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第一話 堕天失敗

登場人物紹介

・ルシファー(天使格)・・・この物語の主人公。黒髪で切れ長の黒い目を持つ。神のように優しい心の持ち主で、それが仇となり反旗を翻し、敗れた。戦闘力は他の天使を圧倒し、初代熾天使でもある。


・ルシファー(悪魔格)・・・この物語のもう一人の主人公。元はこちらが主人格だが、

自ら天使格を創り、自分は奥へ引っ込んだ。

悪魔のような姿、口調だが、根は天使。

この姿を知っているのはウリエルまでのみ。

普段はルシファーの記憶の間にいるが、ピンチになったりした場合に入れ替わる。


・ゼウス・・・天使達を治める神。悲しい過去を持つ。ルシファー達を影で暖かく見守る。


・ミカエル・・・ルシファーの大親友であり、弟。金髪の長い髪に青い目を持つ。ルシファーに引けを取らない戦闘力の持ち主で、ゲイボルグを使った激しいドッグファイトを得意とする。空気を読むのがヘタ。


・サンダルフォン・・・ミカエルと並ぶ大天使。ハンマー『ミョルニル』での範囲攻撃が得意。こう見えて楽器の演奏が上手い。


・ガブリエル・・・ミカエル、サンダルフォン、ウリエルの四人で『四大天使』と呼ばれる。ケルキンから放つ様々な砲撃で敵を殲滅する。昔、ルシファー(悪魔格)に育ててもらっていた。


・サタン・・・悪魔界の王。悪魔界きっての魔性とカリスマ性を持つ。その力は未知数。

自身の城サターンキャッスルで悪魔達に指示を出す。


・ベリアル・・・初代堕天使。ルシファーの次に創られた天使。他の天使と違い、クロスをまとわなくても羽が生えている。他を見下し、自らを最高とするが、忠誠を誓ったものには従うセオリーを持つ。


天界について

天界は1から12番までの番地に分けられており、12番地にはゼウスが、11番地には大天使達が住む。泉にはネクタルが流れ、木にはイズーナのリンゴがなる。また、雨は悪の前兆とされている。



天使誕生順

初代・ルシファー

二代・ベリアル

三代・サンダルフォン

四代・ウリエル←ルシファー(悪魔格)を知っているものはここまで

五代・ミカエル

六代・ガブリエル






















大きな翼を広げた天使たちが、最終防衛線を突破した。数で勝る天使軍に、やはり俺は勝てなかった。

「ルシファァァァァァァァ!!!」

自分の名前を叫びながら天使軍の先頭を切って走るのは、俺が「天使」だった頃の親友、大天使ミカエルだ。

「何故だ!何故俺たちを裏切った!?」

俺は腰の剣を抜いて切りかかった。

「人間は醜い。しかし!神は!我らではなく、人間を選んだ!人間にそのような価値など、無い!」

ミカエルの槍と俺の剣が火花を散らす。

「この俺が、神になるのだ!ミカエル、お前も俺の右手として迎える!同志になれッ!」

「・・・ああ、確かに、我が主は我らではなく、人間を選んだ。だが!!」

つばぜり合いを制したミカエルが槍を構える。

「俺は、幾つもの人間を見てきた!確かに人間は醜い!だが、我らには無いものを持っている!俺は!人間に!託したい!」

ルシファー、とミカエルが続けた。

「俺は、人間の味方だッ!」

ミカエルが左手の腕輪に触れる。

激しい光がミカエルを包んだ。

「くらえ、『ジャスティス・スピアー』!」

天技『ジャスティス・スピアー』。ミカエルの得意技だ。強い光が俺の体を貫いて行く。

「・・・終わったか・・・」

急速に薄れて行く意識の中で、俺は、笑った。





(ルシファー、ルシファー!返事をしてくれ!ルシファー!)

