでくれなくても良いと思えるくらいに満たされてもいる。


だが、因幡はどうであろう。彼女は別に私に何かを求めてはいないし、私の求めに応じたとして、偶然にも彼女の求めていた何かが満たされた、とはあまりに考え難い。


私は因幡が求めに応じてくれた以上、出来る限りのことはしてあげたいとは思うものの、では何が因幡の願いに添うのだろうか、というのが気になった。


(良い機会だし、それを聞いてみるのも悪くないか)


そろそろ湯呑みの中身も尽きる頃合いだったこともあり、沈黙を破る為に長らく湯呑みへ注いでいた視線を因幡へと移す。


すると何時からかは分からないが、因幡は湯呑みでも、テーブルでも、まして私でもなく、窓の外へとその視線を向けているのが分かった。


釣られるように私も振り返り窓の外へ意識を向ける。


窓ガラスの向こう。輝きを増す明けの光が僅かとなった夜の残滓を焼き焦がし、悠々とたなびく白雲すらも巻き込んで一面を薄い赤紫に染めていた。


儚くも鮮やかな、幻想的ですらあるその光景に息を飲む。


「綺麗だね」


「はい。とても」


思えばこんなにも穏やかな気持ちで朝焼けを眺めるなんて何年ぶりか、いや、初めてかも知れない。


澄城の家にいた時はただひたすらに自分を高めるのに必死だった。決して満たされないと知りながら、けれども期待に応えようとあらゆるものを積み上げようとして、脇目を振る余裕もなかった。


学園に来てからはそれを惰性で続けていたようなもので、夜明けに起きる理由も、起きて走り込む必要もないのに習慣としていた。思えば何とも無駄なことをしていたものである。


「朝焼けは好きかい?」


「はい。綺麗ですから」


「なら、また一緒に朝焼けを見よう。今度は、もう少し見映えの良い所から」


「ええ、喜んで」


どこか夢見るように微笑む因幡と、思い付きの約束を交わす。


結局因幡の求めるものは分からず仕舞いだったが、いつか因幡の求める何かに届くと信じて、そんなささやかな約束を積み重ねようと思った。

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