表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

第22節 木の上へ

 セントラル・エリアの中央にある願いの大樹と呼ばれている巨木。

 その根元にノノン、マノン、リノンの姿があった。


「本当にここに来るとは……」


 いまだに状況が信じられないリノンに対して、ノノンとマノンは大して言葉を発することなく、じっと願いの大樹を見上げている。


「シノンはここにいるの?」

「はい。本日の妖精議会は閉会しているので間違いないかと」

「了解。それじゃパパっと行きますか」


 マノンはリノンの様子など気にも留めることなく、そのまま願いの大樹の根元から飛び立つ。

 それに置いて行かれまいとリノンも飛び立ち、それに続くようにしてノノンの地面をけった。


「それにしても、いきなり乗り込むってどいうつもりなの? というか、なんでシノン様? いや、今頃何を言っているのっていうことかもしれないけど」

「……いきなりカノン様のところに行くにはちょっとリスクがあるでしょ? だから、シノン様がどこまで把握しているか……あわよくば味方につけたいとかそういったあたりよ」


 答えたのはマノンではなくノノンだ。

 ある意味で最もな意見かもしれないが、それでも疑問は残る。


 彼女の言い方からすると、シノンの立場は明確にわかっていないということなのだろう。そういった前提に立って、こういう行動を起こすというのは少なからずリスクが伴うはずなのだが、そのあたりまで織り込み済みなのだろうか?

 そのあたりの真意が全く読めない。むしろ、読もうとすることさえできないというのが正しいのかもしれない。


「リノン。今から大勝負だから気を引決めてね」


 頭上からマノンの声がかかる。

 彼女からしても、今回の行動は大きいな賭けだということなのかもしれない。


 これが成功すれば、話は一気にいい方向へと進むが逆だと悲惨なことになる。


 シノンはカノンの次に強い力を持っている妖精だ。

 そんな彼女を敵に回せば、実質的にこの森に味方はいなくなる。おそらくは森を追い出されて外で暮らすことになるのだろう。

 そうなれば……そうなれば、おそらくリノンたちは生きていけないだろう。


 いや、正確に言えば妖精には実質寿命は存在していないので生き続けることはできるだろうが、これまでまともに見たことのない人間社会で暮らせるかと聞かれるとまったく別の問題になってしまうのだ。

 妖精が妖精独自の社会を形成し、生活をしているのと同様に人間は人間独自の社会を形成している。亜人を排除し、純粋に人間だけの社会を手に入れた彼らからすれば、妖精など邪魔でしかないだろう。

 必然的にリノンたちは社会の陰で敵の存在におびえながら暮らすことになる。それはどうしても避けたいところだ。


「……これからのことが心配?」


 そんなリノンの心情を見透かしたかのようにノノンが声をかける。


「不安がないといえばうそになります。仮に今回の事がうまくいっても私たちは妖精の森で元の地位を保つということはないでしょうし、もしかしたら平穏というのはもう訪れないのかもしれません」

「……そんなに待地面答えなくてもいいのに……でも、そうね。将来に対する漠然とした不安。それは誰しも持つものよね。でもね。でも、それを乗り越えないと変化なんてないのよ。あなたがそれを望んでいるかどうかは知らないけれどね」


 彼女はリノンの背中をポンとたたくと、そのまま高度を上げてマノンの横に並ぶ。

 その背中を見たリノンは小さくため息をつく。


「だから、大妖精っていう種族は嫌いなんだよ」


 そんなつぶやきのあと、リノンもぐんと高度をあげてマノンのすぐ下につく。


「マノン準備は?」

「問題ありません。今のところ順調です」


 彼女がいう準備の意味をリノンはわからない。

 しかし、それがカノンの計画とやらを阻止するためのモノだというのは明白だ。


 リノンとしてはそれが何なのか聞きたいと思うが、それをして行動が遅くなっては意味がないし、リノンに関係があるのなら、事前にノノンから説明があるはずだとその思考を片付ける。


「マノン。あなたは先に行って。リノンは私と一緒に今の速度を維持」

「了解しました」


 ノノンの指示を受けてマノンはぐんと速度を上げて木の上に向けて飛んでいく。


「リノン。そういえば、さっきの続きだけどね」

「さっきの続きって……外に出るのが不安かどうかって話ですか?」

「そう。それに関して補足していくけれど、外に出たら出たで意外とやっていけるものだと思うわよ。最初は大変かもしれないけれど、あなたを保護……いえ、理解してかくまってくれるような人は必ずいるし、もしもの時は多少なりとも心当たりがあるから紹介してあげるわ。人間が皆が皆亜人を嫌っているという事実なんて存在していないし、むしろ亜人の方が人間を警戒しすぎだっていうぐらいだから。とまぁ不安もなくなったところで無駄話はこれぐらいにして私たちも急ぎましょうか」


 ノノンは一瞬リノンに笑顔を見せたのちに再び表情を引き締めて速度を少しずつ上げる。

 リノンはそれに置いて行かれまいと彼女に合わせて速度を上げていった。


「……結構早く飛べるのね。妖精なのに」

「空を飛ぶ速さについては妖精も大妖精もあまり変わらないと思いますけれどね」

「そう? だったら、どっちが先にマノンに追いつけるか勝負でもしてみる?」

「そんなことしている場合ですか。というか、そんなことしていたらマノンを先に行かせた意味がなくなるとかそんなことはないんですか?」


 少し上を飛ぶノノンがクスクスと笑い声をあげる。


「大丈夫。そうなったらなったで適当に対処するから。ほら、おいて行かれたくなかったらついてきなさい」


 ノノンは楽し気な口調で放たれたその言葉を残して一気に速度を上げる。


「えっちょっと! 待ってくださいよ!」

「さっき、大妖精は嫌いだとか言った罰よ。ほら、さっさと速度をあげなさい」


 あくまで楽し気な口調のままノノンはそのまま木の上の方へと消えていこうとする。


 この地獄耳が!


 リノンは今度は声に出さないように気を付けて、心の中で毒づきながら速度を上げる。

 気が付けば、とても高い木の中間地点を通り過ぎ、シノンがいると思われる願いの木の上部が目の前に迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