自分を呼ぶ声に、僕はゆっくりと目を開けた。天界11番地、子供の頃よく遊んだ木の下。そよ風が顔に当たった。

僕の目の前には、心配そうな顔をした親友の顔があった。

「・・・ミカエル・・・?僕は、どうなって・・・」

「ルシファー、君は・・・」

「堕天、仕掛けたのよ」

誰かが横から口を挟んだ。

声の主は、腕を組んで、木にもたれかかっていた。青い髪の、整った顔の美人だ。

「・・・ガブリエル・・・それは・・・どういう・・・」

「堕天は様々な要因で起こる。ただ単に悪魔に魅入られたバカもいるし、貴方のように誰かを救いたくて堕天することもある。」

「・・・誰かを・・・救いたくて?」

「俺たちを救いたい、そう言ってた。堕天したお前は。」

何がなんだかわからなくなった。ミカエル達を救うために堕天とは、堕天した僕は何を考えていたのだろう。

「我らが主、神は私たちを人間の下に置いた。人間の『可能性』にかけてみようと思われたのだ。」

木の後ろ側から、完全武装した天使が現れた。背が高く、威厳のある顔つきだ。

「お前は面倒見だけは良かったからな、ルシファー。天使達が職を追われるのを危惧したのだろう。神も自らに責任を感じておられる。後で詫びにでも行け。」

「ああ、分かってるよ、サンダルフォン」

ミカエルと並ぶ大天使、サンダルフォン。

見た目はまるで対称だ。サンダルフォンが威厳のある大男なら、ミカエルは人間界で言う

『イマドキのワカモノ』。金髪で『チャラ男』なミカエルとこの馬鹿でかい大男が前線で素晴らしいコンビネーションを繰り広げるとは誰も想像しないだろう。

「じゃあ、僕は主のところへ行ってくるよ。

体は何とか動かせそうだ。」

僕はゆっくりと体を持ち上げた。

体の節々が痛い。ガブリエルから貰ったネクタルを飲み干し、僕は我らが主、「ゼウス」

のもとへ向かった。






「失礼します。ルシファーが参りました。」

「よく来た。入りたまえ。」

木製の重たいドアをノックし、僕はゼウスの間へと入った。

ゼウスの間は人間界が一望できるように床が透明になっている。その奥で、一人の老人が椅子に腰掛けていた。

我らが主、ゼウスだ。

「ゼウス様、僕には記憶がありませんが、どうやら堕天しかけたようです。申し訳ございません。」

僕は床に膝をついて頭を下げた。

「顔を上げなさい、ルシファー。」

ゼウスが優しく言った。

「お前が堕天することは、すでに予言されていた。これを知っているのは、我々神だけだ。天使が堕天すると以前の記憶は無くなる。お前が覚えていないのはそのためだ。お前に着いた天使達はちゃんと浄化を施した。もう堕天はせんよ。」

それより、とゼウスは続けた。

「実は、厄介なことが起こっての。」

「厄介な・・・こと?」

うむ、とゼウスが頷いた。

「お前と言う大天使中の大天使である者が堕天したと言うことで、悪魔界に不穏な動きがある。さらに、アスタロト、アモン、バアル、ベルフェゴール4卿悪魔が目覚めた。さらに・・・ベリアルがダーインスレイヴを抜いたと言う知らせも聞いた。」

「ベリアル・・・」

「ああ、お前の次に我らが創った、天使だ。」

「ダーインスレイヴ・・・剣、でございますか?」

「ワシが人間界の『北欧』という地域に居た時、オーディンと呼ばれていての。その後日談で語られた剣じゃ。鞘から抜いて生き血を浴びて完全に吸い取らなければ鞘に収まらんと言われた魔剣。そうなっておる。どうしてベリアルがそれにたどり着いたのかは分からぬが・・・」

