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百合っぽい学園物  作者: 森野彼方
澄城 雅
11/22

そして夜は更けてゆく。

「世の中、なかなか思った通りになんていきませんね」


「こら加害者。まず先に謝罪じゃないか?」


協議の末、因幡との同衾に関してそこまで親密にはなっていないから、との結論に達し、折衷案として私が代わりに桜の部屋へと赴くこととなった。


誰に言い訳する訳でもないのだが、それは私が因幡を気遣ったが故の結果であることは明言しておきたい。……私が日和った訳ではない。


「いやぁ、すいません。つい思わず」


「思わずで強姦未遂とかモラルが足りてないな。何時間くらい折檻されれば骨身に染みるかね?」


「人聞きの悪い言い方は止めて下さいよ。私は愛を確かめようとしただけです」


「その為に必要な段階を何段飛ばしたのやら」


「精々二段くらいでしょうか」


「飛ばした自覚があるのなら、もうちょっと慎みを持ってもらいたいものだね」


減らず口を交わしながら、空いているベッドへと腰を下ろす。


部屋の間取り自体は寮である以上、何かしらの例外でもなければ統一されているはずなのだが、物の配置に個性が出るのか、慣れた間取りがどこか真新しく思えた。


示し合わせた訳でもないのだが、私も春もあまり物を持ち込まない方なので、桜の部屋は物に溢れて手狭に感じる。


ぬいぐるみやらが置かれるのはまだ微笑ましい。その中でも目を引いたのがサイドボードだった。


「……物の見事に春の写真しか張り付けてないのだね」


「あげませんよ?」


「要りませんよ」


ざっと十数枚。大きいとは言えないサイドボードは春の写真で隙間のないくらい埋め尽くされていた。内容にしてみれば学園行事だったり、何気ない日常の一コマが大半を占めるのだが、ほんの一枚、幼少期と思える写真を見つけてしまった。


(……これは、大丈夫なやつだろうか)


声には出さず思考を巡らせる。幼稚舎から大学までの道のりがエスカレーター式に用意されている名桜学園にあって、私と春はお互いに中等部からの途中入学組であり、対して桜は幼稚舎から在席している生粋の箱入り娘である。


家同士の付き合いなりが元々あったなら話は別なのだが、どちらの口からもそんなことは聞いたことがない。であれば何かしらの縁でもなければ、桜が持ち得ない類いの物なのだが、何故所持しているのだろうか。


好奇心は湧くものの、相手は愛しさを理由にすれば現代日本でも夜這いは合法と宣う狂人である。問いの答えが闇の深いものであったなら、私はどんな対応をすれば良いか検討も付かない。


「何かありました?」


「ああいや、随分と春の事が好きなのだな、と改めて思ってね」


苦し紛れの返答に、桜は満面の笑みで頷いた。

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