理不尽で溢れたこの世界
「・・・・着いたよ、ここが私が住んでる村。アンリール」
「・・は?」
そこは到底村とは思えない、巨大な都市。周りには壁が立ちはだかっていて、明らかに村とは思えない。
「これ明らか村じゃないよね⁉︎」
「・・・・こういうのを村って言うんじゃないの?」
駄目だ、この子もしかしたら不思議ちゃんって奴なのか。まぁよく考えてみたら村よりもこっちの都市の方が安全そうだ。結果オーライってことにしておこう。というかよく見たら門の前に門番みたいな人が立ってるし、割と本気で凄いところなのかもしれない。
「・・・・中に入るよ」
ひとまずこれで安心だ。まだこの世界のことについてはよくわからないけど、どうせやることといったら魔王討伐だろう! 色んな仲間と共に魔王を倒すのが俺の使命だ!
「おい止まれ。お前ここの住人じゃないな? 悪いがここに入る為には住人登録をしなければならんのだ。用意をしておくから明日にでもまた来るんだな」
「え?なんすか登録って、つまり俺は明日まで野宿ってこと? 」
門番は頷く。少女は呆れた顔でこっちを見る。
「・・・・なんで登録してないの?」
「ちょっと待て、俺ここに来るの初めてなんだけど、何登録してんのが当たり前みたいな空気になってんの?」
やっぱこの子不思議ちゃんだ、間違いない。不思議ちゃんは面倒くさそうに何かメモを取ると、
「・・・・ここ、私の住所。明日、ここに来て」
そう言って少女は都市の中に入ってしまった。
門番は憐れみの顔をこっちに向けている。どうしよう、これから。
「この辺で良いか」
俺はアンリールから少し離れた小さな森でくつろいでいた。木陰があって心地よい風が入ってくる。先ほど門番に貰った水みたいなものを飲んでみる。この世界で生きていく為には必需品らしい。
「うげぇ! まっず!」
口の中が苦味で広がる。あの門番の優しそうな外見に騙された。それでも喉は渇くので飲みきる。空を見ると太陽は真上に来ていた。おそらく正午ぐらいだろう。
「一眠りでもするかな」
ピョコン、ピョコン
何かが跳ねる音が聞こえる。目を開けるとそこには可愛らしい見た目のスライムがいた。本物のスライムなんて初めてみた。ワクワクしないはずがない。俺は落ちてた棒を手に取りスライムに向かって振り被る。が、スライムは俺の攻撃を軽々と渡すと腹に向かって突進してきた。
「うげっ⁉︎」
俺の意識は深い底に沈んでいった。最後に見たのはスライムの憎たらしいドヤ顔だった・・・・。
夢を見た、俺が生まれた時の夢だ。何も纏わずただ生まれた姿のままの俺がいた。
「なんか凄い夢を見ちゃったな・・・・」
腹部がズキズキと痛む。見ると青あざができていた・・・・ってあれ⁉︎
「お、俺の服は⁉︎ それに荷物も‼︎」
まさかあのスライムに奪われたのか⁉︎ 某ゲームでも金が半分奪われるぐらいだってのに‼︎
「終わった・・・・ふふ、全てが・・・・」
俺は現実逃避をし、森の木に身を委ね深い眠りについた。初めて俺が自然と一体化した瞬間だった。
ここはどうやら俺の想像を超えた理不尽まみれの世界らしい。