大天使ベリアル。自分の次にゼウスによって創られた天使。自分を兄のように慕ってくれていたあの頃のベリアルは、もういない。

「悪魔軍が侵攻してくるのは時間の問題じゃ。また、前線に復帰して我らの力になってはくれぬか?」

僕は深く頭を下げた。裏切ったとしても、自分を信用してくれるゼウスに、心から感謝した。

「このルシファー、必ずや、悪魔軍を撃退いたします!」

ゼウスはニコリと笑った。その笑みに少し陰りがあるのを、僕は気づかないふりをした。







「・・・そうか、4卿が目覚めたか・・・」

「ええ、これで勝機は悪魔軍のもの。全てはサタン様、貴方のためでございます。」

ベリアルは自らの主君、サタンに深々と頭を下げた。悪魔界きっての魔力とカリスマ性を備えたサタンに魅入ってこの悪魔界に来たが、中々居心地がいい。

サタンも自分のことを高く買ってくれた。

ダーインスレイヴのありかを教えてくれたのもサタンだ。

「我らは長きに渡り、神に押さえつけられてきた。だが、今こそ反撃の時だ。我らが天界を制し、悪魔のための理想郷を創り上げるのだ!」

サタンはそう言うと、椅子から立ち上がって、サターンキャッスルのバルコニーへの扉を開いた。

下には大勢の悪魔達が歓声を上げてサタンを讃えていた。

「皆の者、出陣じゃ!狙うは神々の王、ゼウスの首ただ一つ!ゼウス、大天使どもを討ち取った者には褒美の上限は付けん!皆心してかかれ!」

オオー!と歓声が上がる。

サタンはマントを翻してサターンキャッスルの中へ入った。

「ベリアル、お前も前線に送る。その魔剣、使いこなして見よ。」

「はい、仰せのままに。」

ベリアルは腰に下げたダーインスレイヴに手をやった。

「楽しみにしてるよ」

ベリアルは呟いた。

「待っていてね、兄さん」

ベリアルはほくそ笑んだ。









『エンジェル・ゲートが何者かによって突破されました!天使諸君は戦闘準備にかかりなさい!!』

天界に怒声が鳴り響いた。

エンジェル・ゲートは悪魔界と天上界を結ぶ境界線。それが破られたということは、間違いなく、悪魔の侵攻がはじまったと言うことだ。

「ルシファー!ルシファー!!」

僕の家の窓をミカエルが叩いた。

「あの警報、間違いないな。」

僕が開けた窓から身を乗り出して、ミカエルが言った。

「うん、間違いなく、悪魔の侵攻がはじまったんだ。」

「やっぱりな・・・急ごう!悪魔達にこの天上界をやらせはしない!!」

ミカエルが言った。

こくりと頷き、家の外に出る。

ミカエルは腕輪にはめ込まれた緑の宝石に、僕は首から下げた白の宝石に手をやった。

「クロス・アームド!」

声を揃えて叫ぶ。激しい光が僕たちの体を包んだ。麻の服の上に何かが付けられるのを感じた。

鎧だ。僕たちはクロスと呼んでいる。

白い鎧が体にフィットして行く。ミカエルは緑色だ。

最後に、自分達の武器が地面に突き立てられた。僕は白い剣「エクスカリバー」、ミカエルは槍「ゲイボルグ」だ。

それぞれ人間の「英雄」と呼ばれる者が使っていたらしいが、あれはレプリカだ。逆に、本物を人間が持つと死に至る、と言われている。

それぞれの武器を手に、僕達は翼を広げて飛び立った。向かうは最前線、天界一番地だ。







「いいか、一匹たりとも悪魔の野郎どもを入れるな!負けられんぞ!!」

サンダルフォンが激を飛ばしながらミョルニルを振り下ろした。雷撃が悪魔達を襲う。

最前線では熾烈な戦いが繰り広げられていた。

悪魔と天使達の壮絶な戦いがあちこちで起こっている。どうやら押されているようだ。

「よし、いけるな、ルシファー」

「ああ」

僕とミカエルは一気に急降下した。

立て続けに三体の悪魔を叩き切る。

悪魔はチリとなって消えた。

「『ジャスティス・スピアー』!」

ミカエルが天技を早速使った。

天技は天使達が持つ固有の技だ。一つしか持たない天使や何個もの技を持っている天使もいる。

発動するのは簡単だ。天使達が持つ『天翔石』に触れて技をイメージすればいい。

天翔石はクロスを身に纏うときに使ったあの宝石だ。

「よし、僕もひと暴れするか・・・『ディメンション・エックス』!!」

技名を言うのは、まぁ、そっちの方がカッコイイから、かな。

僕は空中に『X』の文字を剣で刻んだ。

刻まれた『X』は直進し、周囲の悪魔をチリへと変えた。

不意に頭に違和感を覚えた。天使間のテレパシーだ。テレパシーを飛ばせば、声を発しなくても会話が出来る。確か人間がそれを真似て「無線」だの「ケータイ」などと言うのを作ってたっけ。

"ルシファー、味方が9時の方向にデモンズゲートを発見した。デモンズゲートを封じれば増援は来ない。俺が敵を引きつけるから、お前はデモンズゲートを潰せ!"

