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間奏 面白い真実

 妖精の森との異名を持つシャルロの森の奥深く。

 セントラル・エリアと呼ばれるそこは普段であれば大妖精以外の立ち入りは禁じられている。


 もっとも、妖精議会が行われている現在は自由に出入りができるのだが……


 そんな場所を議会に参加するわけでもなく一人歩いている妖精の姿があった。


 普段とは様子が違う妖精議会に疑問を持ち、独自の調査を続けているヒノンだ。


 いったんはリノンとともに調査をやめる気でいたのだが、やはり納得がいかずにいまだに情報収集に努めてるわけだ。とはいっても、集まった情報など皆無に等しく、それほどうまく大妖精たちはことを隠しているのだという推論とも言えないような推論が導き出されただけだ。

 だが、それでもヒノンの好奇心はさらに増していって、この議会の裏に何があるのかという思いだけが湧き上がってくる。


 もちろん、それの追及が危険なことだということも理解しているが、その程度の事では好奇心は抑えきれない。むしろ、ヒノンの好奇心をもっと刺激した。

 もともと、ヒノンというのはそういう妖精なのだ。自らの好奇心を満たすために日夜自分の興味のあるモノを探して、調べて、蓄積していく。その一方で興味がなくなれば一切見向きはしない。これまでずっとそうしてきた。

 だからこそ、今回もそういった行動を取っているわけである。


「さてと、次はどこへ調べに行こうかな」


 もう一つ情報が加えられるとすれば、今回のような場合、彼女にとって真実というのはどうでもよかったりする。

 彼女が求めているのは、真実ではなく彼女が満足のいく結論。ただそれだけだ。


「おやおや、これはこれは誰かと思えばヒノンさんじゃないですかぁ」


 そんな彼女の耳に皮肉たっぷりな口調でその言葉は届いた。


 ヒノンが振り向けば、そこにはピンクの髪をサイドテールでまとめている妖精が立っている。

 キノンという名のその妖精はニタニタという効果音が付きそうな笑みを浮かべて、ヒノンの目の前へと歩み出る。


「キノンか。どうかしたの?」

「別にぃこれといってありませんけれどぉ。あなたがまぁたくだらなぁいことをしているようなのでぇ、話しかけてみただけですよぉ。今度はぁ何を調べているんですかぁ?」


 キノンは完全にヒノンを見下すような態度を取って接する。

 だが、それに大してヒノンは大して動揺するわけでもなく、自分の興味対象について簡単に説明する。


 最初そこ素直に話を聞いていたキノンであったが、ヒノンがすべて話し終えると、大きくため息をついた。


「まったく、あなたは相変わらずしょうもないことを調べて追及したがるんですね」

「まぁそれが私っていう妖精だからね。性分だからやめられないよ。まぁいつも通り真実なんてどうでもいいんだけど」

「相変わらずね。あなたは……」


 何かの物事に対して、興味を持てば常に追求し続けて、自分の望み通りの真実を見つけ出す。

 そんな彼女の特性をよく理解したキノンの一言に対して、ヒノンは大して興味を示さずに鼻を鳴らす。


 もちろん、ヒノンとて昔からそうだったわけではない。


 最初こそ本当に何が起きているのか徹底的に調べようとしていた。

 しかし、ある日それが間違いであると気付かされた。


 事件の詳細までは覚えていないが、調べれば調べるほど闇が深くなっていき、大妖精の普段ならば絶対に見れないであろう暗闇の面が次から次へと見えてしまったのだ。

 幸いにもカノンはじめ大妖精たちには感ずかれなかったようだが、もしもあの時にさらに真実を追求しようとしたらどうなっていたかわからない。最悪、この森から追い出されていただろう。


 大妖精たというのはそれほどまでに危険で深い闇を持っているのだ。


 そして、その事実をほとんどの妖精たちは知らない。おそらく、自分たちをまとめ上げるリーダーだという程度の認識だけだろう。それはかつてのヒノンもそうだったから、自信を持っていうことができる。


「それにしても、今回の妖精議会は確かにおかしいですね。これに関して、今回はどんな真実をお求めで?」

「そうね。妖精議会で大々的に議論ができる場をと考えたものの失敗して大荒れになり、それを終息するために大妖精が躍起になっているぐらいだったら面白いかもね」


 ヒノンの言葉にキノンはクスクスと笑い声をあげる。


「それは確かに面白いわね。まずはそのために大妖精がてんやわんやしている様子を探さないと」

「そうそう。だから、今こそこそと準備しているわけでしょ? まったく、たまにはほかの妖精と組んでみたいけれど、なかなかこの考え方を正しい意味で理解してくれない人が多いのなんので……結局、また私一人で進めることになるんだよね」


 そういいながらヒノンが手にするのは上質な紙とガラスペンだ。

 彼女がちょっとした事情から手に入れた道具であり、彼女の宝物となっているモノである。


 ガラスペンを天にかざせば、それは光に当たりきらきらと輝きを見せる。


 ヒノンはこの輝きが何よりも好きだった。


「……このペンのきれいさみたいにさ、きれいな真実さえあればこの世の中は回っていくのにね。変に真っ黒で汚い真実なんて誰も知りたくないはずなのに誰もがそれを追求する。特に人間なんてそうらしいじゃない。何が面白いのか全く理解できないわ」

「まぁそうはいってもいつの時代でも真実を知りたい奴らはいるのよ。そして、いつの時代も革命者や改革者は真実をよく知り、それを打破したいがために真実を表にさらそうとする……そういうものじゃないかしら?」


 キノンの言葉にヒノンはこれまたつまらなそうな表情を浮かべる。

 真実なんてどうでもいい。本当の意味ですべての真実をするということは本来損をするということのはずだ。

 世の中には都合のいい真実と絶対に知ってはならない真実がある。今回の出来事をはじめとして妖精関連の謎はほとんどが後者にあてはまる。


 それほどまでに妖精は……いや、大妖精という種族の闇は深いのだ。


「さて、そういうわけだから私は私好みの真実を探しに行ってくるわ」


 そういって、ヒノンは立ち上がってその場から飛び上がる。


「変なねつ造で後ろから刺されないように気を付けなさいよ」


 背後から聞こえてきたキノンの忠告に耳を傾けながら、ヒノンは森の木々の上に向けてぐんぐんと高度を上げていった。

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