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百合っぽい学園物  作者: 森野彼方
澄城 雅
12/22

そして夜は更けてゆく。2

「好きですよ。愛してます」


夜が更けゆく最中にあって、まるで真昼の太陽の様に眩く曇りのない笑顔で、一切の躊躇も、微塵の淀みも見せず、桜はそう言い切った。


それが如何に誇らしいことであるか、いっそ胸でも張るように堂々と、屈託もなく告げる桜に私は言葉を失った。


呆気にとられた、もしくは毒気を抜かれた、という方が正しいかも知れない。


「……そうかい」


「……何ですかその反応」


ようやく口を開けたのはおおよそ十秒ほど時間が経ってからだった。それだけの時間を要しても、出てきた言葉は簡素なものであり、不服に思ったのか桜はそこで笑みを消し、口を尖らせる。


「いや、言葉もないとはこの事だよ」


「ええっ、何ですかそれ!?」


「何だと言われてもねぇ……」


どうにも見ていられなくて、視線を反らす。惜しげもなく愛を語る様は、私にはあまりに眩しすぎた。


ましてその想いを告げられるべきは春であって、私はその片隅すら触れ得るものではないのだと思えば、言うべき言葉は何一つないし、またあるべきでもない。


「まあ、次は精々上手くやりたまえよ」


そんな気休めに似た励ましを絞り出しながら、私は話は終わった、とばかりにベッドへと身を預ける。もう、随分と遅い時間になってしまっていた。


「なんかモヤモヤしますねぇ……。お休みなさいです」


「ああ、お休み」


パチリ、とスイッチの音と共に部屋を暗夜の帳が包み込む。後から訪れた静寂も、それに倣うように部屋を満たした。


(……愛してます、か)


相羽 桜。評するに馬鹿か阿呆か狂人か、言葉には迷うが、しかし、それ故に彼女は自身を偽らない。


彼女が口にするのは嘘も矛盾も、手加減すらない剥き出しの感情だ。それを傍に立って囁くこともなければ、詩人のように飾り立てることもない、愚直なまでにありのままの想いを叫び、体ごとぶつけることで余すことなくその熱量を相手に伝える。


春もそれを知るからこそ、張り倒すでもなく、今夜のように逃げ回る。春は優しい上に苦労性だから、それが自身に向けられた好意である以上、無視が出来ずに最低限向き合って、応えきれないのに拒みきれなくて、逃げ回る以上の事が出来ない。


彼女の想いとその言動を知った当初は、まるで獣のようだと忌避していたが、今はその愚直さが好ましく、また、時折だが羨ましい。


私にはそれだけの熱量のある感情を抱くこともなければ、捧げるべき相手もいない。


死んでもああはなりたくないな、と思いながらも、それでも羨望の念を抱かせる、太陽のような眩さと情熱を放ち続ける少女。


その想いの行く末を見守るのが、私の数少ない楽しみでもあった。


ちなみに根負けした春がなし崩しに桜を受け入れる、というのが今の私の見立てである。

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