ミカエルからの通信だ。

悪魔は天使のような羽が無い。

長距離を移動するには、上級悪魔が作るデモンズゲートを通じて移動する。

デモンズゲートは空間を歪ませて作るので、歪みを戻せばデモンズゲートは封鎖される。

僕は羽を広げ、9時の方向に直進した。流石に悪魔達の防衛隊がいたが、下級悪魔に苦戦することは無い。

「ごめんだけど、ここは通してもらうよ!」

斧を構えた先頭の悪魔をエクスカリバーで一刀両断する。

突き攻撃で三体の悪魔を串刺しにし、僕は天翔石に触れた。

「『トール』!」

『トール』は剣先から雷撃を放つ遠距離攻撃だ。

雷撃は20体の悪魔と共にデモンズゲートまで達し、デモンズゲートを破壊した。

後は残った悪魔を倒すだけだ。

振り返ったその時、僕は胸に違和感を覚えた。

それが激しい痛みに変化するまで、さほど時間はかからなかった。

「グッ!!」

うめき声を上げて僕は倒れた。意識が遠のいて行く。

深い闇に、僕は落ちた。






ミカエルは事の一部始終を見ていた。

ルシファーが後ろから何者かに刺され、倒れるところを。

倒れた後には金色の血が溜まっていた。

「ルシファー!!」

ミカエルはルシファーのもとへ駆け寄った。

すでに息は絶え絶えだ。

「フフ、ノルマは達成したねぇ。僕の兄の血、ゆっくり味わえよ、『ダーインスレイヴ』」

ミカエルは刺した主をキッと睨みつけた。

上級悪魔特有のオレンジの瞳。髪は長く、真っ赤に染まっている。

そして、ミカエルは衝撃的なものを見た。

その悪魔の背中には、黒い羽根が生えていた。

本来、羽根は白いものだ。さらに、「純粋」

な悪魔なら羽根はない。つまり、こいつは・・・

「堕天使・・・」

「あれま、やっぱり羽根があったら分かっちゃうんだねぇ〜。そ、俺は元々て・ん・し。知ってるよね?最初に堕天した天使・・・」

「『ロックオン・シャイン』!!」

光が堕天使の周りに5発落とされた。

「それ以上、喋らないでくれる?ベリアル・・・この裏切り者が!」

ガブリエルの杖「ケルキオン」の放った光の着弾点に、激しい炎が上がった。

「何だ、ガブリエル。久々に会ったってのに、そんな顔することないだろ?」

「黙れッ!貴様を兄と慕った自分に、反吐が出るわ!」

ミカエルはゆっくりと体を起こした。

「許さねぇ・・・折角ルシファーが帰って来たのに・・・こんな、こんな別れ方など!断じて許さん!」

ミカエルはゲイボルグを構えた。いつの間にかやって来たサンダルフォンも、ミョルニルを構える。

「いいよぉ?また前みたいに遊んでやるよ・・・さぁ、来なよ、大天使たち」

ベリアルがダーインスレイヴを構える。邪悪な力が剣にまとっていく。

ガシャン!と言う音が後ろで聞こえた。

視線が自然に自分達の後ろに行く。

剣を地面に突きたて、立ち上がろうとするルシファーがそこにいた。

「ルシファー・・・やめろ!それ以上動いたら、死んじまうぞ!!」

だが、ミカエルの声を全く聞かず、ルシファーは立ち上がった。

顔は下を向き、荒い息遣いのみ聞こえる。

