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てるもこほのぼの百合  作者: 久枝佐一
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memento mori.

今夜は恒例の殺し合いの日だ。


暫く暇だったので丁度良い頃合だと思っていた。


半ば浮かれながら待ち合わせの場所に行ってみると、まだ約束の時間までは大分時間がある事に気がつく。


自分がさながら、惚れた男との初めての逢瀬を目前にして昂る生娘の様だと考えたら、実に今更の事ながら恥かしくなってしまった。


さて、時間は月が真上に昇る頃と示し合せていた筈なのに、輝夜の方も可なり早くやって来た。


人のことを言えた義理では勿論無いのだけれど、輝夜は私との殺し合いを楽しみにしているのかしら、なんて考えてみると嬉しい様な、可笑しな気持になった。


そんな事を考えているのが何だか照れ臭くて、それを表面に出すまいとして私の方から声をかけたのだった。


「やあ、随分御早い到着で。時間まで待ちきれなかったのかしら?」


そんな私の言葉を聴いた輝夜は、どっちが、といったような顔をして


「ええ、とても」


とだけ、笑って答えた。


その、私の感情をすべて見透かしているような答えと笑みに耐えられなくて、初撃の方も私からだった。


炎を纏った手刀の一撃は輝夜には掠りもせず、かわって次の瞬間私の腹部を強烈な衝撃が襲ってきて、それと同時に私は後ろに大きく突き飛ばされた。


その最中、振り上げた脚を戻す輝夜を見て辛うじて、私は蹴りをもらったのだと分かったが、理解した次の瞬間には輝夜の手に見事な刀が握られていた。


体勢を立て直そうとして地に手をつき、起き上がった頃にはもう大きく刀を振りかぶった輝夜が目の前にいて―――斬撃を避ける間もなく、その美しい刀身は私の首を味気なく斬り落とした。




意識が戻ると(私たち蓬莱人は唯一、首から上を胴体から離されることによってのみ一寸意識を失うのである)首も元通りくっついていた。


起き上がった私のそばに座って私の血に塗れ、月光で更に妖しく輝く刀身をうっとりと見つめていた輝夜の姿が美しくて、見惚れてしまった私は声も発せなかった。


そのうちに輝夜は私の意識の戻ったのに気がついて


「あらお早う。少し勘が鈍っているのかしらね?兎に角、今夜は私が先制だわ」


と、また笑みを浮かべながら言った。


「馬鹿言え。直ぐに逆転してやるさ」


そう言いながら私は起き上がるなり輝夜の方に向かって最大出力で炎を浴びせた。


が、炎の晴れるのを見ると、そこに輝夜の姿も姿の跡も見えなかった。


咄嗟に後ろを向くも遅く、輝夜の貫手が私の体の中に入ってくる感覚を覚えた。


「やっぱり、調子が悪いんじゃないの?こんな使い古しの手にかかるなんて。後で永琳に診てもらいなさいな、妹紅」


なんて、口では私の体の心配をしているけれど、手の方は容赦がない。


輝夜の白い綺麗な手でゆっくりと、弄ぶ様に私の臓物が掻き混ぜられていく。


耐え難い苦痛だけれど、今私はどんな顔をしているのだろうか?


多分、苦痛と快感が入り混じった訳の分からない表情をしているに違いないと思う。


何せ、私は今、生きているんだから!


生きても死んでもいない我が身が、生きていると実感できる時こそが、この時だけなのだ。


不死身の我が身でも、生を感じる上での絶対条件である死を(たとえ偽の感覚であったとしても)身近に感じていられるのは、この時だけだ。


輝夜を私に、私を輝夜に与えてくださった浅間様に感謝すら覚えながら、苦痛に(或いは快感に)身を捩り、悲鳴を上げていた。


「妹紅、また私が優勢のようね。気が済むまで遊び尽くしたらまた首を刎ねてあげる」


輝夜は、おあずけを喰らった犬のように切ない顔をしながらそう私に囁いた。


輝夜はいつの間にかまた先ほどの刀を手にしていた。


「そうっ…は、いくか……っ!」


私は限りなく輝夜と接近しているこの状況を利用して、輝夜を我が身ごと紅蓮の炎で包み込んだ。


そして恐らく輝夜もそれを望んでいたのだろうが、彼女は正に思い通りと言った様な高笑いをしながら焼け爛れてゆく。


私と同じく生を感じるために死を渇望している彼女の要求を無視するほど私は冷酷でもなかった。


肉を焼く厭な臭いを漂わせながら、黒煙が月に向かって立ち昇った。


そう、いつの間にか月は私たちの真上に昇っていたのだった。




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