「・・・・フン!」

ルシファーが一度持った剣をまた地面に突きたてた。

その声が以前とは違う、低い声であることは、大天使全員が分かった。

黒い邪悪なオーラがルシファーを包み混んで行く。それまで着けていたクロスが弾け飛び、オーラによって新たなるクロスが付けられた。

だが、それは黒いロングコートだった。

所々に白いファーで飾られている。

髪は白く染まり、長く伸びていく。

ミカエルは、このルシファーを知っていた。

少し前、彼と完全に決裂したと思った。その時のルシファーだ。

「よう、久しぶりだな、ベリアル。」

「フフ、やっと会えたね、兄さん」

恐れていたことが起きてしまった。堕天に失敗したルシファーが、また、堕天してしまったのだ。

ルシファーが顔を上げた。その目は、燃えるようなオレンジだ。

そして、エクスカリバーが・・・まるで脱皮するように、その外装を剥がしていった。

金色の外装を外したエクスカリバーは漆黒の剣と化した。

「あれは・・・ゼータ・カリバー・・・?まさか本当に存在したとは・・・」

「ゼータ・カリバー?サンダルフォン、知ってるのか?」

「ああ。神は、剣を作る際に、必ず2振り作られる。一つは影打、もう一つは真打と呼ぶ。一見エクスカリバーが真打のようだが、本当の真打は、あのゼータ・カリバーだ。」

ルシファーがベリアルに近づいていった。

「ルシ・・・」

「やめなさい」

ガブリエルがミカエルの肩を掴んだ。

「もう彼は元のルシファーでは無い。彼は・・・もう敵なんだ。悪魔なんだ!!」

「いや、ちょっと・・・」

「・・・分かった。」

サンダルフォンの言葉を遮り、ミカエルは言った。

「悪魔を、この天界から、一匹残らず消す!」

ミカエルのゲイボルグが雷を纏う。

ルシファーはゆっくりとベリアルに近づいていった。

「歓迎するよ、兄さん。さぁ、俺と一緒に・・・」

斬撃がベリアルの体を襲った。

ベリアルの声を遮ったのはミカエルでもなく、ガブリエルでもなく、サンダルフォンでもなかった。

うずくまるベリアルに剣を向けているのは、紛れもなくルシファーだった。

「ゴチャゴチャとうるせぇんだよ小僧。

帰ってサタンとかいうクソ野郎に伝えな!

悪魔なんてクズにやる天界なんてねぇってな!分かったらさっさと帰んな!!」

およそ天使とは、さらにあの心優しいルシファーとは思えない口の悪さ。だが、一つだけ言えることがある。彼は・・・こっちの味方だ。





「うッ!キ、キサマァ、どういうことだッ!?」

「わかんねぇのか?」

俺は地面にうずくまるベリアルに剣先を向けた。

「いいか?俺は・・・天使だ。神はなぁ、俺を天使にしようなんてこれっぽっちも思ってなかったんだよ!俺が悪魔一号で、お前が天使一号になる予定だった。だが、神の野郎は魂を入れる段階で間違えた。俺とお前の魂を入れ間違えたんだよ。それで俺は悪魔の体を持つ天使に、お前は天使の体を持つ悪魔になっちまったんだ。てめえがクロスをまとわなくても翼が生えてんのはそのためだ。」

ベリアルは口を半開きにしてその話を聞いていた。自らの出生の裏を聞き、驚いているのは目に見える。

「だから・・・」

俺はしゃがんでベリアルの顔を見た。

「すまなかったな、何も言わなくて。」

頭を下げる。

やはり、俺は天使なのか。こういうことがあるたびに思う。敵に頭を下げるなど、誰もしないだろう。

「悪魔の体を持つ天使だと・・・天使の体を持つ悪魔だと・・・?ふざけるな!」

ベリアルは立ち上がって吠えた。

「殺してやる・・・殺してやる・・・殺してやるぅぅぅぅ!!」

ベリアルがダーインスレイヴを振り下ろした。

ゼータ・カリバーで受け止める。

「ああ、許せねぇよな、だから!」

俺は剣を弾いた。

「俺が、お前を倒す!!」

ゼータ・カリバーが黒く輝く。俺とベリアルは剣を合わせた。ダーインスレイヴとゼータ・カリバーが激しい火花を散らす。

可哀想だが、動揺しているベリアルは剣を振るうのが精一杯だ。

突き攻撃でダーインスレイヴを弾き、Xの文字をベリアルの体に刻んだ。

ベリアルの体が吹っ飛ぶ。

「食らえ、『ディメンション・ゼータ』!!」

俺は空中に横棒、斜め棒、横棒の順に刻んだ。

『Ζ』の文字だ。

もう一度、斜め棒を刻む。

ゼータ・カリバーのパワーを受け、『Ζ』は

真っ直ぐにベリアルへ向かった。

ドンッ!という強烈な衝撃がベリアルを襲った。

「ぐはぁッ!!」

ベリアルが天界と悪魔界の境界まで吹き飛ばされた。

ダーインスレイヴを杖代わりに、ベリアルが立ち上がった。

ガバッという声と共に人間と同じ赤い色の鮮血を吐き出した。

「・・・フフ、どうやら俺はまだ未熟だったようだね、兄さん。」

口元を拭いながらベリアルが言った。

「ベリアル・・・」

「また会おう。今度のゲームは俺のものだ」

ベリアルはマントを翻して、消えた。









「ルシファー・・・これは一体」

「だから、人の話聞いてたのかお前。

俺は、悪魔の体を持つ天使だ。これでも大天使なんだからな。」

ミカエルは頭を抱えた。オレンジ色の瞳は完全に悪魔の印。だが、口の悪さは置いておいて、彼の心はまさしく天使だ。

「ミカエル、お前は人の話を最後まで聞くことを習得しろ」

サンダルフォンが言った。

「な、サンダルフォン!?知っていたのか、ルシファーのこと」

「俺はベリアルの次に創られた天使だ。実質的な天使一号は、俺だ。我らが主、ゼウスは俺にだけ、そのことを教えてくれた。だから、ルシファーがその姿の時も知っている。

ガブリエルが生まれ、お前が生まれる頃には、もうベリアルの魔界落ちは目に見えていた。人間界への研修時、ベリアルは特に何もしなかったが、ルシファーだけは困っている人を助けていた。子供に高いところの花を取ってきてやり、信号を歩くバァサンの背中を押し、浪人中の学生の部屋にコッソリ入って熱いお茶を届けた。俺は思った。外見こそ違えど、こいつこそが正真正銘の天使だと。」

「だから俺は人格をもう一つ創った。

お前らが普段ルシファーと呼んでるやつだ。

そのルシファーって名前も俺が作った。俺の本当の名は・・・」

「サタン」

ミカエルがボソッと口にした。

「魔神王・サタン。それが君の本当の名前だ」

ガブリエルがドッと腰を落とす。

「・・・どういうこと?・・・サタンは私たちの敵じゃないの・・・?でも、本当のサタンはルシファーで・・・じゃあ、今私たちが戦ってるのは、一体誰なのよ!?」

ガブリエルが顔を覆って泣き出した。普段滅多と人前で泣かないガブリエルだが、流石に今回ばかりは我慢出来なかったらしい。

俺はしゃがんでガブリエルの肩に手を置いた。

「伝えて無かったのは済まなかったと思ってる。悪かった。」

ガブリエルの体を抱き寄せる。昔、一度だけガブリエルが泣いたことがある。人間に裏切られた時だ。その時も、こうしてあやした。

あの時はガブリエルの物心がついていない時だったから、まだこの姿だった。

「だが、これは紛れもない事実だ。ゼウスとの約束を、俺は守らなくてはいけなかった。

ベリアルを堕天させないためにも、あいつを『天使』とするためにも、俺はサタンという自分を捨て、ルシファーという仮面を被らなければいけなかった。正真正銘の天使として生まれたサンダルフォンに伝えた時も、ゼウスは苦しそうにしていた。何故なら、俺たちの本当の敵は・・・」

「ワシの、悪の心じゃ。」

声のした方を振り向く。ゼウスがいつの間にか現れて、そこに立っていた。

「ワシは、不安定な神だった。全能神としての自分と、悪神としての自分の二つがバランスを取っていた。それが、崩壊したのじゃ。

「アダムとイヴ・・・最初の人間によって・・・」

ミカエルの言葉にゼウスが頷いた。

「二つの人格が分かれ、一人はサタンに、もう一人はゼウスとなった。オーディンという、一人の神からな。」

じゃあ、とミカエルが言った。その声は震えていた。

「俺たちは、悪魔という名の・・・ゼウス様と、たたかっているのですか!?」

ゼウスが目を閉じて頷く。

「その通りじゃ」

「俺たちはそのために創られた。天使とは名ばかりの、ゼウス・・・いやオーディンの尻拭いのための使いっ走りとして。」

俺は最悪の真実を自ら口にした。

このことだけはゼウスの口から言わせたく無かった。そうすれば、ミカエル達はゼウスについて行かなくなるだろう。

せめて自分が悪役になるなら、それでよかった。

「・・・ルシファー・・・」

腕の中のガブリエルが俺を呼んだ。

「自分を、軽く扱わないで」

俺は目を見開いた。昔から勘が鋭かったが、まさかここまでとは・・・。

「貴方は貴方。誰かの身代わりになるために生まれてきたわけじゃない。私は・・・」

言葉を噤み、また続ける。

「ルシファー、貴方に感謝してる。私をここまで育ててくれた、貴方に。貴方がサタンでも、誰でもいい。私は・・・貴方が好き。」

ヒュー、とサンダルフォンが口笛を吹く。

「ここに来て愛の告白かい?まぁ、俺は300年前に同んなじことやってても目をつぶってやってたんだかな?」

ギクッ、と肩が震える。

「ルシファー、お前喧嘩強いし頭も切れるが、そういうとこ弱いぜ?家の裏ごときで誰一人気づかないと思ったか?」

「違う!これはそういう意味ではない!!」

ガブリエルが目を怒らせてサンダルフォンを睨む。

「フフ、変わってないね、ガブリエル。図星を言われて怒るところは・・・」

「やめろミカエル!!ああ、もう!!」

ガブリエルが俺の胸に顔を沈める。

「・・・ちとからかい過ぎたかな?」

サンダルフォンが頭をかきつつ言った。

「でも、そういうことです。ゼウス様。」

ミカエルは跪いた。サンダルフォンもそれにならう。

「今更信じて来たものを信じられなくなるなんて無理です。私たちはゼウス様についていきます!それに・・・ルシファーを裏切るなんてそんなことできません。」

俺はガブリエルに、いいのか、と聞いた。

コクリと頷く感触があった。

「皆・・・すまぬ・・・」

ゼウスが俯いた。

「さあ!」

景気をつけるようにサンダルフォンが立ち上がった。

「悪魔も退治したことですし、帰って宴会に致しましょう!!」

サンダルフォンが翼を広げた。

ミカエルも自身の翼を広げる。

「・・・ガブリエル。」

俺はまだ腕の中のガブリエルに言った。

やっとガブリエルが顔を上げる。泣いた後だからか、顔を真っ赤にして、やけに膨れている(膨れているのは多分怒りのせいだ)。

「機会があったら、また会おう・・・」

え、という当惑の表情のガブリエルを後に、俺は静かに目を閉じた。

そのまま、俺は深い闇に、落ちた。









あたりは混沌とした闇だ。その真ん中で、一人の男が胡座をかいて座っている。ルシファーとしての俺だ。

「全く、君は変わらないね。未だにガブリエルの気持ちにも気づいてあげれないのかい?」

「うるさい!瀕死の重傷負って死にかけてたのは何処のどいつだ!?」

「悪かったよ」

フン、という声と共に俺はドスッと座った。

「分かったら、さっさと交代しろ!今頃お前の体に戻って意識不明なんだからな。『機会があったら、また会おう』何て言っちまったし、勘違いして火葬されても知らんぞ」

「ええ!!そんなこと言ったの!?じゃあ急がないと!!」

ルシファーが慌てて記憶の間から出て行った。

「・・・済まんなガブリエル。」

俺はボソリと呟いた。

「叶わないんだよ、それは。なんせ俺は・・・」

拳をギュッと握ってごろりと横になる。

「二重人格だからな」







「二重人格だからね」

宴会の席で、僕は大天使達にそう告げた。

「まぁ、僕が後付けされた人格だから、主人格は向こうなんだけど・・・」

「ベリアルを堕天させないために、ってことか・・・」

ミカエルが言った。

そういうこと、と僕は言った。

「何せ神様親衛隊の隊長として創られた体だからね。相当強いよ。」

「ちょっと待って!」

話に割り込んで来たのは、ガブリエルだ。

「何故悪魔も・・・?天使だけでよかったんじゃ・・・」

「そこなんだ」

僕はリンゴをかじりながら言った。

「何故僕が創られたのか?悪魔はいらないはずなんだ。けど、僕はゼウス様の見守る中、生まれた。つまり、ゼウス様が創ったのは間違いない。何度も聞いたけど、それについては言ってくれないんだ。」

「存在するはずのない存在・・・それがお前、ルシファー・・・いやサタンか。」

サンダルフォンが酒を飲みながら呟く。

「というより、今度から何て呼べばいいの?

お前、ルシファーって偽名なんだろ?サタンって呼ぶのも結構抵抗あるけど・・・」

「それは皆に任せる。」

僕はきっぱりと言った。

「・・・ルシファー、でいいと思う。うん、それがいい。」

ガブリエルが言った。

「例え貴方が天使の見てくれでも、悪魔の見てくれでも、貴方は『天使』だった。ならば、サタンから昇天したってことで、ルシファーでいいじゃない?」

「なるほど、サタンが昇天したらルシファー、か。中々いいな。」

「じゃあこれからもよろしくな、ルシファー。」

ミカエルがグラスを上げた。サンダルフォン、ガブリエルもガラスを上げる。

僕は苦笑しながら、ガラスを上げた。

「じゃあ、新生ルシファーを祝って、」

「乾杯!!」

カチン、とグラスを合わせる音が夜の天界にこだました。







「・・・そうか、やはり『ヤツ』が目覚めたか・・・」

「ええ、すでに目覚めた模様です。どうします?」

「いや、このことを今知らせるべきではない。また、情報収集を頼む。」

「分かりました。このウリエル、命に代えてでも、ヤツの情報を集めて参ります。」

うむ、とゼウスは頷き、ウリエルとのコンタクトを切った。

ドアを叩く音がする。

どうぞ、と言うと、失礼します、という声と共にルシファーが入ってきた。

「ゼウス様、何やら悪い予感が致します。何かあったのですか?」

「ああ、最悪の魔王が目覚めた。」

「最悪の魔王・・・?まさかッ!」

「ああ、その通りじゃ」

ゼウスは窓から人間界を見下ろして言った。

「ベルゼブブ・・・悪魔界最凶の魔王、『ハエの王』じゃ。」

ふと気づくと、雨が降っていた。

天界に雨が降ると良くないことの起きる前兆とされている。

ルシファーの心配を掻き消すように、黒い雨が天界を濡らした。













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